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    Jeff

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    お題:「炎」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/02/04

    #LH1dr1wr

    Blaze「まだ戦う気か。とうに勝負は見えたはずだ」
     ヒュンケルが静かに友を諭す。
     紫水晶の瞳に慈愛すら滲ませて、敗者ラーハルトを見下ろした。
    「まだだ……まだ終わってはいない」
     地上最強の戦士、誇り高き陸戦騎の辞書に、敗北の二文字はない。
     ましてや、廃人同然の元戦士に後れを取るなど。
     肩で息をしながら言い募る。
    「再戦だ。これは何かの間違いだ、俺が敗けるわけがない」
     ヒュンケルは親友のらしくない足掻きを前に、寂しげに目を伏せる。
    「いいだろう。だが、現実を思い知るのはお前のほうだ」
     厳かに腰を下ろし、じっと地面を見つめる。
     ラーハルトも息を整え、どさりとあぐらをかいた。
     高まる集中力に、空気の重さが変わる。
     小鳥は鳴き止み、風は消え、木漏れ日すら凍りつく。
     彼らの真ん中で寝ころんでいたゾンビ犬バリイドドッグが「お座り」の姿勢をとり、咳払いする。
     誇らしげに鼻先を上げると、満を持して、高らかに吠えた。
     それを合図に、二人一斉に地面に手を伸ばす。
     ……一瞬、ヒュンケルのほうが早かった。
     精神を統一した(つもりの)ラーハルトの呪文がのんびりと集束していく間に、一心不乱に金具で石を打つヒュンケルの手元から煙が上がる。
     用意した干し草を素早く摘み取り、火種を柔らかく添わせると、さらに煙が勢いを増した。
     ラーハルトが火炎呪文を維持して焚火を成立させる数秒前には、ヒュンケルの火が煮込調理可能なくらいにしっかりと育っていた。
     おどろおどろしい頭蓋骨の上で一部始終を見守っていたおおがらすが、けぇ、と鳴いて、ヒュンケルの方に翼を上げた。
    「また俺の勝ちだな」
     悠々と腕組みするヒュンケルに、
    「嘘だ! 炎の安定性では俺が勝つはずだ――おい鳥、貴様、元不死騎団長に忖度しおったな」
     審判のおおがらすは気難しく眼を閉じて、くちばしを振った。
    「誰が見ても俺の勝ちだ、往生際が悪いぞラーハルト」
     そもそも、ヒュンケルが河原で縞瑪瑙アゲートの塊を拾ったのが始まりだった。
     これで火が起こせるんだ、父さんに習ったからな、と得意げなヒュンケルに、常日頃焚き火担当のラーハルトも黙っていない。火起こしタイムトライアル対決にもつれ込んだのだ。
    「それにしても……魔法はさして得意ではない、などと言っていたが。まさか、これほどとはな」
     同情混じりのヒュンケルの視線に、半魔のプライドらしきものを初めて傷つけられた。ラーハルトはぎりぎりと拳を握る。
    「黙らんか。呪文のひとつも使えんくせに」
     副審のももんじゃたちがわらわらと駆け寄ってくる。小さき怪物が手際よく氷系呪文ヒャドで炎を始末するのを、苦々しく見守った。
    「しかし、こんなに遅くて小さい火炎呪文メラは珍しいといつも思っていたぞ」と、人の気も知らないヒュンケルは感心している。
    「まさか俺の人力発火にも劣るとは」
    「家事に問題はないだろうが。それに」
     と、ラーハルトは重々しく言葉を切る。
    「これはメラではない」
     ヒュンケルははっとして、親友を凝視した。
    「まさか……」
     ラーハルトは咳払いして、
    「メラミだ。――契約上は」
     優しい春風が吹き抜けていく。
     ややあって、ヒュンケルが静かに口を開く。
    「……魔法力のあまりの低さに、高位の呪文すらマッチ棒以下に威力を落とすのか。そんな現象は前代未聞だ。あの大魔王にすら不可能な技だ。なんと言うことだろう……」
    「やかましい」
    「気に病むことはない。それに、俺の火起こしが天才的に上手いだけだ。お前のせいじゃない」
    「魔法も使えないくせに、なぜそこまで威張れるんだ。くそ」
    「もう一度やるか?」
     珍しくラーハルトに勝てて上機嫌のヒュンケルがけしかける。
     ラーハルトはなけなしの残マジックポイントから逆算して、
    「もちろんだ。貴様の言う科学とやらがいかに眉唾か、正統に魔法で証明してくれる」
    「意地を張らずに、俺の方法を学べばいいのに」
    「お前こそ、せめてメラのひとつも習得しろ」
     ぶつくさ言いながら二人が対戦姿勢に戻ると、もこもこ太ったおおきづちたちがせっせと小枝を積み上げてくれた。
    「これで最後だからな」
    「もちろんだ。二言はない」
    「さっきもそう言ったくせに」
     娯楽の少ない森の奥、興味津々なモンスターたちのギャラリーがまた増えた。
    「今度こそ決めてやる」頭のてっぺんにホイミスライムを乗せたラーハルトが、大きく息を吸って魔法力をかき集める。
    「勝負……!」気迫の呟きと共に、ヒュンケルがしがみついて来るベビーパンサーを優しく押し除ける。
     バリイドドッグは、またですか、と言いたげにのっそりと起き上がる。
     そして腐った肺を膨らませると、おおんと吠えた。



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