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    Jeff

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    お題:「逃走」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/06/17

    Fugue「解離性遁走、ですね」
     ラーハルトは擦り切れそうな微笑みに憤怒を込めて、
    「分かるように言え」と絞り出す。
    「要するに、現実世界を越境して、安全な場所に逃げ込んでいるんです」
     祈祷師シャーマンは何気なく続ける。
    「きっかけは様々ですし、何に擬態するかもわかりません。大丈夫、数日で戻ることがほとんどですから」
    「数日だと?」
     と、傍らの少年を――もとい、精神だけ子供に化したヒュンケルを抱きかかえる。
    「ええ。まずは様子を見て、マズそうだったらまたおいでなさい」
    「マズそうだったら?」
    「ええ」
     緊張感のないやりとりだった。
     ヒュンケルの師が紹介した人物だ、信用できるはずだ。だが、こちらの心配をよそに拍子抜けするほど楽観的な診察だった。

    「ねえ、お兄ちゃん」
     目線も変わらぬ青年が、奇妙に高い声で呼びかける。
    「晩御飯なに?」
     ラーハルトはこめかみを押さえて、「貴様、説明を聞いていたのか」
    「せつめい?」
     つないだ手をぶんぶん振りながら、元・不死騎団長が小首をかしげる。
    「何が原因だか知らないが、とっとと元に戻れ。もしくは、せめて子供の姿に変化するとか――理解しやすい変化を遂げてくれないものか」
    「おれ、六歳だし、子供だと思うけど……」
    「分かった。分かった、もういい」
    「ねえ、父さん、まだかな」
     突然の言及に、ずきりと胸が痛んだ。
    「きのう迎えに来てくれるって言ってたけど、お仕事、長引いてるんだね」
     淡々とした物言いが、かえって重苦しい。
     しばし沈黙ののち、ラーハルトが口を開く。
    「何が不満だった」
     ヒュンケルが振り返る。
    「普通の日々だった。普通の朝だった。何がトリガーだったんだ?」
    「ふつう……?」
     ヒュンケルがおどおどと返事する。
    「俺が何かしたか。なぜ、突然現実から逃げた。演技か。あてつけか。言いたいことがあるならはっきり言え」
    「おれ、言いたいことなんかないよ」
     と、ヒュンケルが俯く。
    「幸せだもん」
    「だったらなぜ」
    「だって、」
     ヒュンケルが立ち止まる。
    「あれ……?」
     そのまま立ち尽くす相棒を振り返り、ラーハルトはゆっくりと歩み寄る。
     銀色の前髪の奥に揺れていた瞳が、徐々に焦点を取り戻す。
    「……ラーハルト?」
     大きく息を吐いて、ラーハルトは恋人の目の前でひらひら手を振ってみる。
    「?」
    「戻ったか」
    「何がだ?」
     素っ頓狂な声をあげるヒュンケルを置いて、てくてく歩きだす。
    「何でもない」
    「待て、ラーハルト。待ってくれ……なんだか不思議な白昼夢を見ていたようだ。俺は何か言ったか?」
     駆け寄ってくるヒュンケルを肩越しに感じつつ、
    「気にするな」
     忘れろ。
     そう念じながら、小さな覚悟を決める。
     これはきっと、ヒュンケルの生涯を通じて再発する、ちょっとした病だ。
     常にそばにいて、見守ってやらなければ。

     ……ほかの誰かに、この役目は渡すまい。
     
     
     
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    ムーンストーン

    DONEダイの大冒険 リア連載時から疑問だったバルトスの敵討ちについて書き連ねました。
    以下バルトスファンとヒュンケルファンには申し訳ない話しが続きますが個人の感想なのでお許し下さい。

    ハドラー(造物主)のから信頼より子への愛情を取って責任追及された事をメッセージに残す=ハドラーへ遺恨を残すことになりませんかとか魔物と人間とは騎士道精神は共通なのねとか。
    ダイ大世界は生みの親〈〈〈育ての親なのかも。
    20.審判(ヒュンケル/ランカークス村)〜勇者来来「勇者が来るぞ」
    「勇者に拐われるから魔城の外に出てはならんぞ」
    懐かしい仲間たちと父の声が地底魔城の地下深く、より安全な階層に設えられた子ども部屋に木霊する。
    この世に生をうけ二十年余りの人生で最も満ち足りていた日々。
    ヒュンケルがまだ子どもでいられた時代の思い出だ。


    「暗くなる前に帰んなさい!夜になると魔物がくるよ!」
    黄昏に急かされるようにランカークス村のポップの家へ急いでいた時、ふいに聞こえてきた母親らしい女の声と子供の甘え混じりの悲鳴を聞いてヒュンケルとダイは足を止めた。

    ヒュンケルが声の主はと先を覗うと見当に違わず若い母親と4〜5才の男の子が寄り添っていた。
    半ば開いた扉から暖かな光が漏れ夕食ができているのだろうシチューの旨そうな匂いが漂う。
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