Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Jeff

    @kerley77173824

    @kerley77173824

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 53

    Jeff

    ☆quiet follow

    お題:「逃走」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/06/17

    Fugue「解離性遁走、ですね」
     ラーハルトは擦り切れそうな微笑みに憤怒を込めて、
    「分かるように言え」と絞り出す。
    「要するに、現実世界を越境して、安全な場所に逃げ込んでいるんです」
     祈祷師シャーマンは何気なく続ける。
    「きっかけは様々ですし、何に擬態するかもわかりません。大丈夫、数日で戻ることがほとんどですから」
    「数日だと?」
     と、傍らの少年を――もとい、精神だけ子供に化したヒュンケルを抱きかかえる。
    「ええ。まずは様子を見て、マズそうだったらまたおいでなさい」
    「マズそうだったら?」
    「ええ」
     緊張感のないやりとりだった。
     ヒュンケルの師が紹介した人物だ、信用できるはずだ。だが、こちらの心配をよそに拍子抜けするほど楽観的な診察だった。

    「ねえ、お兄ちゃん」
     目線も変わらぬ青年が、奇妙に高い声で呼びかける。
    「晩御飯なに?」
     ラーハルトはこめかみを押さえて、「貴様、説明を聞いていたのか」
    「せつめい?」
     つないだ手をぶんぶん振りながら、元・不死騎団長が小首をかしげる。
    「何が原因だか知らないが、とっとと元に戻れ。もしくは、せめて子供の姿に変化するとか――理解しやすい変化を遂げてくれないものか」
    「おれ、六歳だし、子供だと思うけど……」
    「分かった。分かった、もういい」
    「ねえ、父さん、まだかな」
     突然の言及に、ずきりと胸が痛んだ。
    「きのう迎えに来てくれるって言ってたけど、お仕事、長引いてるんだね」
     淡々とした物言いが、かえって重苦しい。
     しばし沈黙ののち、ラーハルトが口を開く。
    「何が不満だった」
     ヒュンケルが振り返る。
    「普通の日々だった。普通の朝だった。何がトリガーだったんだ?」
    「ふつう……?」
     ヒュンケルがおどおどと返事する。
    「俺が何かしたか。なぜ、突然現実から逃げた。演技か。あてつけか。言いたいことがあるならはっきり言え」
    「おれ、言いたいことなんかないよ」
     と、ヒュンケルが俯く。
    「幸せだもん」
    「だったらなぜ」
    「だって、」
     ヒュンケルが立ち止まる。
    「あれ……?」
     そのまま立ち尽くす相棒を振り返り、ラーハルトはゆっくりと歩み寄る。
     銀色の前髪の奥に揺れていた瞳が、徐々に焦点を取り戻す。
    「……ラーハルト?」
     大きく息を吐いて、ラーハルトは恋人の目の前でひらひら手を振ってみる。
    「?」
    「戻ったか」
    「何がだ?」
     素っ頓狂な声をあげるヒュンケルを置いて、てくてく歩きだす。
    「何でもない」
    「待て、ラーハルト。待ってくれ……なんだか不思議な白昼夢を見ていたようだ。俺は何か言ったか?」
     駆け寄ってくるヒュンケルを肩越しに感じつつ、
    「気にするな」
     忘れろ。
     そう念じながら、小さな覚悟を決める。
     これはきっと、ヒュンケルの生涯を通じて再発する、ちょっとした病だ。
     常にそばにいて、見守ってやらなければ。

     ……ほかの誰かに、この役目は渡すまい。
     
     
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜💜💜🙏🙏🙏😭🙏🙏💜🙏🙏🙏💜🍭🍬🍰🍦❣❣❣❣❣❣🙏🙏🙏💜💜💜💜💜🌠🙏💖🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏💜💜💜💜💜🙏😭💞💞💞💞💞💜💜💜💜💜
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works