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    chihomuuran

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    #LH1dr1wr
    第62回お題「墓参り」

    ラーの故郷が残ってるのであれば、ラーのルーツもそこにまだあるのだなあと
    オリジナル設定盛ってる注意
    飛び飛びで書いて3時間以上はかかっています…
    20230829

    小さな村だった。
    戦後の復興調査の旅をしている旨を告げ、大国の紋章入り封筒を見せると旅人はすぐに村の中心部に通された。

    「大魔王は倒れたが、長く続いた魔の脅威が完全に去ったわけではない。各地の被害とその復興状況に加えて、何か不穏な動きがないかも聞き取っている。必要なら中央からの後援をつなげる縁にもなろう」
    村長をはじめ集まった村の重役や年寄り達を前に、旅の身なりを解くこともなく、銀髪の青年は語りかけた。若いが、よく通る落ち着いた声。
    最初、村人達はこれといって被害など何も、と顔を見合わせた。なにせ辺鄙な場所の小さな村である。大戦での直接的な被害はなく、どちらかというと戦時下の流通や物価の乱れの方がまだ生活に影響があるくらいだ。そういう話題に傾きかけた。
    では、と旅人は他所での報告例を挙げ、より具体的な情報を求めることにした。
    「たとえばモンスターの出現、魔族との接触、得体の知れない現象、その他どんな些細なことでもあれば教えて欲しい」
    魔族、と聞いて村人の表情が幾分か曇ったのを旅人は見逃さなかった。
    「何か心当たりが?」
    「いや、関係ないことだ。もうずっと前のことだし」
    「関係ないかどうかはこちらで判断する」
    続きを促す旅人の目は有無を言わさぬ圧を帯びたようで、村人は言い渋る口を再び開いた。
    曰く、かつてこの村に魔族の男が1人現れたこと。村の娘と結ばれて子まで成したこと。魔族の男が早く亡くなったのと前後して旧魔王軍の侵攻が始まったこと。魔族への風当たりが強まり残された母子にも累が及んだこと。
    でももう何年も前の話だ、それ以降は何も起こっていない。
    村人の口調はまるで弁明するかのようだ。その後ろめたさを村全体で共有しているのか、そのまま誰もが口を閉ざしてしまう。訪れる沈黙。
    「──あの娘にはかわいそうなことをした、あの子供にも」
    隅の方でそれまでずっと黙っていた老婆がぽつりと呟いた。旅人は瞳をそちらに向ける。
    「◯◯も本当はそう思っていたんだ。だから死ぬ前に娘の墓を自分の隣に移したんだろうよ、あの村外れから」
    「◯◯とは?」
    「魔族と結婚した娘の父親さ。あぁ、あの子供はどうなったかねえ、混血の男の子。母親を弔った後、いつの間にかいなくなって……もしどこかで生きて育っていたら、おそらくアンタと同じくらいだったろうねえ若い旅のお方」


    「あのジジイ、死んだのか」
    夜の墓場を2人で歩きながら、ラーハルトはぞんざいに吐き捨てた。
    「話、聞こえてたのか」
    「聞こえるさ、あの村で昔いつもやってたことだからな」
    自分達にだけ回って来ない情報の収集、迫害からの先回り、子供の頃から人より優れた魔族の聴力に助けられてきた。それでも守りたい人は守れなかったけれど。
    思い出される暗い記憶に、知らずと足元の花を踏む。

    ヒュンケルと旅する途中、ラーハルトは故郷にこっそり立ち寄ることにした。バランに連れられて以来ずっと訪れていなかったが、村外れの母の墓にだけならと思ったのだ。だが2人で降り立ったそこには暴かれた跡があった。
    母の生前のみならず墓にまで辱めを、と怒りかけたラーハルトだが、これは墓を移した跡だ、と妙に冷静なヒュンケルに宥められた。
    「きちんとした儀式に則って移されているから故人の尊厳は損なわれていない。安心しろ、オレは墓には詳しいんだ」

    そして墓に詳しい元不死騎団長は仮の調査官に身をやつして村に行き、相棒の母の墓の在処を聞き出して来てくれた。
    人の気配の絶えた月夜、ようやくそこへ向かっている。
    「アバンの手紙が荷物に入っていて良かった、嘘に箔がついた」
    「封筒の中まで改められなくて良かったな、……ここだ」
    居住区から少し離れた村の墓所。立ち並ぶ墓石の中で比較的新しいものが2つ並んでいる。男性の名前と女性の名前。両方の墓をじっと見たのち、ラーハルトはしゃがみ込んで女性の名前の方をそっと撫でた。
    そのまま彼が石に額を近づけ何かを呟く気配を感じ、ヒュンケルは慌てて離れる。彼の家族との大切な語らいを盗み聞いてはいけない。そう思って気を使ったのに
    「どこへ行く」
    ラーハルト本人に止められてしまった。
    「どこへも。少し下がって待とうかと」
    「ここにいろ」
    そう言ってラーハルトは振り向いた。少し笑って。

    お前のことを母に話していたんだ。もうオレは独りではないと。
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