Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Jeff

    @kerley77173824

    @kerley77173824

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 50

    Jeff

    ☆quiet follow

    お題:「毒」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/07/23

    #ラーヒュン
    rahun

    1up「どうする」
     神妙に問うと、ヒュンケルも真剣な表情で、
    「……網焼きかな」と首を傾げた。
     そういうレベルの問題ではない、とラーハルトは思う。
     某国、手付かずのままの山林の奥地にて。
     焚火を前に鎮座しているのは、強烈な水玉模様。
     ガルーダの卵より大きい、謎のキノコだった。
    「いい匂いだ。伝承に偽りはなかったな」
     と、ヒュンケルは大勇者から借りた「きのこ大全集」のページを繰った。
     先の村で貰ったキノコが美味しすぎたせいだ。
     以来、二人は採取にハマっている。
     ついには究極の一株を求めて、古文書にまで手を出した。
     『奇跡の珍味。百年に一度、テラン奥地の満月に光る。
     神の滋養、この世のものならぬ美味』
    「確かに、見た目はそっくりだが。どう見ても毒キノコだぞ」
     緑色に真っ白な斑点。そしてこの禍々しいサイズ。
    「俺のカンに過ぎないが、たぶん大丈夫だ」ヒュンケルはあくまで楽観的だ。
    「……たぶん?」
    「命が一個増える、という魔法のキノコに似ている」
    「意味が分からない。なんだ、『一個増える』って」
    「巨大化してガメゴンの王と戦った兄弟の伝説を知らないのか」
    「知らん」
    「それに解毒呪文が普及した近代において、人々は大抵の毒を食してきた。まあ、大丈夫だろう」
    「あ」
     止める間もなかった。ヒュンケルは、ぱふ、とひと欠片ねじ切ると口に放り込んだ。
    「……」
    「……」
     そっと毒消し草のストックに手を伸ばしつつ、もぐもぐ味わうヒュンケルの顔色をうかがう。
     ややあって、ぱ、と目が輝いた。
    「美味しい」
    「……良かったな」
    「うむ。生でも食せる。初めて出会うコクと甘みだ。香りも素晴らしい。シチューにしたら最高だ」
    「よし。準備するか」
     ほっとして立とうとすると、ぐい、と袖を引っ張られた。
    「おい、お前も一口食べてみろ」
    「調理してやるから大人しく待て、なにも生で食べなくても」
    「毒で死ぬなら同じタイミングが良いし」
    「俺はごめんだ。しばらく観察して異常がなければ俺も食べる」
    「ひどいな。……ぷ」
     突然、ヒュンケルが草地に突っ伏した。そのままがたがたと肩を震わせ始める。
    「な……おい、だから言ったのに! 吐け、今すぐ!」
     引き起こそうとするが、どうも様子がおかしい。
    「い……いや、……違うんだ、ラー……ふふふふふふ」
     唇を引き攣らせて、ヒュンケルが顔を上げた。
    「……う。だめだ。くっ……止まらない。あははははは」
    「……は?」
    「無理だ。だめだ、全てが……くふ、何もかもが面白い」
     ひゃははは、と涙を流しながら笑い始めたヒュンケルに、心の底から脱力した。
    「……ワライタケ?」
     ぽむぽむと背中と叩いてやると、一段と笑い声が軽やかになった。
    「笑うお前は貴重だな」
    「うる。さい……くくく……楽しすぎて苦しい」
    「自業自得だ。治るまで笑ってろ……むぐ?!」
     一瞬の隙を突かれた。
     ヒュンケルが隠し持っていたもうひと欠片を、哀れなラーハルトの口へとねじ込んだのだ。
     どうにか嚥下して、は、と事態を認識した。
    「き、貴様……!」
    「ふ……あははは、道連れだ、くくく」
    「どうしてくれる! このまま笑い死んだら、誰が助けを……く」
    「ははははは」
    「う……ぷふっ」
    「そ、そんな顔するな、ラーハルト……笑わせる気か……うぐ」
    「こ、堪えてるんだっ……おのれヒュンケル……許さん……ふははは」
    「や、宿で試してみなくて、よかった、ぷぷぷ」
    「だから、一応帰ってからにしようと……どうするんだこんな森の……ふははは……真ん中で……」
    「きゃはははは」
     陽気な騒ぎに惹かれたのか、いつの間にか、目をきらめかせたシカの親子、キャットフライの夫婦やドラキーの群れ、宵っ張りのスライムたちがふらふら集まってきた。
     最初は心配そうに取り巻いていたが、危ないことはなさそうだと悟ると、笑い転げる二人を嬉しそうに突っつき始めた。
     それすら可笑しくて、もう止めようがない。
    「なぁ、お、覚えてるか」
    「ひ……ひひひ、何を」
    「この前の、道具屋の、ふふふふ、親父が」
    「がはははは」
    「ヒムに、ちょっと似ていて、ははは」
    「あははははははは」
     どうしようもないことを思い出すたびに笑いが噴き出し、頭の中が天真爛漫な花畑で埋め尽くされる。
     面白くて仕方がない。
     互いにひっ絡まりながら笑い続けて、ようやく落ち着いてきたころには朝焼けが燃えていた。
    「ぜえ……はあ……」
    「もう一生分笑った……貴様のせいだ」
     普段使わない筋肉が疲労困憊している。肋骨が折れなかったのは不幸中の幸いだった。
    「ああ……ある意味、修行を経てレベルアップした気分だ」
    「やかましい」
     死闘のあとの如く地べたを這いながら、どうにか水筒を開けて喉を潤す。
    「頼むからもう、絶対に、面白いことを言うな……ぶり返す」
    「そっちこそ……う」
     ヒュンケルが振り返った先には、寝不足でぐしゃぐしゃなラーハルトの仏頂面があった。
     頭のてっぺんに、ちょこんとスライムを乗せたまま。

     ふたたび爆発した笑いの発作が収束するまでに、更に小一時間を要した。
     
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏😂🍄😆😆😆😆😂😂🍄🍄😆😆😂😂😂🍄🍄🍄😂🍄😂🍄😂🍄😂😂😂👍😂😂😂👏💜💜☺☺☺⚕💜💜💜😂😂😂👏👏🍄🍄💜🙏🌋😍💜💜💜💜💜👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works