嘘短文 ヌーヌーと泣いている声を頼りに路地を巡り、ようやく目当ての場所へと行き着いてロナルドは溜息を吐いた。しゃがみ込み、アルマジロを撫でて壁際に崩れていた灰をざらりと掴む。
「おい、なに死んでんだ。ジョンが泣いてんじゃねえか。勝手に俺じゃないやつに殺されてんじゃねえよ」
「いつも君が私たちをおいていくくせに、随分なご挨拶だな。大体私の心臓は君が持ち歩いてるんだぞ。心臓が近くになければ復活できないと言っただろ」
「言われてねえな」
あれ、そうだっけ、と惚けた砂がさらりと崩れ蠢き、ロナルドは帽子のつばの下でほっと安堵の息を吐いた。見下ろす先の塵と使い魔からは丸見えだろう。ロナルドは顰めっ面をして帽子を引き下げ、立ち上がる。
「さっさと蘇れよ。今夜は守ってやる。朝方になったら事務所に戻って、お前は寝てろ」
「私たちの城、もうダメじゃない?」
「ダメではねえわ」
さらさらと舞う砂が、ロナルドへと纏わり付いた。袖口や襟から入り込む、何故か羽根で擽られるような、指先が掠めていくような感触が左胸のハートの形をした石へと集中して触れた。半ば同化したロナルドの退治服が、この吸血鬼の黒色のマントのように裾を靡かせ装飾を落とす。あの細い躯に巻き付けたようなぴたりとしたデザインだが、生憎ロナルドの体格では細身のコートには見えないだろう。
「……なんだよ。戻れっつったろ」
似合ってんのかこれ、似合わねえだろ、こいつの趣味なのか、と考えながら左胸に手を当て、月の光にきらきらとした僅かに周囲を舞う塵に文句を言うと塵はンフフ、と憎たらしい顔が見えるような気配で嗤う。
『少し疲れちゃったんだ。休ませてくれ、ロナルド君』
「………、……仕方ねえな。回復したらすぐに出てけよ」
『はいはい。相変わらずのお人好し退治人だな、君は』
「そのお人好しに心臓くれてやるテメーのほうがよっぽどだろ」
そこは利害の一致があっただろ、と嘯いて、ドラルクはあとは黙ってしまった。この状態で彼が言葉を発すること自体が珍しい。無理をしていたのかもしれない。
ロナルドはまだ目を涙にうるうるとさせていたジョンを抱き上げた。するすると形をなしたスーツの袖に白手袋の腕が、使い魔の頭をちょいちょいと撫でてまた塵へと戻っていく。
「じゃあ、行くか、ジョン。腹減ってねえか? ギルドに寄ろうぜ」
「ヌー」
よし、決まりだ、と腕の中の使い魔に笑い肩へと乗せ、ロナルドは塵と戯れている彼を落とさないよう気を配りながら、暗い路地を素早く駆けた。