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    rio_bmb

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    プチオンリーのペーパーラリーに参加させていただきました!字が細かすぎるのでテキスト版。モクチェズ前提のオールキャラ、アナザーエンド後のSSです。(モクチェズ以外は全て非恋愛関係として書いてます)

    #モクチェズ
    moctez

    Catch Me If You Can【B】

    「クソ詐欺師の居場所なんざ知るわけねえだろ」
    『だよなあ。僕もそう思ったんだけど、チェズレイのことだから、逆に裏をかいて君のところにいるって可能性も捨てきれなくて』
     タブレット越しのルークが照れたように言う。
     まったく、相変わらず妙なところで冴えてやがる。刑事の勘ってやつか?
     アーロンはその推理がそう的外れもないことを相棒に教えてやることにした。あの詐欺師に義理立てする必要もないからだ。
    「惜しかったな。つい昨日まで確かにあいつはハスマリーにいたぜ」
     ほんと!? と叫んだのはルークではなくモクマだった。血相を変えてルークとタブレットの間に割り込む。部屋にいるのはわかっていたが、気配を隠そうとしていたようなので無視していた。慌て方からして、チェズレイを探しているのはルークではなくモクマなのだろう。
    (やっぱりおっさん絡みかよ)
     アーロンは舌打ちして画面を睨んだ。
     チェズレイの迷惑行為の原因など九割がたモクマのせいだと相場が決まっている。そして残り一割はアーロンに対する嫌がらせだ。
     それでもアーロンには絶対に借りを作りたくなかったのだろう。チェズレイはアラナと子どもたちに支援物資を送りつけ、アーロンには政府に武器を流す密売人のアジトの情報を寄越した。
    「宿代は支払いましたから、これで貸し借りはなしということで」
     と前置きして、仮面の詐欺師は三日間アジトに居座った。曰く「あなたの顔を見ていると多少は頭が冷えるので」。馬鹿にしやがってと蹴り倒したくなったものの、彼は持ち前の外面の良さであっという間にアラナたちを手懐けてしまった。
    「言っとくが、オレはあいつの行先なんて本当に知らねえからな」
    『だよねえ……』
     画面の向こうのモクマがしょんぼりと項垂れる。それをルークが脇で慰めていた。
    「つーか、あんたいったい何やらかしたんだよ」
     事情は知らないが(というか、知りたくもない)、どうやらチェズレイはモクマから逃げているらしい。だったら、やらかしたのはおっさんのほうだろう、とアーロンは冷静に分析した。
     たいていのことならチェズレイのほうが折れる。それなのに行方をくらましたということは、モクマがよほどあの男を怒らせたのか。
     呆れてため息をついたアーロンに、モクマは誤魔化すように「いやあ、あはは。まあ、ちょっとね……」と苦笑いを浮かべた。
    「とりあえずもうハスマリーにいないってわかっただけでも助かったよ。ルークもアーロンもありがとね。あとは自分で何とかするから」

    【O】

    「あ、あの人に会わなくていいの……?」
     か細い声で問われて、チェズレイは瞠目し、それから余所行きではない微笑を浮かべた。
     眼前の青年――シキの後ろには岩のような巨躯の男がひっそりと佇んでいる。チェズレイを睨む眼光は鋭く、己の命に代えてもこの青年を守ろうとする意志が伺えた。
    「必要ありません。私には彼と話すことなどないし、彼のほうも同じことでしょう」
    「ご、ごめん……」
    「いえ、お気遣いに感謝いたしますよ」
     では私はこれで、と会釈をして踵を返したチェズレイの背に制止の声がかかった。
    「ま、待って!」
    「まだ、何か?」
    「……あの、コズエさん、具合、どうだった?」
     おずおずと問われた言葉にチェズレイは苦笑した。どうやら島を訪れてからずっと監視されていたらしい。その辺りはさすがにナデシコも抜け目がないようだった。それくらいでなければ、警視総監など勤まらないだろうが。
     チェズレイは改めて青年を見つめた。
     『幻影』に人生を狂わされた者同士、彼のことはある種同胞のように感じていた。己らしからぬことだが、その誼でひとつ助言でもしてみるかとお節介な考えが浮かんだのだ。
    「ハッカー殿、それはご自分で確かめるべきことですよ。私を監視していたなら、今はだいぶよくなられたことはご存じでしょうが、それでも心配なのでしょう?」
     裾をきゅっと握りしめてシキは俯いた。
     初秋の冷え込みのためか、コズエは数日前から体調を崩していたようだ。チェズレイが訪ねた時にはほとんど快癒していたが、これまでの心労が祟ったのだろう。それでも彼女はチェズレイの突然の来訪を快く歓迎してくれた。
     モクマの近況を尋ねられ、当たり障りのない範囲で元気にしていると伝えると、ほっとした顔をしていた。そのモクマを置いてチェズレイが一人で訪ねた理由を問うことはなく、代わりにモクマの少年時代の話をいくらか話してくれた。
     彼女自身も多くを喪ったというのに、モクマの放浪の二十年間に対して今も強い罪悪感を抱いているようだった。モクマだけではなく、里の者たちに対しても慚愧の念に堪えないのだろう。
     見るべきものを見ずにいたことは確かに罪だろう。しかし彼女の後悔はあまりにも深かった。それを拭ってやる事はチェズレイには不可能だ。
    「あなたやスイ嬢の顔を見ることが、あの御仁にとっては何より良薬でしょう。――では、私は約束がありますので」
     今度こそ踵を返し、チェズレイは警視総監室へと向かった。

    【N】

    『久しぶりだな、モクマ。お前から連絡を寄越すなど珍しい。明日は雪でも降るかな』
     相変わらず凛とした声だった。
     ナデシコは音声通話を好む。常日頃から忙しくしているので、画面越しにゆっくり話す暇がないらしい。彼女が通話に応じるのはもっぱら移動中だ。しかし今はヒールの音もエンジン音も聞こえない。微かに聞こえてくる漣のような騒めきと、洒落たジャズの音色からして、移動中ではなくおそらくカフェにでもいるのだろう。
    「不義理してごめんね。そっちも何かと忙しいんじゃないかと思ってたもんだから」
    『お陰様で大繁盛だとも。それで? 悪党に大人気の私に何か急ぎの用事か?』
    「あー……、ナデシコちゃんいま外? 誰かと一緒にいるのかな」
    『ご名答だ。ちょうど、夢に向かって邁進中の姫君をエスコート中でね。だが、このまま話してもらってもさして問題はないさ』
     ナデシコが姫と呼ぶ人物など、モクマには一人しか心当たりがない。彼女たちが時折交流しているのは知っていたが、相変わらず仲が良いようだ。
    「スイちゃんとデート中か。邪魔してすまんね。……実はさ、チェズレイがどっか行っちゃって。そっちに行ってたら教えてほしいなって」
     一瞬、沈黙が落ちた。
    『なんだ、もう捨てられたのか?』
    「言い方! まだ捨てられてないからね! あいつが何も言わずにどっか行っちゃっただけ」
    『よもやお前に痴話喧嘩の相談をされるとはな』
     完全に面白がっている。というか、声が若干笑っている。モクマは憮然として頭をかいた。
    「喧嘩っちゅうか、こないだ仕事でドジって怪我しちゃって。ちょいと脇腹に穴が開いただけだし死ぬような怪我でもなかったんだよ。けど手術して病室戻ったら、ベッドに書き置きがあって」
    『お前以外なら今頃は墓の下かもな。それで?』
    「『実家に帰らせていただきます』とだけ書いてあって――そんなに爆笑しなくてもいいでしょ」
     タブレットの向こうから高らかな笑い声が聞こえてモクマは眉をひそめた。テーブルをバンバンと叩く音も聞こえる。しばらくしてから、少し落ち着いたのか、ナデシコが咳払いをした。
    『事情はわかったが、なぜミカグラにいると思う? 彼の『実家』はここではないだろう』
     確かにそのとおりだ。
     モクマも最初はヴィンウェイ行きの航空券を取ろうとしたのだが、かの地でチェズレイの足取りを掴むのは自分一人では不可能に近い。
     書き置きを残したということは、チェズレイも本気で雲隠れするつもりなどないのだ。むしろ「自分を探せ」と言っているようなものだった。
     詐欺師を名乗りながら、相棒は意味のない嘘はつかない。ならば、『実家』というのは、モクマの『実家』、つまり故郷なのではないか――というのが、たどり着いた推論だった。
     ハスマリーでチェズレイがアーロンに渡した『手土産』は、DISCARDとも繋がりが深い密売組織だった。その情報をナデシコにも『手土産』として持参したのではないか。
     黙って話を聞いていたナデシコは、やがて『犬も喰わない何とやら、だな』と苦笑した。
    『チェズレイがこちらに来ていないか、という質問だったな。私は既にその問いに答えているぞ』
    「――うん?」
     思わせぶりな言葉に首を傾げてから、モクマはハッと目を瞠った。
     『夢に向かって邁進中の姫君』――てっきりスイのことかと思ったが、どうやら勘違いをしていたらしい。
    「チェズレイ!」
     ナデシコのすぐそばにいるだろう相棒に向かって、モクマは叫んだ。
    「すぐ迎えに行くから、観光でもして待ってて!」
     返事も聞かずに通話を切ると、モクマは急ぎ足で空港へと向かった。

    【D】

    「スイさん、お久しぶりですね。元気そうでよかった。けど、何かありました?」
     ルークが尋ねると、ディスプレイの向こうのスイは、髪の毛を弄りながら視線を逸らした。照れたり、答えに困った時の彼女の癖だ。
    『ルークも元気そうだね。……あのね、こないだメールくれたでしょ。チェズレイさんがこっちに来てないかって』
    「ああ、あの時はいきなりすみませんでした。でも心配しないでください。もしかしたらそちらに行ってるかも、と思っただけなので」
     スイを不安にさせないように答えながら、内心で失敗したな、とルークは反省した。
    「チェズレイ来てない⁉」
     とモクマが駆け込んできたのが数日前。喧嘩でもしたのか(ルークには二人の喧嘩というのが想像できなかったが)チェズレイが家出(?)をしたらしい。あいにくルークには彼の行方を知る術はなかった。珍しくモクマに頼られたのが嬉しくて、ダメ元でスイにも尋ねてしまったのだが、危険な話だと勘違いされたのかもしれない。
    『一昨日から、チェズレイさんこっち来てるよ』
    「えっ?」
    『あと数日は滞在するって。昨日ね、シキと一緒におばあちゃんのお見舞いに行ったんだけど――あ、もう元気だから心配しないで。その日、絶対欠席できないレセプションがあって、あの人が私に変装して代わりに出てくれたの。ただ、私の姿で経済評論家と熱い議論をしたらしくて……』
     ああ、チェズレイってそういうところあるよな、とルークは懐かしさ交じりにうなずいた。
    『すっごく助かったけど、次からどうしよう。一応、経済のイロハを伝授してさしあげますよ、とは言われたけど。……って、それは置いといて。ルークが心配してたからあなたが来てること教えていい? って訊いたら、構いませんよって言われたから』
    「そうだったんですね。ありがとうございます、助かりました。経営の勉強大変でしょうけど、スイさんなら大丈夫。あなたには並外れた度胸と、学びに必要なひたむきさが充分ありますから。僕が保証します」
    『……ありがと』
     はにかむようにスイが微笑む。それから暫く互いの近況を話して、通話を終える頃には夜もすっかり更けていた。さっそくモクマに連絡しようとメーラーを起動しようとしたちょうどその時、そのモクマからのメッセージが届いた。
    『今からチェズレイ迎えに行ってくる。色々ありがとね、ルーク。ほんとに助かったよ』
     どうやらモクマも相棒の場所を突き止めたらしい。さすがだなあと感心しながら返信する。
    『行ってらっしゃい。早く仲直りしてくださいね』

    2021/09/19 Extra Mission
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    rio_bmb

    MOURNINGけっこう前(6月か7月?)に書いてたけど新情報が出るたびにお蔵入りにせざるをえなかったモクチェズのラブコメ。読み返したら一周回って記念に供養しとくか…という気持ちになったのでお焚き上げです
    同道後のラブコメ「おじさんを好んでくれる子はいないのかなあ……」
     などとわざとらしく鎌をかけてみたこともあったのだが、あの時は正直なところ半信半疑だった。
     何せ相手が相手だ。都市伝説になるような詐欺師にとって、思わせぶりな態度を取るなんてきっと朝メシ前だろう。そう思うのと同時に、自分を見つめる瞳に浮かぶ熱が偽りとも思えなかった。
    (ひょっとして、脈アリ?)
    (いやいや、浮気って言っとったしなあ)
     その浮気相手にあれだけ心を砕く律儀者が、本命を前にしたらやはり相討ちも辞さないのではないだろうか。あなたと違って死ぬ気はないとは言っていたものの、刺し違えれば勝てるとなればうっかり命を懸けてしまいかねない。彼の律儀さはそうした危うさを孕んでいた。だからその時は脈があるかどうかより、ただ復讐に燃えるチェズレイの身を案じていたのだ。約束で縛ることは叶わず、己では彼の重石にはなれないのかとじれったく思ったのも記憶に新しい。
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