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    smalldespair57

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    smalldespair57

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    退職したいモブ部下(名前あり)VS引き留めたい上司の五七
    サラリーマンパロです。
    さくっと書いたつもりが思ったより長くなり後悔しています。雑です。

    #五七#現パロ#モブ視点

    退職面談 20代の平均転職回数は1~2回、離職年数は3年程度らしい。
    今やひとつの会社に何十年も留まることの方が珍しいご時世。そう考えると俺は新卒から入ってもう5年目だし、来月で辞めたいと伝えても、ある程度やり切ったと評価してもらえるのではないだろうか。
     もちろん万年人不足のこの営業部なので、残された社員の負担は重くなることはわかっているけれど、俺は正直、営業成績もよくない。
    うちの会社は、基本給は最低賃金ギリギリ設定の歩合制なので、毎月の給料に思い切り影響がある。大学から付き合っている彼女からは結婚を匂わされているけれど、この給与では現実的に一人暮らしも厳しくていまだ実家から出られず都内まで2時間かけて通勤している。将来を考えるなら、20代の転職市場価値が高い今のうちに、より安定した職種に転向するのが最も現実的だと思う。
     それに、うちの営業部には毎月圧倒的な成績をキープし続ける化け物がいる。その辣腕ぶりから、同業種はもちろん異業種からもメソッドを乞われて有料のセミナーを定期的に開催したり、SNSで万バズしたり、最近ではTV出演の依頼まであったという。おまけに容姿も誰もが見惚れる高身長イケメンで声もいい。もう正直その人一人でよくないですかと思っている。


    ……というようなことを、新卒の時の直属の先輩でとてもお世話になり、今は部署異動で人事部にいる七海さんに相談し、書き方もわからない退職願の内容のチェックをその場でお願いした。
    すると七海さんが、明日、たまたま俺の家の近くに用事があるから、休みの日でもよければお茶でもどうですか、と土曜の昼下がりのカフェに誘ってもらった。

    俺は先輩に気を遣わせて申し訳ないと思いつつ、久しぶりに大好きな七海さんと話せると思って少しウキウキして店にやって来た、のだが。

    「……すみません。どうしても撒けませんでした」

    何故、我が社が誇るカリスマ営業マンの五条先輩が同席しているのだろう。

    撒くってどういうことだ?元々アポがあったのか、というか、この二人接点あったのか?
    色々謎が募るばかりだが、もちろん何一つ聞くことは許されない空気。

    外人顔の七海さんも目立つのに、更に五条先輩が隣に並ぶと物凄い圧だ。
    休日で二人とも私服なので余計にオーラが凄い。他のお客さんからの視線は痛いのに、誰も隣のテーブルには座ろうとしなかった。俺は居たたまれなくなって、カフェの小さな椅子の上で縮こまった。

    「まあ、…とりあえず何か軽く食べましょう。前も来たんですけど、ここのオープンサンド、結構おいし」
    「真野ぉ、お前給料少ないからやめたいんだって?」

     折角気を遣ってくれた七海さんをぶった切って、五条先輩がどストレートに聞いてくる。
    昨日の今日で筒抜けかよ、と俺は少し裏切られたような気分になった。七海さん、いくら何でも仕事が早すぎる。

    …あれ、でもそもそもどうして七海さんは、部署は同じでも特に関わりのない五条先輩に口を滑らせたんだろう。相談するとしたら部長か課長じゃないのかな。で、今日面談するって聞いてついてきたのか?休みなのに?…特に可愛がってもらったわけでもない後輩の俺にそこまでするか?

    という、どうでもいい疑問に囚われすぎて、肝心の質問には「あ、はあ、」と生半可に答えてしまった。

    「五条さん、困ります。語弊が」
    「いやいやまあ、いいんじゃない?真野の人生だしさ。つまんなさそうに仕事してるなあと思ってたんだよね。もったいないね、人当たりいいから営業向いてんのに」

    え、と思わず素っ頓狂な声が出た。俺今、あの五条先輩に、営業向いてるって言われた?
    あまりに予想外な評価に、思わず決意が揺らぐ。

    「んで?七海は真野と何を話そうと思ってんの?僕との予定を後回しにするほど重要なことなんでしょ?」
    「それは勿論、退職以外に本当に方法はないのか、真野くんの気持ちを対面で聞く必要があると思ったからですよ」
    「はあ~?本人がやめるって言ってんだからそれ以上でも以下でもないじゃん!」
    「そんなに単純な話ではないんです。ワンマンプレイヤーの貴方にはわからない、繊細な分野の話です。だから家で待っててくれって言ったのに」

     えーと、この大先輩方お二人は、俺のために集まってくれた…で間違いないんだよな?
    完全に二人でモメ始めていて、俺は蚊帳の外状態。一言も口を挟めない。
    必然目の前の二人の様子を観察することになり、性格も職種も全く違う二人が意外とかなり砕けた間柄だということ、何となく服の趣味は似ていてモノトーン系で統一感があるスタイルだということ、二人とも左の薬指にはシルバーの指輪がはまっているということを把握した。
    ……そりゃまあモテモテなお二人だろうから、恋人がいて当然だと思うが、社内では一切そんな素振りは見えないので、もしこれが知るところとなったら、五条ファンはもちろん隠れファンの多い七海派たちも合わせて、社内の女性社員半数がこぞって体調不良で有給を申請するだろう。

    「繊細な話、ねえ。人事の責務だか何だか知らないけど、お前はそもそも去る者追わずでしょ?とりあえず話はしてみましたってポーズ取りたいだけじゃん、本気で引き留めたいと思ってる?」
    「五条さん、いい加減にしてください。何考えてるんですか?真野くんの前で」
    「お前はいっつもそうだよ。話し合いましょうって言うけど最初から諦める。あの時だってそうだよ、二人で家買うかどうしようかって時だって」
    「五条さん!!」

     聞いたことのない音量の七海さんの声が、店中に響き渡る。一瞬、店の空気が止まった。
    俺の頭はもう退職相談どころではなく、今日この状況になってから得た様々な情報を統合して、結論を導き出すことに集中していた。俺が抱いた疑問が全て解消されるたったひとつの結論。クライアントのニーズを見極めるために培った観察力、そしてうまく話を要約し、先方から「それそれ!」を引き出す力…を使うまでもなく、すぐにわかった。

    「え、五条先輩と七海さんって、付き合ってるんすか?」

     数秒の間をおいて、七海さんがはああああ、ととても深くため息を吐いた。それとは逆に五条先輩はゲラゲラ笑い出し、「真野、ド直球すぎ!最高!」と何故か拍手までされた。

    「真野はほんと、なんて言うの?面の皮厚いよね。いい意味で」
    「えっあっ、すみません!違いましたか!?」
    「真野くん。私とこのバカのことは今はどうでもいいです。給与面に関してはもう少し踏ん張れば結果が出るのでは?何なら人間性に問題はありますが営業成績だけは信用できるこちらの大先輩にコツを教えてもらうとか。それとうちには引越し一時金制度というのもありますよ」
    「え~!?僕の講義は有料なんだけど。あとバカじゃねーし。あ、でも別にいーよ。条件あるけど」

     さっきまで転職して営業はもうやらないと決めていたはずだったのに、俺は五条先輩からマンツーマン指導してもらえるという好機を目の前にし、前のめりになった。
    何だよ今更、現金だな俺…自分でもそう思うけど、やっぱり、もしかして結果を出せるようになるかもと考えると胸が躍った。
    クソ、意外と俺、営業の仕事好きなのか。

    「社内で僕と七海のこと知ってるの、真野だけだからさ。フォロー、お願いね♡」
    「フォローって、真野くんに何させる気ですかアナタ」

     俺が尋ねようとしたことを代わりに七海さんがすかさず確認する。いつも冷静で、後輩の俺にも敬語を崩さない七海さんが、五条先輩には感情的に反応して口が悪くなっているのを見ると、改めてそういう仲なんだなと実感した。

    「何って、決まってるじゃん!社内にはびこる七海ファンの牽制で~す。僕ね、超嫉妬深いの。でもこいつ、後輩からすぐ慕われちゃうからさ~、七海のこと狙ってるなんていう子がいたら、仕事バリバリできて稼ぎもよくて顔のいい恋人がいるらしいよって教えてあげてくれる?」

     そんなことをよく後輩の俺に真正面から、しかも本人がいるところで頼めるな…と俺は五条先輩の恋愛においての規格外ぶりにも驚いた。でもまあ、そのぐらいならお安い御用だ。
     そもそも七海ファンはそんな恐れ多いことはめったに口にしない。どちらかというと五条ファンの女性の方が派手な美人が多いので、ワンチャン狙って飲みに誘って来たりするんじゃないかと思う。

    「わかりました!大丈夫です!俺、五条先輩からいろいろ教わって、もっと成績上げます!」
    「嘘でしょう真野くん…」

     愕然とする七海さんをよそに、俺は元気に答えた。
    こんな形で気持ちが変わるとは思っていなかったけれど、お二人のおかげで、自分が本当にやりたいことが見えた気がする。
    よし、もう一度営業の仕事頑張ろう。
    そして、社内で唯一の秘密を知る者として、お二人のことを応援しよう。俺なんかの為に、色々と動いてくださるんだから、それに報いたい。

    「そう来なくっちゃね」

    五条先輩は不敵に笑って見せた。
    俺はいつのまにか、この人みたいな営業マンになりたい、と強く思った。













    「わざとですよね」

     すっかり元気いっぱいになり、モチベーション最高潮で帰っていった真野と店の前で別れてすぐに、七海は飄々と隣に立つ恋人に投げつけるように問うた。

    「え、何が?」
    「わざとバラしましたよね?いくら退職を思いとどまらせるためとはいえ、そこまですることないでしょ」

     真野は、七海の初めての直属の後輩で、明るく元気で人に嫌われにくくて物怖じしないので、営業としての素質は見込まれていた。
    だが、近年は成績が振るわず、七海は自分が育て切れないまま部署異動になったことを悔やんでいた。そしてついに、芽が出ぬまま退職相談。責任を感じる、といったことをポロっと五条に漏らしたら、「僕もついてっていい?」と何故か今日の面談に無理やり付いてきた。どういう意図があるのかと思っていたら、何と会社の誰にも漏らしていない自分たちの関係をあっさりバラすという暴挙に出たのだ。

    「なぁに言ってんの、必要だよ。あいつは世話になった相手にちゃんと筋通すタイプだからね、自分しか知らない秘密、とか自分しかできないフォロー、とかそういう縛りがいるんだよ」

    もちろん、本当は営業でもっと伸びたいんだっていう本質の部分がある前提だけど。
    あいつ俺に評価されて、すげえ揺らいだんだよね。だから本当はもっと仕事できるようになりたいんだろうなーと思ってさ、でもたぶん自分の為だけだと折れちゃう奴だろうから、+αのダメ押しだよ。そういう精神的かつ物理的な支えって結構大事だろ?
     五条は立て板に水のごとくペラペラと解説する。七海はいまいち納得がいかないが、まあでも結果としてはよかったからこれでいいのだろうかと思い始めた。

    「……でも私に何の相談もなかった」
    「相談したら絶対ダメって言うじゃん。それに、真野がマジでもう何言ってもダメな感じだったら言ってなかったし」

     七海はう、と言葉を詰まらせ、それ以上の反論を諦めた。
    確かに、自分では絶対に思いつけない大胆な戦略だ。それに五条の方が、自分よりもずっとよく真野のことを観察し、分析し、その上で最適な策を講じている。まさに、現代最強の営業の名に相応しい。
     五条は七海の肩を抱き寄せて、「七海ぃ~、僕になんか言うことは?」と小首を傾げてしかめっ面を覗き込んだ。

    「……ありがとうございました……」
    「あは、顔がすっげえ悔しそうなんだけど」

     七海の何だか納得がいかないがまあ結果は望み通りだから一応ありがとうは言っとくか、と雄弁に語る表情を見ながら、五条は大きな口でにっこりと笑う。

     いずれは誰かに七海のお目付け役を頼みたいと思っていたから、今回の件は本当にちょうどよかった。
    七海は全く無頓着だが、社内で独身者が少ないこともあり、実は七海はめちゃくちゃモテている。五条もモテるが、結婚するならああいう人がいい、と目敏い女性社員の恰好の的になっていること、実際にアクションを起こしている者が何名かいるということを、五条はしっかりと情報収集していた。
    だが会社では七海は不自然なぐらい五条と接触しないので牽制しようもない。
    ちょっと食堂で会ったから一緒に飯を食うぐらいで誰が疑うんだ、と思うのだが。
    五条も多忙で外出ばかりなので、社内での七海の動きは見えにくい。
    真野がどこまで動いてくれるかは賭けだ。
     勿論、真野のことは五条も以前から七海の直の後輩ということで気にはかけており、割といいモン持ってんのになあ、と思っていたので、いい機会だからしっかりと育て上げようと思っている。
     五条には夢がある。誰かが自分ぐらい稼げるように仕上がったら、独立して、フリーランスになると決めている。
    しばらくガッツリ稼いだら、七海と一緒にFIRE、早期リタイアだ。
    日本ではまだ無理だから、海外に移住して、七海と正式に結婚する。
    今はまだ恋人同士のペアリングだけど、いずれ1.5カラットのダイアモンドのエンゲージリングに変わることだろう。
    そのためにも真野には、しっかり営業として育ってもらわないと。

    「よ~し、教育頑張っちゃうぞ~!あ、真野お家呼んでもいい?ご飯作ってくれる?」
    「ふふ、いいですよ。なんだか楽しそうですね。アナタ、意外と教育向きなんじゃないですか?」

     七海は、存外楽し気な五条の様子を見て思わず微笑んだ。
    この人は、人のことをよく見ている。だからこそ、成績として結果が出ているし、真野君も然り、私にも、本当に欲しい言葉をくれるのだ。調子に乗るから言ってやらないが。
     まあ、社内に愚痴れる相手ができたのは僥倖だったかもしれないな、とも七海は思った。
    何といってもカリスマ・五条悟なので、社内外問わずあらゆるところから名前がしょっちゅう聞こえてきて、あっちにもこっちにも不安の種がある。
    会社で避けているのは、仲がいいと思われると、紹介してくれだとか、取り次いでくれだとか頼まれることは明白だからだ。そんなの、うまく躱せる自信がない。
    私のなので、近づかないでもらえますか?
    そんなセリフを言ってしまいそうな自分を想像してはぞっとする。嫉妬深いのは、本当は彼ではなく自分だ。
    そのことは真野君にもバレないようにしないといけないな、と七海は思いながら、コットンバッグから退職願を取り出し、思い切り破り捨てた。





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