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    ちょりりん万箱

    陳情令、魔道祖師にはまりまくって、二次創作してます。文字書きです。最近、オリジナルにも興味を持ち始めました🎵
    何でも書いて何でも読む雑食💨
    文明の利器を使いこなせず、誤字脱字が得意な行き当たりばったりですが、お付き合いよろしくお願いします😆

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    ちょりりん万箱

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    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

    贈り物それが届いたのは、魏無羨が雲夢への旅を終えて1ヶ月後の事だった。
    「うわあ、綺麗ですね!」
    弟子の誰もが感嘆の声を上げる。
    正午を回った時刻、昼食を取って寛いでいた所に届けられた物に皆の視線が注がれた。
    直径が洗濯用の盥の大きさで深さが大人の膝丈の巨大な鉢からは、長い茎の先にある瑞々しい大きな緑の葉々と、やや閉じた蓮の花々が天に向かって伸びている。
    「これが雲夢から!?」
    受け取り主である魏無羨は、蓮の花が突然贈られてきたことに驚いた。
    簡単には運べそうにない大きさとその重さ。
    それを雲夢から姑蘇まで陸路で運ぶとなると、労力は半端ない。
    片道だけだが、姑蘇から雲夢へ歩いた魏無羨はその大変さがわかる。
    まして、開花時期の蓮の花だ。慎重に運んだところで途中で枯らしてしまう確率の方が高い。
    「届いたのは1つじゃないですよ。あと2つあります」
    魏無羨が視線を向けると、どどーんと同じ鉢が2つあり、その存在をアピールしていた。
    (なるほど、途中で枯れることも考えてか)
    枯れたならその鉢は諦め、姑蘇まで残った鉢
    を届けるーーー
    魏無羨は、必ず蓮の花を贈るという送り主の執念を感じた。
    「でもなあ、3つも静室にいらないし……あ、1つは沢蕪君の寒室にお裾分けで持っていけ。あと1つは藍湛の執務室に頼むな」
    蓮の鉢の配分先を決めた魏無羨は、弟子たちに運ぶように指示をした。
    「それとこれを魏先輩にと。一緒に届きました」
    弟子は、懐から手紙を取り出し、魏無羨に渡した。
    手紙は表紙が紫色で、蓮の家紋が入っている。
    表紙を開くと、書いた主の性格がわかる神経質な文字が綺麗に並べられていた。
    堅苦しい時候の挨拶から始まり、少しだが近況が書かれている。
    (江澄らしいや)
    先日、永年のこじれていた関係を修復したばかりの師弟の顔を思い出して、クスッと魏無羨から笑みが溢れた。
    だが、その文字を目で追っていた魏無羨の顔から笑みが消え、しまいには口が少し開いてやや顔色も悪くなる。
    「……は?」
    『蓮の花が着く頃に雲深不知処に行く』
    ーーー最後の一文が、魏無羨に衝撃を与えた。






    ゴトリゴトリと何か重いものが運ばれているような音と大人数の気配に、藍曦臣は瞑想を止め目を静かに開けた。
    外の気配で心を乱してしまったことに己の修行不足を感じながら、ゆっくりと立ち上がると、音の正体を確かめるべく寒室の戸に手をかけ横に引く。
    戸の向こうから、視界に飛び込んできた鮮やかな白色と桃色と緑色に息を呑む。
    雲深不知処に今まで無かったものだ。
    「こ、れは……」
    「あ、沢蕪君!」
    大きな鉢を大人数で運んでいた弟子たちは、宗主の登場に慌てて一斉に損礼した。どの弟子たちの額にも汗が浮いている。
    藍景儀が額の汗を袖で拭いながら笑顔で寄ってきた。
    「今、お声をかけようと思っていたんです。これ、どこに置きますか?」
    「これをここに置く?」
    「はい。魏先輩が沢蕪君の所にもお裾分けで持って行けとおっしゃられて……」
    お裾分けにしては大きすぎる、白い花弁の先が桃色の蓮の花。
    朝早くに咲く蓮の花は昼頃には閉じるらしく、この蓮の花も花弁を閉じていた。
    そこで藍曦臣は、ああ、そうかと思い当たる。


    1ヶ月半前に魏無羨が雲深不知処を留守にすると報告がてら寒室に尋ねてきていた。
    かなりの日数をかけて雲夢に行く魏無羨に用意があって忙しい時にわざわざ顔を出さなくてもと藍曦臣が言えば、
    『沢蕪君の顔を俺が見たかったんです』
    にっと眩しい笑顔が優しい言葉と返ってきた。
    弟とその道侶の魏無羨に、心配をかけていることはわかっている。まるで、かっての藍忘機と入れ替わったようだ。
    藍曦臣が信じていた義兄弟の罪は、複雑に絡み合い様々な人の人生を狂わせ、混乱させた。
    藍曦臣はその罪を見抜けなかった未熟さを恥じ、自主的に謹慎した。
    今の際に金光瑶に押された胸が今でもその手の感触を思いだすように痛む。
    世の人々は、金光瑶を害した藍曦臣を褒め称えるが、その称賛は更に藍曦臣を苦しめた。
    口ではその命を奪うことを躊躇わないと言いながら、実際、金光瑶を貫いた朔月を掴む手は心の戸惑いを表すように震えていた。
    後悔は尽きることなく、また忘れることもできない。



    「これは雲夢からだね」
    「はい。それと近々江宗主がお越しになるそうですよ」
    「江宗主が?」
    今まで清談会での来訪はあるものの、それ以外で江晩吟が雲深不知処を訪れたことはない。
    「そうか、魏公子に会いにくるんだね……」
    藍曦臣の口許が綻ぶ。
    心から良かったと思う。
    永年のわだかまりは簡単にはとけないかもしれないが、改善しようと行動を起こした魏無羨に江晩吟が答えたようだ。
    「会いに来られるみたいですが、魏先輩の様子がおかしくて」
    藍景儀が、江晩吟からの手紙を読んだ魏無羨の様子を事細かに藍曦臣へと話した。
    「蓮の花が着く頃にここに来るってお話ですから、あまりに急すぎてあわてたのかな?」
    藍景儀は腕組みしてう~んと考え込む。
    (彼らにしかわからない何かがあるのだろう)
    藍曦臣はこれ以上の追求を止め、にこりと笑う。
    「景儀、その蓮の花はここへ」
    寒室の窓から見える陽当たりの良い場所を指差し、藍曦臣はそう告げた。







    蓮の花を運んできた弟子たちは居心地悪くお互いの顔を見合わせて、そわそわしていた。
    『執務室の方にも持って行け』
    そう魏無羨に言われたから藍忘機の執務室に運んできたが、藍忘機は一目蓮の花を見るなり、無表情が更に無表情になりしばらく無言だった。
    「……雲夢からだな」
    かすかなため息と共にやっと聞こえた声に弟子たちは激しく頷いた。
    「他に何か言付けは?」
    藍忘機の問いかけに、あっ、と弟子たちは魏無羨の言葉を思い出し、話し始める。
    「蓮の花は後2鉢ありまして、1つを静室に、1つを寒室にと」
    寒室、と藍忘機は呟く。
    魏無羨が兄を慰める為に気を回してくれたのかと藍忘機は優しく愛しい人を思い浮かべる。
    寒室から滅多に姿を現さなくなった藍曦臣の元へ、魏無羨が会いに行っていることは知っていた。
    閉じ籠った兄が何を悩んでいるのか想像はできても、その悩みを解決できるのが兄自身である以上、力になることはできない。できることは兄を信じて待つことだ。かっての藍曦臣が藍忘機にしたように。
    「あと、江宗主が近いうちにお越しになると、魏先輩が……ひっ!」
    ゆらりと藍忘機から立ち上る殺気にも似た不穏な気配に、弟子たちは失礼にも短い悲鳴を上げた。
    「雲深不知処に来る……」
    蓮の花に恨みはないが、送り主が気に食わない。雲夢での江晩吟の怒り方からして、恐らく文句を言いに来るのだろう。だが、もう三拝の礼も済ませ、道侶の誓いも立てた。今さら魏無羨を雲夢には返せない、返す気もない。
    「蓮の花はここに」
    陽当たりは良いが、執務室からは見えない場所を藍忘機は示した。






    静室の広い露縁に雲夢から来た蓮の鉢は置かれ、竹林をすり抜けた風に揺れている。
    その前に胡座をかいて座った魏無羨は蓮の葉をチョイチョイと人指し指で弾いた。
    「ここに来るっていうのはやっぱりアレだよなぁ……」
    はあああ~と大きくため息をつき、がっくりと肩を落とす。
    先日の雲夢訪問で、迎えにきた藍忘機が帰り間際に江晩吟に落とした爆弾。
    その威力は、江晩吟を激怒させるには十分で、必死になって江晩吟を止めている雲夢江氏の弟子たちに本当に申し訳ないことをしたと雲夢の方向に手を合わせて謝る。
    折を見て江晩吟には話すつもりだった。
    ただ仲直りができるかわからなかったあの時点で、魏無羨が江晩吟に話せるはずがなく、またどう話せば理解してくるのか悩んでいたので、時期を改めてと考えていたのに。
    「また大事な事を言わなかったとあの怒りん坊はブツブツ言ってんだろうなぁ……」
    次に会ったらその毒舌と紫電が襲い来る様を想像し、魏無羨はぞくっと身を震わせる。
    同時にやけに飄々としている藍忘機の態度にもむかついていた。
    雲夢からの帰り、かなりのスピードで雲深不知処へ向かう藍忘機に魏無羨は必死でしがみつきながら、何故江晩吟に話したのかと責めれば、本当のことだ、大事な事だから話したとツンとした態度で言われた。
    それは自分が話したかったと拗ねたが、早く話さねばまずい、等と意味不明な事を言っていた。
    「あの2人って、どうも仲が悪いんだよな~」
    それが自分のせいだとは考えていない魏無羨はごろりと露縁に転がると大きく息を吸い込む。
    静室の周りに生えている竹の匂いと、それに微かに混じる土と蓮の匂い。
    雲深不知処と蓮花塢の、嗅ぎ慣れた2つの匂いに一抹の不安を抱きながら、魏無羨は目を閉じた。



    雲深不知処へ江晩吟が訪れたのは、その3日後だった。



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