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    ちょりりん万箱

    陳情令、魔道祖師にはまりまくって、二次創作してます。文字書きです。最近、オリジナルにも興味を持ち始めました🎵
    何でも書いて何でも読む雑食💨
    文明の利器を使いこなせず、誤字脱字が得意な行き当たりばったりですが、お付き合いよろしくお願いします😆

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    ちょりりん万箱

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    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

    師叔と甥の誕生日 鍛練場に姿を現した江晩吟はいつもと違うその場の空気に固まる。
     本来なら弟子たちが規則正しく並び、剣の鍛練に勤しんでいるはずなのに、真ん中に集まるように人だかりになっているのは、何だ?
    「へえ~、今はそんなのが流行りなのか」
    「こんなのもあるんですよ」
     そこでは楽しそうで賑かな声が響く。
     誰も江晩吟に気づかない。
    「やはり、雲夢だなぁ!流行りものがすぐにわかる!」
     一際大きく聞こえてきた声は耳に馴染んだ高さと口調で、その声の主を江晩吟はよく知っていた。
     みるみる江晩吟の眦がつり上がり、眉間に深い深い皺が刻まれた。
     そのまま大股で人だかりに近寄った江晩吟は腰に手を当て息を大きく吸う。
    「魏無羨!!貴様、こんな所で何してる!!」
     宗主の怒号に江氏の弟子たちは、わっと蜘蛛の子を散らす様にその場から離れ、それぞれ剣を構え鍛練に戻った。いち!に!と掛け声が鍛練場に響く。
    「あ、お邪魔してま~す」
     江晩吟の怒鳴り声などものともせず、へらへらと笑いながらこちらに手を振る魏無羨をじろりと睨み付けた江晩吟は、弟子達の気が散らないように鍛練場の隅へと魏無羨を引っ張って連れていく。
    「本当に邪魔をするな!!」
    「酷いなぁ!せっかく姑蘇から来たのに~」
     口を尖らせてぶーぶー文句を言うその周りを江晩吟は注意深く見た。
    「・・・どこだ?」
    「何が?」
    「お前の見張り番だ!」
     ブフッ!と魏無羨は盛大に吹き出す。
    「なにそれ!もしかして藍湛のこと?」
    「あいつ以外にお前にくっついている物好きなどいないだろうが!」
    「まあ、そりゃそうか」
     江晩吟の悪口をあっさり認めた魏無羨はにっと笑った。
    「藍湛は居ないよ。俺が、江澄にお願いがあってきたんだ」
    「・・願い?」
     魏無羨の笑みを見た江晩吟は背筋に走った震えと嫌な予感に顔をしかめた。



     蓮花塢でも奥にある宝物庫はたくさんの品物が詰められている。
     法具や霊器、高価な装飾品から骨董品までこれまでの江氏が引き継いできた門外不出の品々だ。
     1度は江氏が温氏に襲撃された際に温氏に奪われたが、温氏討伐後に何品か紛失したものの、大方奪い返すことができた。
     その宝物庫の中から、腕に抱え上げる位の行李を奥から持ち出してきた江晩吟は魏無羨に渡そうとして手を止めた。
    「・・・こんなもの、何に使うんだ?」
     探しておいて今さらだが、まずはそれを尋ねておかねばと、江晩吟は受け取ろうと手を差し出している元師兄を睨む。
    「理由がいる?」
     取り繕うような笑みを魏無羨は顔に貼り付けた。が、江晩吟には効かない。
    「当然だ。因みに蓮花塢から持ち出すことは駄目だ」
    「えーーっ!!」
    「当たり前だろうが!お前、これがここにある意味をちゃんと理解してるのか?」
     低い声音とするどい眼差しに魏無羨は少し俯いた。これがここにある理由を作ったのは他ならない、魏無羨だからだ。
    「それに元々俺のものじゃない。今は預かっているようなものだ。というか、よくここにあることを突き止めたな?調べたのは藍忘機か?」
     その問いには魏無羨は曖昧に笑う。
     いずれは本当の持ち主に返さねばならないもの。今は、仮に江晩吟が保管しているだけだ。
    「蓮花塢からの持ち出しは許さん」
     きっぱりともう一度言いきった江晩吟の言葉に、うーむと魏無羨は唸る。
    「ほんの少しでも?」
    「ほんの少しでも!」
     取り付くしまのない江晩吟の態度に魏無羨は、がっくりと肩を落とす。
    「・・・わかった。なら、何日か蓮花塢に居てもいい?俺の部屋、使えるよな?」
    「はあ!?いや、雲深不知処に帰れよ。何するのかもわからないのに泊められるか!」
    「教えたら泊めてくれる?」
    「・・どうせろくでもないことだろうが、考えないでもない」
     江晩吟の耳に手を当てて、顔を近づけゴショゴショと魏無羨は小声で話す。
     江晩吟の片眉がぴくりと動き、きつい瞳が少し戸惑いに揺れた。
    「・・てことなんだけど・・・」
     駄目かな?と魏無羨は師弟の顔を覗き込む。
     はああと江晩吟はわざと大きなため息をついた。
     遠い姑蘇から恨みを買いそうだが、内容が内容なだけに駄目だと言えない自分もいる。
    「・・わかった。滞在を許可する。ただし!お前、ちゃんと藍忘機に説明しておけよ!!」
     江晩吟の脳裏にブスッとした藍忘機の顔が浮かんだ。
     魏無羨と藍忘機の仲を認めたくはないが、蓮花塢が痴話喧嘩に巻き込まれることはごめん被りたい。
    「了解~」
     ほくほくと江晩吟から行李を受け取った魏無羨は、江晩吟の心配など気にしている風はない。
     行李の蓋を開け中身を見て、ふふと笑う。
    「お前らしいや」
    「なにがだよ」
    「こうやってきっちり保管してるところ」
    「はあ?普通だろう?お前がいい加減なんだ!」
     昔から何かと魏無羨の世話を焼いてきた江晩吟の几帳面さは健在らしい。これだけ几帳面だと、見合いの連続失敗も頷け、一生嫁の来手はないかもなぁと魏無羨は余計な心配をしていた。
    「いいか?本当に汚すなよ?いつか、返さなきゃいけないからな」
    「分かってるってば!」
     しつこいほど念を押した江晩吟はふんと言い放ち、魏無羨の後ろ襟を掴んだ。
    「ほら、とっととここから出るぞ。俺は忙しいんだ。お前もさっさと自分の部屋に行け」
    「えーっ!」
    「それと!すぐに藍忘機に連絡しておけ!今す、ぐ、に、だ!!」





     蓮花塢からの連絡は瞬く間に雲深不知処へ届き、藍忘機の取り巻く空気が氷点下へと落ちた。
    『3日間だけ、蓮花塢に滞在する』
     愛しい道侶の残酷な思念珠。
     何故、蓮花塢に行ったか理由はわかっていても、納得することとは別物だ。
     まして、好きになれないあの男がいる場所に魏無羨を行かせたことを、何度も後悔していた矢先だけに衝撃が大きい。
    「含光君」
     執務室の外から呼び掛けられ、藍忘機は姿勢を正した。
    「金宗主がお見えです」
    「中へ・・・」
     藍思追と共に現れた金如蘭に藍忘機が視線を向ければ、やや緊張した面持ちで金如蘭が頭を下げた。
    「仙督におかれましては、ご機嫌麗しく」
    「かたじけない。金宗主、お越しのご用件は?」
    「あ、その・・・・」
     早々に用件を尋ねてくる藍忘機に、金如蘭はちらっと隣の友にすがるような視線を向けた。         
    その視線を受け取った藍思追が代弁する。
    「魏先輩に会いに来られたのです」
    「魏嬰に?それは何故?」
     コクコクと頷く金如蘭に、思わず何故と藍忘機は尋ねてしまった。
    「先月・・誕生日の贈り物を渡しそびれた、からです・・・」
     言いにくそうに金如蘭は答えた。
     実際、魏無羨の誕生日を金如蘭は知らなかった。
     久々に夜狩りで会った藍思追や藍景儀と話をしているとその話題が上り、過ぎてから知ったのだ。

    何が欲しいだろう?
    何を用意したらいい??
    過ぎてても大丈夫だろうか???

     贈り物を必死で考える金如蘭に、藍思追も藍景儀も驚きながらも良かったと思った。
    ずっと金如蘭は親の仇と、魏無羨を恨んできた。
     魏無羨を廻り、藍思追と金如蘭が口論になったこともある。
     だが、温瓊林の口から様々なことが明らかにされた。

    金如蘭の名は魏無羨がつけたこと。
    金如蘭の誕生の時は師叔になったととても喜んだこと。
    誕生日の贈り物に魏無羨が丹精込めた腕輪を作っていたこと。

     それらは幼い金如蘭に届くことはなく、歪められた形で伝えられていた。
     しかも魏無羨は、いろんな思惑はあったけど、実際に起こったことだからなぁと訂正しない。
     思いきりよくあっさりしている所が魏無羨の良いところではあるが、見ているこちらとしては歯がゆいのだ。
     協力する!と叫んだのは藍景儀だった。もちろん、藍思追に異論はない。
     ありがとうと微笑んだ金如蘭は、本当に嬉しそうで、やっと金如蘭と魏無羨の外れていた歯車が噛み合い動き出したのだと藍思追は感じている。



    「だが、生憎と魏嬰は不在だ」
     藍忘機から告げられた言葉に、えっ!?と2人は驚いた。
    「魏先輩、お出かけしてるのですか?」
     藍思追は藍忘機に詰め寄る。
    「ああ。しかも3日間は帰って来ない」
    「3日間も!?」
    (含光君が3日間も魏先輩と離れていることをお許しになるなんて!!)
     驚きのあまりに声が出た藍思追をちらっと咎めるような視線が藍忘機から送られる。
    「失礼しました。・・・では、魏先輩は今、どちらへ?」
     姿勢を正して尋ねた藍思追に、藍忘機はスウッと目を細めた。
     滅多に表情の変わらない師匠の微妙な変化。
    明らかに不快感を示す様子に、この3日の不在は藍忘機が望むものではないことを藍思追は察する。
    「どこにいるか、場所は言えぬ」
    「え~・・・」
    「だが、3日後にはここに戻る。戻らない場合は迎えに行く」
     並々ならぬ師匠の決意表明に、藍思追は魏無羨の行き先がなんとなくわかった気がした。
     だが、それならば何故そんな所に行ったのかと新たな疑問が浮かぶ。
    「金宗主。それまでこの雲深不知処に滞在されてはどうか?」
    「ここに、ですか?」
     予想していなかった藍忘機の提案に金如蘭はしばし黙り込んだ。
     魏無羨の不在に、藍忘機の誘い。
    宗主はそんなに暇でもないし、今日中に蘭陵に戻る予定だった為、金如蘭は困惑する。
    「直接渡したいのでわざわざ来られたのだろう?」
    「それは・・・」
     その通りだ。
     贈り物は直接渡した方が喜ぶという友の言葉に従って、遠くここまで来た。
    「この頃、蘭陵は穏やかだと聞いている。いかがか?」
     仙督である藍忘機の元にはありとあらゆる情報が日々送られてくる。恐らく、蘭陵金氏の内情も筒抜けだろう。
     断ろうにも外堀を埋められては断れない。
    「金凌、藍氏の座学も経験してみない?ためになるよ?」
     頼りになる友も外堀を埋めていき、金如蘭に逃げ場は無くなった。
    「では、お言葉に甘えて」
     諦めの溜め息と共に、藍忘機に金如蘭は承諾の損礼を返した。








     蓮花塢に現れた煌びやかな一行に、雲夢江氏は騒然となった。
     こうなるのではないかと予想はしていたが、実際に目の当たりにすると頭の痛みが増した江晩吟だ。
     しかも、その一行の中に甥の姿を見つけて更に頭が痛くなる。
    「本日の御用向きは何か?」
     勤めて冷静に尋ねたらその上を行く冷静な声が返ってきた。
    「こちらにお世話になっている魏無羨を引き取りに・・」
     大方、予想していた通りの藍忘機の返答にうんざりと江晩吟は溜め息をつく。
    「こちらとて早く帰っていただきたいのだが、本人がなかなか帰らないので何とも言えない」
    「本人が帰らない?」
     藍忘機のぎろりという睨みに勘弁してくれと江晩吟は叫びたかった。
    「それは私よりも本人に聞いていただきたい。金凌、お前は何をしにここに?」
     びくりっと分かりやすく金如蘭が跳ねた。
    「金宗主も魏嬰に用事があるのだ」
    「金凌が魏無羨に?」
     益々話がややこしくなりそうな感じに、江晩吟の苛立ちは募る。
    「ほう?どんな用事だ、金凌?」
    「・・・誕生日の贈り物をしたくて・・・」
    「・・・・・は?」
    「だからっ!まだ誕生日の贈り物をしてなかったからしたかったんだよ!そしたら、まさか外叔父上の所にいるとか思わなかったし!」
     魏無羨に誕生日の贈り物をしようと雲深不知処に行けば不在で、なかなか帰ってこない魏無羨にしびれを切らした藍忘機に連れられて雲夢へ来たかと、大方予想した江晩吟は軽く首を振る。
     どいつもこいつも似たような考えで、振り回されるこちらの身にもなってほしい。
    「わかった・・・仙督、魏無羨の元に案内しよう。他の者はここに控えよ」
    「外叔父上、私も!?」
    「金凌、お前は特にここにい・・」

     ドタドタドタドタ!!!

     甥にピシリと言い付けていた江晩吟の声を遮るような、足音に誰もが何だ!?と音の方向を見た。
    「ダーメーだー!!江澄!あれ、使えない!!新しい顔料をくれ!!」
    「またか!もう何度目だ!?」
     髪を三つ編み1つに纏めあげ、動きやすい黒の江氏の校服に身を包んだ魏無羨が広間に泣きながら駆け込んで来た。
     その場にいた者たちは一様に目を丸くして、飛び込んできた魏無羨を凝視している。
    「あ、れ?藍湛に金凌に思追に景儀?みんなどうしたんだ??」
     怪訝そうな魏無羨の声に、いち早く我に返った藍忘機が魏無羨の側に足早に近寄った。
    「魏嬰」
    「・・・あっ!!そうか!約束の3日目か!ごめ~ん!!」
     ぎゅうっと魏無羨は藍忘機に抱きついた。その背を藍忘機も抱き締める。
    「君が帰らないから迎えに来た」
    「ありがとう~。でもまだ帰れないんだ」
    「どうして?」
    「まだ出来てなくて・・あわわっ」
     口を滑らせそうになった魏無羨は藍忘機の背後にいる年少組を見て口を閉じる。
    「顔料、と聞こえたが?」
    「う・・ん、思った様な色が出なくて・・・」
    2人しか聞こえないように小声で話す。
    「おいっ!2人で話すな!おまけに子供たちの前だ、離れろ!」
     大股で近寄ってきた江晩吟は2人を引き剥がした。わぁっとわざとらしい魏無羨とムッとする藍忘機から睨まれる。
    「魏無羨、いい加減にしろよ。顔料を何個用意させれば気が済むんだっ」
    「だぁって!あの鮮やかな色はそう簡単には表せないんだぞっ」
     顔を寄せてボソボソと怒鳴り合う元江氏双傑を見ながら、藍忘機は事を見守る金如蘭に視線を動かした。
    「金宗主」
     藍忘機から名を呼ばれた金如蘭はびくっとした。
    「貴方が持ってきた物を渡してはどうか?」
    「え・・?」
    「魏嬰は今、顔料が必要らしい。ちょうど良い機会だと思うが、いかがか?」
     自分に集まる視線に、金如蘭は戸惑いながらも藍忘機に促されて、魏無羨に近寄った。
    「・・・これ、遅くなったけど誕生日の祝い・・」
     金如蘭は顔を背けながらぶっきらぼうに包みを魏無羨の胸に押し付けた。
     突然の事に魏無羨は目を丸くし、外叔父の江晩吟も同じく目を丸くしている。
    「え、え?金凌から俺に?え、いいの?もらっても」
     包みを受け取った魏無羨は周りに確認している。
    「金凌、魏先輩が気にいるものを探したそうですよ。わざわざ雲深不知処まで届けに来たんですけど、魏先輩は雲夢にいらしてましたから」
     藍思追が付け加えるように説明する。
    「・・・絵を描くって聞いたから、顔料を選んだんだ」
     照れと恥ずかしさから、小声で告げてくる金如蘭に魏無羨は破顔する。
    「ありがとう、金凌!使わせてもらうよ!」
     包みを大事そうに抱えると魏無羨は足早に自分の部屋へと戻っていく。
     その背に揺れる髪が嬉しそうに軽く跳ねた。




    「ところで、魏先輩はこちらで何をされているのですか?」
     藍景儀が茶を啜りながら、疑問に思っていたことを尋ねた。
     じろりと江晩吟から睨まれたが、口から出た質問を戻すことはできないので愛想笑いで誤魔化す。
    「それは出来たものを見ればわかる」
     腕を組んで、招かれざる客たちとお茶会をする羽目になった江晩吟が短く答えた。
    と言っても、江晩吟は客の相手をしてる暇はなく次から次へと持ち込まれる書簡や訪ねてくる者に対応したりと忙しい。
     一方、藍忘機は江晩吟の忙しさには目もくれず、目を閉じて瞑想している。
     お互いに、お互いの存在を無いものとできるところはその場にいる者たちには凄いことに見えた。
     そんな中、時刻はもうかれこれ三刻近く経とうとしていた。
     蓮花塢に着いた時は、真上にあった太陽が遥か彼方の山の下へと潜り込もうとしている。
    部屋にも灯りが灯されはじめ、書簡から顔を上げた江晩吟は小さくため息をついた。
    「まだ時間がかかるかもしれない。金凌、今日はこちらに泊まるか?」
     金如蘭を見据えて言う江晩吟に金如蘭は自分を指差した。
    「私?含光君にお尋ねではなくて?」
     金氏の宗主とは言いながらも仙督である藍忘機を差し置いて1番年下の金如蘭に江晩吟が尋ねた事に金如蘭は首を傾げた。
    「仙督には聞くまでもない。ここまで押し掛けて来たということは、あいつを連れて帰ることが前提だ。そこの藍思追と藍景儀は藍忘機が帰らない限りここを動かないだろう。もう夕方だ。御剣で金麟台へ帰るには危ない。泊まれ」
     いつもなら用事が済んだならさっさと金麟台に帰れ!と怒鳴る外叔父が何も言わない。
     まして、泊まれとか今まで言われたことがないので少し迷ったが、素直に頷いた。
    「夕食と寝所の支度をさせよう。今しばらくここで寛いでろ」
     江晩吟は立ち上がると、部屋から消えた。
     緊張していた部屋の空気が少し和む。だが、瞑想している藍忘機がいるのだ、気は抜けない。
    「金凌が持ってきた顔料を使うってことは魏先輩は何か絵を描いてるってことだよな?江宗主も出来たものを見ろっておっしゃったから」
     肘で金如蘭の脇腹と藍思追の脇腹を突いた藍景儀がこそこそと話しかけてくる。
    「どんな絵を描かれてるんだろうね」
     藍思追も小声で返した。
    「俺たちが見せてもらったのは色がない美人画だもんな」
     美人画を描いた時に魏無羨の才能を目の当たりにした藍景儀は今でも描いてもらった絵を持っていた。
    「でも、わざわざ雲夢まで来て描く必要があるのか?」
     絵など門外漢の3人はう~んと考え込む。
    「ここにしかないとなると風景画、か?」
    「里心ついた時に眺めたいから蓮花塢を描いてるとか?」
    「魏先輩なら、絵よりも直接蓮花塢に行くよ。それに里心ついたとか含光君のお耳に入ったら・・」
     恐る恐る3人は瞑想する藍忘機を振り返る。
     微動だにしない様子は静かではあるが、怒っているようにも見えて恐い。
    「そろそろ含光君も我慢の限界だよね?」
    「ああ、魏先輩がこれ以上ここにいるのは危険だな」
     深刻な様子の藍思追と藍景儀に金如蘭は呆れ顔だ。
    「いくら道侶と言っても含光君が?」
     金如蘭の疑いに藍思追も藍景儀も顔が強ばった。そして更に声を潜める。
    「含光君の独占欲は半端ない」
    「景儀、言い方。愛情が深いんだよ」
     友を窘めた藍思追だが、言い回しを変えただけでは、と金如蘭は思う。
     そして自分の両親はどうだったのだろうかとも。
     婚姻するまでに戦いがあり、婚姻後も自分が産まれる僅かな時しか一緒に居れなかった両親。
     お前の両親は許嫁だから婚姻しただの、父は母を疎んでいただの、親が居ない金如蘭に対して同世代の子供は容赦ない言葉を浴びせた。
     真実を知りたいと尋ねても、誰もが両親の話になると腫れ物のように扱い本当の事は教えてくれない。
     そして、それは未だにわからないままだ。
    「金凌?どうしたの?部屋の用意が出来たらしいよ?」
     心配そうに顔を覗き込んできた藍思追に金如蘭は力なく笑う。
    「何でもない。部屋に行こう」




     食卓に並べられた料理は、野菜や肉、普通の味付けから辛いものまでずらりと並べられた。
    「うわっ、美味しそう!!」
     食べ盛りの藍思追と藍景儀と金如蘭は料理に目を輝かせ、早速席につく。
     部屋へと案内されてからしばらくすると夕食の準備が整ったと再び広間へと戻ってきた。
     だが、そこに藍忘機と江晩吟の姿はない。
    「含光君は、どちらへ行ったのかな?」
    「外叔父上も居ないや」
     目上の2人が居ないことには食事をするわけにもいかない。
    「うー、お腹減った……」
     ぐ~と鳴る腹を押さえて藍景儀がぼやく。それを横目で見た金如蘭がふふん!と鼻で笑う。
    「行儀悪いぞ、景儀。これぐらい待てないでどう・・」
     ぐう~と金如蘭の腹も鳴って金如蘭の顔が真っ赤になった。
    「ほら!お前だってお腹減ってるだろ!」
    「うるさい!お腹が減っても私は口にしない!」
     このままだとケンカになりそうな2人に苦笑いの藍思追が立ち上がろうとしたその時、部屋の外からわいわいと声が聞こえてくる。
    「ん~、いい香り!!腹へったー!!」
    「広間に行ってからだ!!あっ、こらっ、魏無羨!蓋を開けるな!藍忘機!見てないでこいつを止めろ!」
    「魏嬰、行儀が悪い」
    「腹ペコペコなんだも~ん」
    「何が、も~ん、だ。さっさと歩け!」
    「いたっ!蹴るな、江澄!」
     広間に蹴られた腰を擦りながら魏無羨が入ってくる。その後ろから、蓋付きの大きな陶器を乗せた盆を持った江晩吟と無表情の藍忘機が続いた。
    「よう!待たせたな!」
     3人に気づいた魏無羨がにこにこと笑顔で食卓に近寄ってきた。
    「魏先輩、ご用はお済みですか?」
    「ああ、さっきな~。うわ、旨そう!」
     ひょいっと行儀悪く料理を手で摘み口に入れた魏無羨の頭に拳骨が飛ぶ。
    「あだっっっ!!」
    「子供でも待てるのに何故お前は待てんのだ、魏無羨!含光君!こいつをちゃんとしつけろ!それにさっさと金凌に渡せ!」
    「もう本当に暴力的だな、江澄は。ほい、金凌」
     殴られた頭を藍忘機に撫でられながら魏無羨が手に持っていた丸めた紙を金如蘭に差し出した。
    「?何、これは?」
     手触りが良くさらりとした紙は、かなりの上質の物だ。
    「俺からの誕生日の贈り物」
     へへへっと笑う魏無羨を金如蘭はマジマジと見つめる。
    「何がいいか悩んだんだよ〰️。蘭陵金氏は金持ちだから物は何でも揃ってるだろうしさ~。でもこれは絶対に無い!」
     金如蘭は魏無羨の話を聴きながら、紙を広げた。
     真っ先に飛び込んできた、鮮やかな赤。
     続いて穏やかに微笑む女人。
     真っ赤な色は絵に描かれた女人が纏う婚礼衣装の色で豪華絢爛さが一目でわかる。
     だが、その衣装を纏っていても女人の美しさは引けを取らず、幸せそうな笑みに目を惹き付けられた。
    「うわぁ!綺麗な方ですね!!」
    「これは、どなたですか?」
     金如蘭の手元を覗き込んだ藍景儀と藍思追は、絵の見事さに感嘆し、魏無羨に尋ねた。
     3人の前に座り込んだ魏無羨はにやりと笑う。
    「俺の師姉。金凌の母の江厭離だ」
    「!!」
    「この方が・・・」
     女人の正体がわかるとさらには3人は食い入るように絵を見つめた。
    「この絵を描く為に魏先輩は雲夢へ?」
     藍思追は魏無羨へと視線を向けた。
    「ああ。師姉の婚礼衣装の行方を調べたら、蓮花塢の宝物庫に行き着いた。江澄が大事に保管してくれてたんだ、なあ?」
     魏無羨の呼び掛けに江晩吟は、ふうとため息をつく。
    「本来なら金麟台にあるべきだろうが、金光瑶が宗主となった時に、そこにあるのはどうかと思い俺が引き取った。いつか、金凌に返そうと思っていた」
     江厭離の婚礼衣装は江氏が用意したものであり、本来の持ち主である江厭離は他界している。もて余していた婚礼衣装を江晩吟が引き取る話に金氏も二つ返事で快諾した。
    「おかげで綺麗な師姉が描けた」
     魏無羨は食卓の上にある酒瓶に手を伸ばすと、蓋を外して1口含む。
    「この絵は俺の記憶の中で1番幸せそうな師姉だよ。金凌、お前の父との婚姻を師姉は心から願い幸せそうだった。俺と江澄がいくら綺麗だと言ってもお世辞だと言ってさ。結局、金子軒が言わない限りは信用してなかったなぁ」
     ちらりと視線で魏無羨が江晩吟に同意を求めた。江晩吟もこくりと頷く。
    「確かに親同士が決めた許嫁だったが、それだけで婚姻を決めた訳じゃない。姉上も金子軒も意思が強く、自分の想いで一緒になった」
     持ってきた陶器の蓋を開けて、江晩吟が中身を大きな匙で器に注ぎ分けながら、懐かしそうに話す。
    「藍湛だって、金子軒が師姉に告白したところに居たんだぜ。なぁ?」
    「ああ、とてもお似合いのお2人だった」
     魏無羨に尋ねられ答えながら、藍忘機は江晩吟が注ぎ分けた器を金如蘭の前にコトリと置いた。
    「すみません、含光君!お手伝いします!」
     慌てた藍思追が手伝おうとしたが、それを制して藍忘機はみんなの前に器を置いていった。
    「金凌、これ、何か知ってるか?」
     器を指差して魏無羨はにっと笑う。
    「外叔父上の骨付き肉と蓮根の汁物だろ?よく食べてるから知ってる」
    「これは師姉の得意料理だ。いろいろ骨付き肉と蓮根の汁を食べたけど師姉の味にそっくりなのは江澄の作ったやつだよ」
    「よく手伝ったからな。自然と覚えた」
     ズズッと魏無羨は汁を飲み相好を崩す。
    「ふわぁ、旨い!」
     つられるように、誰もが器に手を伸ばして汁を飲む。
    「ん!確かに美味しい!!」
    「お肉も蓮根も柔らかいね」
     喜ぶ友の横でそっと金如蘭は口を付けた。
     幼い頃から外叔父が何かと言えば作ってくれていたこの汁が、母に繋がっていたとは思わなかった。
     食べ慣れた味が特別に美味しく感じる。
    「金凌、誕生日、おめでとう」
     不意に江晩吟から言われて、ぐっと金如蘭は唇を噛んだ。
     母の1番幸せそうな絵と、母の得意料理。
     それらを用意してもらえたことに嬉しさが募る。
    「金凌。魏無羨が描いた絵は俺が表装してやる。後で金麟台に届けるから待ってろ」
    「・・ありがとう、外叔父上。ありがとう・・・魏師叔・・・」
     ぼそりと呟いた金如蘭の言葉に、骨付き肉を食べようとしていた魏無羨の箸から肉がころげ落ちた。
    「魏嬰、肉が落ちた」
     藍忘機が転げた肉を皿に戻しているとその腕を魏無羨がバンバン叩く。
    「聞いた?藍湛!今、金凌が俺のことを師叔って!!」
    「うん」
    「な、なんだよ!母上の師弟なんだから、師叔でいいだろ!?」
    「間違ってないない!俺は確かに師叔だ!いや~、そんな風に呼んでもらえるとは思わなかった。いい顔料といい呼び方と贈り物をもらった」
     機嫌よく酒を流し込む魏無羨に金如蘭は再度、母の絵を見る。そこであることに気づいて、絵を魏無羨に掲げた。
    「母上の絵は嬉しいけど、父上は?」
    「ん?師姉しか描かないぞ?」
    「えー!こんな絵は2人揃った絵を描くものだろう!?」
    「俺は師姉しか覚えてない。孔雀・・ゴホン。金子軒は描けない。俺は美人画しか描けないの!」
     無理無理と手を振りながら魏無羨は酒を呑む。
     それがどこか寂しそうで金如蘭はそれ以上言えなかった。




    「本当は描けたのでは?」
     藍忘機が、蓮花塢の魏無羨の部屋で寝台を整えながら聞く。
     窓辺に座り夜風に当たっていた魏無羨は少し目を伏せた。
    「・・・なんで?」
    「私も以前描いてくれただろう?美人画しか描けないというのはウソだ」
    「俺の記憶の金子軒は怒ってばかりだ。そんな絵、金凌には見せられないだろう?」
     チョイチョイと指で藍忘機を呼び寄せる。
     窓辺に寄ってきた藍忘機の腰に魏無羨は片腕を回して頬を寄せ目を閉じる。
     江厭離を思い出すと針でつつく様な胸の痛みは、死ぬまで続くだろう。
     それでも金如蘭と自分の為に、江厭離の絵を描きたかった。
     無言の魏無羨の背を藍忘機はそっと撫でる。
     その優しい感触に、魏無羨はにっと笑みを浮かべて道侶を見上げた。
    「それに早くお前の所に帰りたかったしな」
     落ちてきた藍忘機の唇を魏無羨は受け止める。
     段々と深くなる口付けに魏無羨の身体から力が抜けた。
    ふわりという浮遊感の後、ゆっくりと寝台に寝かされ、よく知っている藍忘機の重みが重なってくる。
    「俺、ここのところ絵を描いてて寝不足なんだよ、含光君」
    「……わかった。ぐっすり眠れるように対応しよう」
    「手加減しろよ、ンン!……あ……」
     甘い喘ぎが、夜風に混じった。




    「教えてくれたら良かったのに」
    「何をだ?」
    「あの汁物。母上の得意料理ならそうだってさ」
     口を尖らせて寝台の上にいる金如蘭のぼやきを、仕事の書簡に目を落としたまま江晩吟は聞く。
    「姉上の汁はもっと旨かった。その味に到達するまで言えるわけないだろうが。というか、何故ここにいる?」
     幼い頃、蓮花塢を訪れては外叔父の部屋に泊まっていた金如蘭だったが、金氏の宗主になった今、江晩吟は客間を用意した。だが、この甥はそんなことはお構いなしに、また外叔父の部屋へと来ている。
    「わかってるよ、聞きたいことを尋ねたら部屋に戻る。・・・外叔父上、父上と母上は幸せだった?」
     ぴくと江晩吟の眉が動き、書簡から顔を上げた。
    「幸せかどうかは当人しかわからん。だが、お前を腕に抱いてにこやかに笑う2人は幸せに見えた。短い幸福だったが、お前という幸せの結晶をちゃんと遺していった。金凌、自分を誇れ。お前は金子軒と江厭離の子だ」
     振り返らずに言い切る外叔父の背中を金如蘭は見つめ、寝台から降りた。
    「うん、わかってる。師叔の絵、早く表装して送ってよ?部屋に飾るんだからね。じゃあ、おやすみなさい」
     金如蘭は扉を閉める前に、小さくありがとうと溢す。聞こえてないだろうと思いながら。
    完全に扉が閉まると、江晩吟は目を閉じて空を仰いだ。
     我が儘放題だった甥の変化。
     こうやって子供は成長して手を離れていく。
     いつか、自分も金子軒と江厭離の元へと逝く日が来た時、金如蘭の土産話をたくさん持っていける様にしておかねば。
     もちろん、魏無羨や他の連中にも手伝わせなければならないなと算段しながら、くすりと笑い声を漏らして江晩吟は再び書簡に目を落とした。

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    🌸忘羨二次創作垢🌸

    MOURNING魏無羨がニヤニヤしながら嗅がせてきたのは、いつしか見た事のある見た目がおかしい香炉。眠る前から怪しい展開になるだろうことはわかっていたが、まさかこの時の夢を見るとは思わず、数回ほど藍忘機は目を瞬かせた。
    香炉 初めての口づけ―――これは、夢か。

    魏無羨が目隠しをしたまま笛を吹いている。自分はそれを眩しそうに見ていた。どうせ気づかれない、気づかれてもこれは夢。そう思い、藍忘機は昔と同じように木の上にいる魏無羨の元へと足を運ばせた。いつしかの夜狩りの帰りに、見知らぬ夫婦が木陰で深い口づけをしているのを見かけた。

    好きなもの同士なら、ああやって愛し合うのかと学んだ。
    そして魏無羨と同じ事がしたいという欲を感じた。

    魏無羨に初めて口づけをしかけた時、あの夫婦のそれを真似た。目を隠しをしたまま的(マト)に矢を放った時の魏無羨は本当に美しく見えた。あれは私のもだと印をつけたくなるほどに。

    笛の音が聞こえた瞬間、霊獣を狩る事よりも魏無羨の傍にいたいという欲求が強まった。そっと遠くから眺めるつもりだったが、風を感じて気持ち良さそうにしている無防備な彼を目前に我慢をする事ができなかった。もうすでに自分たちは道侶。今襲わなくても毎晩これでもかと愛し合っている。しかしこの瞬間、藍忘機はあの時の劣情がまざまざと蘇り、気づけば彼の手首を抑えて口づけていた。それも無理やり。
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