「暁人さんってかわいいよね~」
「分かるよ、だってお兄ちゃんは天使なんだもんね~」
「この見た目で22歳といえども仕草が完全に子供だし、守ってあげたくなっちゃうんだよねぇ。あーんしてあげたいなぁ・・・」
「わかるぅ! それに、たまに見せる大人っぽい表情もたまらないの!」
「うんうん、いつもあんな感じならいいんだけ、でもそこがまた可愛いんだよね!」
「そうそう!」
俺が暁人と麻里を連れてきた結果、女性陣が完全に暁人の虜になっていた。暁人の外見とその中身に惹かれ、さらに麻里の溺愛っぷりを見て、その思いはさらに強まっていった。そして会話を聞きながら、暁人は小さくため息をついた。
(あーあ、やっぱりこうなるよね・・・)
それはもう予想通りというべきか、それとも諦めの境地に達したのか、いずれにしても暁人は女性たちから向けられる視線から逃れるように下を向いていた。椅子の高さで足が着かずプラプラと揺らしている姿はまるで小さな子供のようで可愛らしいのだが、本人はそんなことを気にする余裕もないようだ。
「この前なんか私が買ってきたエプロン着けて料理してくれてるんだけどさぁ・・・あれは反則だよ!しかもその後ろ姿が超絶可愛いの!腰回りとか細すぎて抱き着きたいよぉ!」
「私は頭撫でてあげたいかな。あのサラッサラの髪の毛触ったら気持ちいいだろうなぁ」
「えぇ~ずるいぃ!私も触りたいよぉ!」
「だからお兄ちゃ~ん!こっちにおいで~」
「うわあぁぁ!!」
暁人が助けを求めるように叫び、絵梨佳と凛子は暁人に駆け寄り抱きしめていた。そして頭を撫でたり頬ずりしたりと、もはや収拾がつかない状況になっている。その様子を見ていた俺は思わず苦笑してしまった。
「おいおい、暁人も困っているみたいだしさすがにその辺にしないか?」
「やっ!せっかくのお兄ちゃん成分補充中なのに邪魔しないでよ!」
「そうだよ!これは私たちにとって大事なことなんだから!」
「お前らは本当に暁人のことが好きなんだなぁ」
「当然だよ!こんなに可愛いお兄ちゃんを嫌うわけないじゃん!」
「そうだよ!むしろ大好きすぎるからこそ、こうして独り占めしたいの!」
「いや、別に独り占めされてるつもりはないけど・・・」
暁人は3人から解放されると疲れ切った様子でテーブルの上に突っ伏していた。堤防が決壊したかのような涙をボロボロと流しており、目の周りは真っ赤になっていた。どうやら相当怖かったらしく、声もかすれてまともに喋れないほど消耗してしまっている。
(まぁ、無理もないよなぁ。あれだけの人数に囲まれれば誰だって怖いはずだ)
暁人には申し訳ないが、今の女性陣たちの様子を見ている限り、しばらく解放されることは無いだろうと容易に想像できた。そのため、俺は心の中で合掌すると、暁人を慰めるために彼の元へと向かった。
「暁人、大丈夫か?これでも飲んで元気出せ」
「ありがとうございます・・・」
俺は暁人に飲み物を渡すと隣に座って背中をさすってやった。すると次第に落ち着いてきたのか、先程までの悲壮感漂う表情は徐々に消えていった。両手でペットボトルを掴んでゆっくりと口をつけるその姿は小動物のように可愛らしい。
「落ち着いたか?」
「はい、何とか・・・」
「ごめんねお兄ちゃん、ちょっとやりすぎちゃったかも・・・」
「本当だよ、死ぬかと思った・・・」
「お詫びと言っては何だけどさ、今日はいっぱい甘えていいからね♪」
「うんうん、お姉さんたちが何でもしてあげるからねぇ」
「えっ!? ちょっ、待っ―――」
「ほら早くぅ! 私の膝の上に乗ってきてぇ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
暁人の叫び声がアジトを包み込み、しばらくの間は女性陣による愛玩動物のような扱いを受けていた。
****
後日、暁人はアジトに来るなりガジェットまみれの机の下に潜り込んだ。その上ではエドが黙々と画面に向かって作業を続けており、俺はそんな暁人を眺めながらため息をついた。
「なぁ、大丈夫か?」
ふるふると首を横に振るだけで、一向に顔を見せようとはしなかった。まぁ、理由は分かっている。昨日、女性陣たちに捕まった際、色々されたのが原因だろう。ふと気になったことが有ったため、俺はそのことについて聞いてみた
「お前があんな風に怯える訳を教えてくれないか?」
「・・・言いたくありません」
「あー、やっぱり駄目だったか。まぁ無理強いするつもりはないから安心しろ」
机の下でもぞもぞと動いているため、おそらくは恥ずかしがっているのだと思う。
「ここにいてもいいですか?」
《作業の邪魔さえしなければ問題ない》
暁人がエドに問いかけるとエドはボイスレコーダーを再生して返事をした。
「KKさん、何か買ってきてください。お茶とお菓子でもいいですから」
そう言うと俺に札を握らせてきた。たたまれたそれを広げると万札だった。
「今はこれしか持ち合わせてないのでこれでお願いします。あと、出来ればコーヒーも欲しいです」
「了解、行ってくるわ。あとさん付けは止めろ」
KKは暁人の注文を聞くと部屋を出て買い物に向かった。一方で暁人は机の下でじっとしている。配線まみれの狭い空間は暁人にとって落ち着く場所だった。
《君は狭いところが好きなのか?》
不意にエドがボイスレコーダーを再生して質問してきた。
「好き。なんか落ち着くから」
暁人が答えると、今度は少しだけ間を置いて再び質問してくる。
《その感覚はよくわからない。だが、君が落ち着けるというならそれでいいんじゃないか?》
「そっか」
《あの時、凛子と絵梨佳、それに実の妹にまで愛でられているのに怯える理由がよく分からないのだが、昔に何かあったのか?》
「なら少しだけ話を聞いて欲しいんですけど・・・」
《構わない》
「僕昔いじめられていたんで・・・」
《それはまたどうしてだ?》
「いじめっ子のグループから嫌がらせを受けていました。例えば上履きを隠したりとか、教科書やノートを破いたりだとか。他にもトイレで水を流されたり、ロッカーの中にゴミを入れられたりと色々とありました。原因は僕の外見のせいでもあるんですけど」
暁人が何かを言いかけた途端、KKが帰ってきた。
「おーい戻ったぞ」
「KKさん」
「適当に見繕って来たぜ」
「ありがとうございます」
暁人は紙袋を受け取ると、中に入っているものを取り出し始めた。そして、その中から出てきたものは大量のチョコレートやスナック菓子だった。
「俺がいない間何か話してたか?」
「別に」
《何も》
2人は同時に答えた。
「そうか」
KKはそれ以上追求しようとはしなかった。
「暁人、これ食って元気出せ」
「ありがとうございます」
暁人はお菓子を手に取ると、少しずつ食べ始めた。数分後、KKが買ってきた食べ物を全部平らげた。
「お前見た目よりすげー食うな」
「昔っからこうでしたから。それなのに成長する気配が全く無くて、満腹になっても時間が経つとまたお腹が空いてきて」
暁人の話を聞いたエドは暁人を自分の膝の上に乗せて色々と調べ始めた。おいいきなりやるから暁人が困惑しているぞ。
《これは滅多にない体質だよKK》
「なんだ?」
《摂取した栄養の大部分がエーテルに変換されてる》
それを聞いた女性陣たちがガン見したのは言うまでもない。