特に用もないのに外を歩いているとKKを見かけた。声をかけようかと迷っていたが、KKと並んで歩く人物に目が吸い寄せられた。男だ。年はKKと同じくらいだろう。
(誰だろう?)
男の腕には一人の子供を抱えていた。その子供は僕より年下くらいで髪は長く、口にロリポップを咥えている。一見すると女の子のようにも見えるが顔立ちや服装からして男の子だとわかる。KKのコートを片手で掴んでいる。KKは嫌がっているようにも見えるが、子供を無理やり引き剥がすようなことはしていない。男は笑っていた。とても楽しそうだった。KKと男は何かを話している。男は子供をあやすように背中を叩きながら歩いていた。その姿はまるで親子のようだ。
「お、亮太じゃねぇか」
僕に気づいたのかKKが僕の方を見る。そして男も僕の方を向く。男は軽く会釈をした。
「知り合いかい?」
男が尋ねる。
「ああ、前に依頼してきたんだよ」
「へぇー、はじめまして」
男は微笑む。僕は頭を下げた。
「よろしくね」
男は手を差し出してくる。握手を求められているのだと思った。僕は恐る恐る手を伸ばした。
「あの、その子はお子さんですか?」
僕は抱えられている子供を見ながら訊いた。
「まあこいつが保護者ということはあながち間違いじゃねぇな、暁人」
暁人と呼ばれたその子供は男の腕の中で僕の方をじっと見つめていた。
「暁人は人見知りなところがあってね、いつもこんな感じなんだ」
「そうなんですか・・・」
僕は何と言えばいいかわからず曖昧な返事をするしかなかった。
「君の名前はなんていうんだい? 」
「僕は亮太と言います」
「そういや今日は宗介は連れていないんだな」
「犬嫌いのKKが心配するなんて珍しい・・・」
「え?君は犬が嫌いなのか?」
男の人が驚いた表情を浮かべる。
「おい、この事は誰にも言うな」
「君が犬嫌いには驚いたよ」
「僕は犬好きだよ、KKは腰抜け」
口を閉じていた暁人が突然喋りだす。どうやら僕のことを犬好きだと思っているらしい。
「お前も黙れ!」
「わかった、言わない」
暁人の口が再び閉じた。
「ところでさっきから気になっていたんだけどKKと何の依頼で知り合ったんだい?」
男は不思議そうに首を傾げた。
「KKとは親友の宗介を探すために僕が依頼したんですよ」
「そういえばそんなこともあったっけなぁ」
KKは懐かしむように目を細める。
「で、その親友が犬だったと」
「何でわかった!?」
「会話の内容からなんとなく察することはできるさ」
「なるほど」
確かに会話だけを聞いていればそういう結論に至るかもしれない。
「先生」
「どうしたんだ?」
「喫茶店行きましょうよ」
暁人が男に話しかける。
「そうだな、立ち話もこれくらいにしてそろそろ行こうか」
男の提案により僕らは近くの喫茶店に入った。席に着くなり暁人は男の手を引き、メニュー表を見せる。
「今日は私の奢りだ。好きなものを食べていいぞ」
「亮太は何にするんだ?」
「僕はココアだけで十分で」
「遠慮なんかしないでもいいんだぞ」
「いえ、本当に大丈夫なので」
僕は断ったが結局注文することになった。男が店員を呼び、注文を伝える。しばらくして運ばれてきた飲み物を飲んだ。KKはコーヒー、男はエスプレッソ、暁人はホットミルクとナポリタンとショートケーキだった。
「本当によく食うな。お前ら昼飯何食った?」
「暁人に誘われてラーメン屋に行ったよ。私は塩ラーメンしか頼まなかったが暁人はラーメンとチャーハンを食べてたよ、おまけに替え玉まで」
男はKKに写真を見せながら話している。写真には暁人が嬉しそうに麺を口に運んでいる姿が写っていた。
「相変わらず食い意地張ってんなお前は」
「でもまだ足りない」
「それでもか」
暁人はナポリタンをフォークでくるくると巻きながら食べる。
「こう言うのは好き」
「見てればわかるよ」
男は笑いながら暁人に言った。
「お二人は仲が良いんですね」
僕は二人を見て思ったことをそのまま口に出した。
「まあ、家族みたいなものかな。暁人と私は血が繋がっていないが」
「暁人がお前に完全に懐いちまったからな」
KKは男に嫌悪感を示していた。あんまり仲はよくなさそうな気がしてくる。
「そもそも最初に暁人を助けたのは俺だからな」
「付き合いは私の方が長いぞ、それに比べれば君は」
「うるせえ今度会ったらお前ん家のポストにモヤシぶちこむぞ」
「それならアジトに悪霊をけしかけるぞ」
「テメェのケツの穴から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせてやろうか?」
「なら君を実験台にしてマレビトの群れに放り投げるぞ」
「暁人を凛子の所に連れて泣くまでよしよしさせてやる」
「めんつゆと麦茶間違えてしまえばいい」
「うぜぇ」
「黙ってくれ」
KKと男は机を挟んで言い争いを始めた。僕は苦笑いしかできなかった。すると暁人がフォークに刺さったケーキを差し出してきた、しかもイチゴ付き。
「あげる」
僕は戸惑いながらもそれを食べた。口の中に甘酸っぱい味が広がる。
「おいしい?」
「うん、ありがとう」
僕は笑顔で答えた。
「気にしないでいいよ、あの二人はいつものことだから。後で僕が泣き真似すればいいことなんだから」
本当に子供かと思うくらいませている暁人はKKの飲みかけのコーヒーをグイッと飲み干した。その後もしばらく二人の口論は続いた。最終的に暁人の嘘泣きが効いたのか、KKは折れて男は許すことになった。