『事象』「あの、あなた達は一体何ですか?」
「まずはその説明をしようと思って」
路地裏にいた男二人に声をかけられそのまま家に連れて来てしまった。
「お兄ちゃん何したの?」
麻里に心配そうな目で見つめられ俺は少し心が痛んだ。
「いや、何もしてないよ?ただこの人達困ってたみたいだからさ」
「本当かなぁ〜」
俺の言葉を信じてくれない妹は疑いの目を向ける。
「それであなた達は一体誰なんですか?」
「まあ、祓い屋・・・霊媒師とでもいった方がいいかな?」
サングラスを掛けた青年が大股で椅子に座りながら膝に肘をついてそう言った。
「れ、れいばいし・・・」
「簡単に言うと幽霊退治の専門家だ」
俺が驚いているともう一人の男が付け足すように言ってくれた。
「な、なんでそんな人がこんな所に?」
「それは・・・あんまり公にはできないけど」
青年は言いづらそうに顔を歪める。
「それより・・・憑いてるよ、あんた」
「えっ?」
いきなり人差し指で差され困惑していると青年は続ける。
「気づかなかったってことはいつの間にか入られていたのかもね」
「お兄ちゃん大丈夫!?」
麻里も慌てるようにして俺を見てくる。
「ああ、多分平気だと思う・・・」
自分でもよくわからない感覚なのでそう答えるしかなかった。青年は立ち上がると右手の革手袋を外し、持っていたトランクからタオルを取り出して椅子に置く。
「立って」
「へっ?」
「立ってって言ってんの!」
強く言われ訳もわからず立ち上がってしまう。すると青年は右手を僕の背中に勢いよく伸ばした。
「指が入ってる!!」
麻里が叫び声を上げる。しかし俺は痛みを感じていなかった。むしろ温かい何かが自分の中に入ってくるような感じがするのだ。
「もう少し我慢しろよ」
そう言われると更に中へと手が入り込んでくる。その度に身体の中に電気が流れたかのような刺激を感じた。
「終わった」
そして青年は取り出すと取り出したものをタオルの上に投げ捨てた。それは金魚に手足が生えたような見た目をしていて生きているのか尾鰭が動いていた。
「うわっ!きもちわるい」
「これがあんたに取り憑いてたんだよ」
青年は吐く真似をしながら言う。
「これって・・・何ですか?」
恐る恐る聞いてみると顔を見合わせて答えてくれた。
「ただの雑魚、野良犬と似たもん。てか、素質あるね」
「素質?」
「素質というか、憑依体質と言っても過言じゃない」
その言葉を聞いて隣に座っていた麻里の顔が青ざめた。
「じゃあお兄ちゃんはこのままだと大変なことになってたんですか!?」
「いや、それが妙に大人しかったんだよね・・・」
****
「麻人は可愛いね~」
「ん~?」
絵梨佳が麻人にベッタリと抱きつきながら頭を撫でていた。最近やけに引っ付いているように見える気がするのだがこれといったものが感じられなかった。
「なあ凛子、あんな感じだったのか?」
「いや、昨日突然あんな感じになって」
「そうなの?まあいいか」
まさか・・・な。嫌な予感が頭を過るが、そんなはずはないと思い直す。俺の勘違いだと思い、とりあえず気にしないことにした。少しモヤモヤするがあまり深入りしていいことでもないだろうし。
「おねーちゃんのパンケーキたべたい!」
「そうだね~いくらでも作ってあげるね~」
完全に姉弟のようにしか見えない光景を見て俺は苦笑していた。
「ここまで仲良くなるとはな」
「そうね・・・」
「何か不安でも?」
「なんだか怪しくて・・・」
「心配しなくてもいいんじゃねぇのか?」
「・・・」
凛子は心配そうにあの二人を見ていた。
「あの子は自分に素直になっただけって言ってたわ」
「素直になった?」
「わからない、ただ憑き物が取れた顔をしてる」
そう言われても俺にはいまいちピンと来なかった。
「素直か・・・」
「あなたも素直になったら?」
「俺は十分素直だ」
《いやひねくれてるぞ》
「なんだと!」
「確かに言われてみれば」
「んだと!」
「確かにKKって素直じゃないよね」
「おじさんバツイチ」
「絵梨佳!何てもん教えてんだ!」
「教えてないよ」
「嘘つけ!今教えただろ」
「おじさんおこった」
「怒らせてるのはお前らだ!!」
俺はあの後すぐに帰るつもりだったが、麻人とのおいかけっこに半ば強制的に参加させられ子供二人を追いかけ回した。
《KK早くき───》
「まさか・・・」
凛子からの電話が途中で切れる。やっぱりあの時のあれはそういうことだったのか。