ー父がいたらあんな感じなのか…いや、僕が持つこの気持ちはそんな簡単なものじゃない…ー
暁人は唯一の家族の麻里を失い両親に別れの挨拶をして鳥居を潜りKKとも二度と逢うことが無い別れを済ませた。
失うことが多い夜だった。KKが体から消えたと同時に暁人が扱えたエーテルは見る影もない、勿論霊視もできないグラップルもできないそもそもマレビトを視る事もできなくなったのだ。
あの夜が夢だったのではないかと錯覚を覚えるぐらい日常は普通に進む。進む、進む。
唯一手元に残った彼の物は写真が入ったパスケース。これも時期手放す時が来るのだろう。
全てが終わって人々が戻った後エドにKKの事を聞いた。
KKのアジトには何もなかったからだ。彼の事が分かるものがなにもかも。分からないだらけなのにKKは伝言と言う名の遺言を暁人に託したのかと苦笑いを浮かべるしかなかった暁人の前にエドが現れたのは僥倖だったのかもしれない。
KKが体の中にいた時にできた事が今はできないから手伝えないと伝えたら残念そうにしていたが何かあったら連絡してくれと連絡先を交換した。
その後はもう目が回るぐらい大変だった。
KKの家族を探してKKの遺言を伝えパスケースを渡そうとしたが要らないと断られ彼の写った写真をついでに渡されまた一つ彼の物が増えたなと嬉しくなったりして…。
でも彼はもういない。暁人の心を痛めるには充分な事実だった。
暁人の弱く柔い部分を見せまたKKの弱いところを見れたあの夜、きっと彼に恋をしたんだろうと暁人は思う。
最後の最後まで軽口を言い合ったあの時が懐かしく、そして悲しくなる。
「たまにKKがいるんじゃないかって見てしまうんだ。また、マレビトに向かって暴れてるんじゃないかって…」
1人言い訳を零すもそれを聞く者は誰もいない。それは暁人が路地裏にいるからだ。
たまにKKを探してしまう。もう彼はいないのに。
じっと路地裏の奥を見ていると何故かその奥は靄がかかり傘を差した…
そう、傘を差した黒いスーツを着た何かが暁人を見ていた。
「っ!」
忘れていない。忘れるわけない。それはあの夜散々出会ったマレビトだからだ。
マレビトを認識した瞬間暁人の体からエーテルが流れる感じがした。
そしてどこからか「こちらの世界へようこそお暁人くん」といない筈の彼の声が聞こえた気がした。