「ねえなんでKKと絵梨佳ちゃんのお父さんが視線だけで人殺せそうなオーラだしてるの?」
間違えてアジトの住所を渡した僕は二人がお互いに睨み合っているところを見ながら塩神を食べていた。美味しいけど水欲しい。凛子さん達は影から覗いている。
「なんでお前が暁人と一緒にいたのか説明して貰おうか?」
「彼が私のところに突然迷い込んできたんだ。かなりのマイペースで振り回されてしまって最終的に空腹で動けないから運んでくれとこの紙を渡してきたんだ」
「暁人!」
「ヴェッホ!」
すすっている最中にKKがいきなりこっちを向くものだから驚いて変な声が出てしまった。
「大丈夫か?」
「まあ、なんとか・・・」
そう言いながら塩神のスープを飲む。うんやっぱりおいしいけど水欲しい。
「なんでお前が暁人の心配してんだよ」
「彼は記憶喪失なんだろ?だったら尚更大切にする義務があるはずだ」
「いやそれはねーよ」
「何故だ?」
「お前に関係ねぇんだよ」
「なんだと!?」
「お前敵のアジトにこんにちわしてんだよ、立場わきまえrんぐっ!」
箸に麺を巻き付けて無理矢理KKの口に突っ込む。
「暁人くん!?」
「暁人さん!?」
《うるさいからってそれはない》
凛子さん達が影からひそひそと話しているのを聞きつつKKはモゴモゴしながら飲み込んだ。
「お、おまえ!なんてことしてくれんだ!」
「いやなんかイラっときたんでつい」
「ついじゃねーよ!」
「それにしてもこれおいしいよね」
「聞けよ!」
「でもこれおいしいけど水欲しいな」
「ちょうどここに北アルプスの天然水が」
「やっさしー」
絵梨佳ちゃんのお父さんから水のペットボトルを受け取り一気に飲む。
「ぷふぅ~生き返ったぁ」
「そんなに喉渇いてたんか?」
「もう口の中パサパサだよ」
「そりゃあんなもん食えばな」
「てかなんでここカップ麺しかないのさ!?」
「自炊できなくて悪かったな」
「なんだ?自炊もできないのか?」
「自炊できなきゃ人間生きてけらんないよ」
「お前らムカつくな・・・」
KKげふんごほんと咳払いをして話を戻す。
「とにかくこいつは俺達の敵だ」
「でも悪い人には見えないよ」
「騙されるな!こいつの本性はきっととんでもない悪人だ!」
「ひっでえ言われよう。まあ自分を不幸にする奴は親であろうと殺すみたいな思考持ってそうだな~って思ったし、自分さえ良ければそれでいいとか思って自分が楽したいために他人巻き込むのも構わず、娘のことも考えずに周りに迷惑吹っ掛けながらのうのうと生きてそうだな~って」
「お前の方がボロクソ言ってんな」
「思ったことが口に出るもんで僕はただ自分の好きなように生きたいだkぶへぇっ!!」
KKが僕の顔面目掛けて何かを投げつけてくる。避けようとしたけど間に合わず、顔に直撃した。
「いったいなぁ・・・これなに?」
「お前がさっき飲んでた水のペットボトル」
「ラベル剥がして~」
「自分でやれ」
「う~い」
ラベルをゴミ箱を捨てようと立ち上がった途端ドアチャイムが鳴り、凛子さんが開けると麻里が飛び込んできた。
「麻里、どうしたの?」
「今すぐ鍵とカーテン閉めて!!」
「なんで?」
「いいから!!」
半ばパニックになって半泣きになっている麻里を見て只事ではないと思い言われた通りにすると外からドアをカリカリと爪先で掻くような音が聞こえてきた。
「ねえまり~どこ~?」
外から僕の声が聞こえてくる。
「もしかしてここ~?」
ノックしてくる音まで聞こえる。
「ねぇ、でてきてよぉ、いるんでしょ~?」
間延びした拙い口調で話してはいるが、その声の主は明らかに正気じゃないことを物語っていた。
「何あれ・・・」
「おい暁人、お前なんかやったんじゃねーだろうな?」
「やってないよ、というか何も覚えていないよ」
「麻里、なんか知ってるか?」
「わかんないよ、急にベランダに・・・それから、それから、ずっと・・・ああなって・・・」
「大丈夫だから落ち着いて」
「うん・・・」
「まり、まり~、でてきてよぉ、おにいちゃんさびしいよ~」
今度は窓の方に移動したのかガラスを引っ掻く不快な音が響き渡る。
「ねぇ、あけてよ、ねぇってば」
「うるせえな!静かにしろ!」
KKが怒鳴り声を上げると一瞬だけ静寂が訪れ、その後すぐに耳をつんざく悲鳴が上がる。
「いやぁぁあぁあなんてこというのぉぉぉおぉおお!!まりにひどいことしないでよぉぉおぉおお!!!」
「うるっせえんだよ!!」
「待って!!」
「このや、ろ・・・う」
****
カーテンを開けるとそこにいたのは、暁人と同じ顔をした何かだった。目と口が黒く肌は白く首から下は黒い異形の身体で長い首を左右に振り回していた。
「なあ、これって」
「あ、ああっ、あ、あああ、まり、おねがい、たすけて」
『それ』は麻里に悲願するが麻里は拒絶するように首を振る。
「な、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
壊れたラジオのように同じ言葉を何度も繰り返す。発狂して窓ガラスを破り中に侵入してくる。
「いやだいやだイヤダイヤダいやだよ、どうしてこうなるのボクはなにもわるくないのにぃぃぃいぃいい!!」
『それ』は急に立ち上がり俺に向かって叫び始めた。
「いやだぁああぁあもういやぁぁぁああああ!ぼくがなにしたっていうの?なんで?なんで?どうして?ぼくがなにをしたの?ねえ?おしえてよ?おしえてよ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねェエ?ネぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!」
「うっ・・・」
あまりの狂気と威圧感に俺は思わず後ずさった。『それ』は暁人の方を見ると巨大な両手で包み込むように持ち上げると口を開いた。
「かえせよかえせかえしてくれよぉ!おまえのせいでおまえのせいおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえのおまえの」
暁人に何度も同じ言葉を吐き続ける。暁人は抵抗することもできずただされるがままにされていた。
「おれをかえしてぇぇぇぇええぇぇえ!!」
「そんなこと言ってもな・・・」
「かえせかえせよかえせかえせカエセかエせカえせかえせセカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせカえせかえせ」
「うるさいな・・・」
何故か暁人はなんともなく、むしろどこか冷静そうに見える。その態度を見た『それ』はさらに激昂した。
「なぁああぁぁぁぁんでぇぇぇえええ!へぇえきなぁぁあぁああぁぁぁぁぁああぁああぁぁぁぁぁぁああ!!!」
「だって君のこと知らないし」
すると『それ』は暁人を投げ捨て、床を這って何処かに去っていった。