お題『満月』「月が綺麗だね」
ベランダで2人並んで月を見上げていると、暁人がそう呟いた。そのままの意味で呟いたわけではないのは明白で、オレは少し笑いながら
「今日は満月だからなぁ」と返した。
「…そうじゃなくて」
味気ないオレの返答に暁人がムッとした表情になる。可愛らしい反応につい口角が上がった。
「そんなの、言わなくてもわかるだろ?」
咥えていた煙草をそっと離し暁人に接近するも、口付けすることはなくまた離れる。暁人がじれったそうにオレを見つめて悔しげな表情を浮かべるのがなんとも堪らなくて。
「…オマエと見る月だから、良いんだよ」
そうして、ふぅと煙草の煙を暁人に吹きかける。
「うわッ、煙いんだけどッ」
「嫌いじゃねぇだろ」
非喫煙者の暁人でもオレの吸っている煙草の香りは嫌いじゃないらしく、むしろ好きな部類に入るほうだと言っていた。だからこうして隣で吸っても文句は言われない。
「そうだけど、いきなり吹きかけられたらびっくりするだろ」
「…………コレの意味は知らないんだな?」
本当に分からないようで暁人が、え?と首を傾げる。月にまつわる告白言葉は分かっても、さすがにこの行為の意味は知らないらしい。
「な、なに…?」
暁人に手を伸ばし引き寄せると、ぎゅっと密着しながら耳元で囁いてやった。
「いいか?顔に煙を吹きかけるってのはな……」
それを聞いて赤面する暁人の肩を抱いて、オレは部屋へと戻っていく。
そんな2人の姿をよそに、満月は光り輝いていた。