「美味しいか?」
「うんおいしー」
チャーハンを食べる子供。俺はその光景を見て、天に召されそうになっていた。いきなりアキトが子供に成長を遂げて、飯をどうするか話し合った結果また満場一致で俺がやる羽目になった。凝ったものは作れず、簡単なものしか作れなかったが、アキトは旨そうに食べている。
「付いてるぞ」
「ん」
アキトの頬についた米粒を取って食べる。はたから見れば仲のいい家族に見えていることだろう。
「ごちそうさま」
「早いな」
いつの間にか皿が空になる。アキトの胃はブラックホールか?
「おさら」
「あーそれは俺がやるよ。座ってろ」
立ち上がろうとするアキトを制止して、食器を流しへと持って行く。洗い物をしていると後ろからちょこちょことアキトがやってきた。
「ミルクのみたい」
「あいよ」
粉ミルクの缶と哺乳瓶を持って来たので、とりあえず人肌程度に温めてアキトに飲ませる。
「おいしいか?」
「うん」
こくこくと頷くアキト。可愛い・・・じゃなくて!何故5歳の子供が哺乳瓶で粉ミルクを飲むのか。俺も身体が覚えていたのか無意識にやってしまった。
「ん~・・・おかわり」
「・・・お前が好きならいいよ!」
空の哺乳瓶を差し出すアキトに、俺はついつい甘やかしてしまった。
****
「どう?」
「ブカブカだろ」
「しゅーん」
アキトを拾ったときに一緒にあった服をアキトは袖を通していたが、サイズが合わず身体からずり落ちてしまう。それもあるが問題は右耳の辺りにある角だ。赤ん坊の時はそんなに目立たなかったが、成長した今伸びて目立つようになってきた。
「どうにかなねえのか?」
「えー?」
首をかしげるアキト。多分大人の姿でいた時はフードを被っていたのだろう。そうなると
「凛子、頼みごとがあるんだが」
俺はスマホを取り出して凛子に連絡をする。しばらくしてから両手に袋を提げてやって来る。
「私を使いっ走りに使うなんていい度胸ね」
「悪いな」
「りーこ」
「私のこと覚えててくれてたの?」
「うん」
凛子は袋から買ってきたものを取り出していく。出したのは子供用のパーカーだが猫耳が付いていたり恐竜のデザインだったりとデザインがエキセントリックで子供には少々派手だと思う。
「これ着て」
「わかったー」
凛子はアキトにパーカーを着せていく。猫耳フードがついたパーカーは意外にも似合っていて凛子は思わずシャッターを切る。
「んー?」
カメラを向けると不思議そうにカメラ目線になるアキト。次に恐竜のパーカーを着せると、牙が生えたフードと尻尾が似合っていた。
「こっち向いて!」
「なー?」
「っ!」
凛子がシャッターを切る度に、ポーズを取るアキト。
「こんなに撮りまくるとは・・・」
「可愛かったからつい」
撮った画像を見ながら凛子はホクホクしている。俺と凛子は改めてアキトを見る。キョロキョロと部屋を見回している姿は好奇心旺盛な子猫のようだ。俺はそんなアキトを抱き上げると、頭を撫でた。すると気持ち良さそうに目を細めるアキトは、もっと撫でろと言わんばかりに頭を擦りつけてくる。
「はぁ・・・」
「何よその溜息」
「癒されるなと」
「同感ね」
俺と凛子はアキトを愛でていた。
****
凛子が帰ったあと、アキトは疲れたのか恐竜のパーカーを着た状態で座布団の上で横になって寝息を立てていた。
「アキトー風呂入んぞー」
「ん~・・・」
暁人は眠そうな目を擦って身を起こす。俺が抱きあげようとすると、眠そうにしながらも大人しく抱き上げられる。
「眠いか?」
「んーだいじょうぶ」
半分寝ながら返事をするアキトを風呂場へと連れて行く。服を脱がせて風呂場に入れて椅子に座らせると、シャワーのお湯を少しずつ出していく。温度を確認したらアキトの頭から少しずつお湯をかけていく。
「熱くないか?」
「へいき」
髪を濡らすとシャンプーを適量取って暁人の頭を洗う。
「・・・きもちいい」
「そうか?痒いとこはないか?」
「ん~・・・」
寝かけながら返事をするアキト。俺は洗っていくうちにだんだんと楽しくなり、念入りに洗ったりトリートメントをしたりと気が付けば全身綺麗にしていた。そして次は身体を洗おうとしたとき、ふと気づいてしまった。
(流石にそれはダメだろ・・・)
子供だからと言って、俺がアキトの身体を洗ったりするのは背徳感がある。しかしこのままでは風邪を引いてしまうので俺は心を鬼にしてアキトの身体を洗い始める。
「あっ・・・やぁん」
「変な声出すな!」
泡立ったタオルで全身を洗っていく。背中を擦るとくすぐったそうに身を捩るが、暴れることはなかった。身体が小さいから大したことはないと思っていたら、意外と疲れることに後から気づいた。それからなんとか身体を洗い終えると、俺はぐったりしていた。これが歳か。湯船にアキトを浸からせて、俺は自分の身体と頭を洗っているがその間にアキトは寝てしまった。
「のぼせるなよ・・・」
手早く洗って風呂を出ると、タオルで軽く水気を取ってパジャマを着せてドライヤーで髪を乾かす。俺も同じように身体を拭いて、パジャマを着る。
「歯磨きだけするか」
洗面所に暁人を連れて行き、歯ブラシに歯磨き粉を付ける。そしてアキトの歯を磨こうとして気が付いた。
(あー俺子供用の歯ブラシとか知らねえや)
仕方ないのでとりあえず予備の歯ブラシを開封してアキトに持たせる。
「ちゃんと磨けよ」
「んー」
うつらうつらするアキトの口から歯磨き粉が垂れそうになるので、急いで口に指を突っ込んで口を開けさせる。それから歯ブラシを口に入れてゆっくり動かしていく。すると口の端から泡が溢れてくるので口をゆすいでやる。一通り終わると俺も歯を磨いてからリビングに戻ると、暁人は座ったままこくりこくりと船を漕いでいた。
(これはもう無理か・・・)
「ん」
暁人を抱き上げて寝室へと行く。ベッドの上にアキトを寝かせる。
「じゃあおやすみ」
「・・・ねないの?」
横になろうとしていたところにアキトに袖を引かれる。一緒に寝たいのだろうか?いやでも5歳児と言っても中身は違うわけだし・・・。というか俺の理性が保てそうにない。
「寂しいか?」
「・・・うん」
「そうか」
俺はアキトの身体を布団の中に入れて、俺も同じ布団に入る。するとアキトは嬉しそうに身を寄せてくる。
「おやすみ」
「・・・おやすみ」
「KKおはよー!」
「誰だおめぇぇぇ!?」
俺は布団の上で下半身丸出しの状態で目覚めた上に、小学生くらいの角を生やした子供が跨がっているという不思議な光景に思わず叫んでしまった。