「あ、あの……!」
北斗先輩と何度目かのデート中。
若い人に人気のお店が並ぶ通りで俺が夢中になって一人はしゃいでいた頃、北斗先輩が誰かに話しかけられてた。見ると俺と同い年くらいの女の子二人が、少し緊張しながら先輩と向かい合っていた。うっかり単独行動をしていた俺は、離れたところからこっそり様子を見てみることにした。
どちらから喋ろうかと目を合わせていた二人の内の一人が口を開く。
「あの、氷鷹北斗さんですよね……!」
「あぁ、そうだが」
「やっぱり……!わたし達、ずっとファンなんです!」
「そうなのか、ありがとう」
あのTrickstarの氷鷹北斗だと分かり、女の子たちは本人の前でぴょんぴょん跳ねながら喜んでいた。そりゃそうだ。遊びに来た先で推しに会えるなんて嬉しいに決まってる。うんうん、わかるぞその気持ち。
「よかったら、握手だけでもさせてもらえませんか……!」
「もちろん」
「ありがとうございます……!」
先輩の手が、女の子たち一人ひとりの手をしっかり握っている。
でもその手はさっきまで俺の手を握ってたのになぁ……なんて考えていると、女の子たちは「これからも応援してます!」と言いながら北斗先輩と別れた。先輩も持ち前の王子様スマイルを見せ、手を振って二人を見送っていた。
その笑顔も、さっきまで俺だけに見せてくれてたのにな……。
ちょっとだけ、心臓がチクッとした。
先輩がまた一人になったのを見計らって、足早に先輩のところへ向かう。ずっと離れたところから見てたと感づかれないように、自然に。演劇部員の腕の見せ所だ。
「先輩〜!やっと見つけました!すみません、一人にしてしまって……」
「いや、大丈夫だ。欲しかったものがあったのか?」
「はい、気になっていたものを見つけて、つい……」
気づかれていないみたい。単独行動したことに怒りもせず、先輩は微笑んでくれた。ほっと胸を撫で下ろしつつ、俺たちは再び通りを歩く。人が多くて自然に先輩と肩がぶつかったのをいいことに、俺は自分の右腕を先輩のそれに絡ませた。
「……」
すると北斗先輩が、俺にしか聞こえないくらいの声で話しかけてきた。
「もしかしてヤキモチ妬いたのか?」
まるで心臓の柔らかいところをぎゅっと掴まれたような感覚。見透かされていたのが悔しくて、先輩の左手をぎゅーっと握った。真っ赤な顔なんて、死んでも見せられない。
「……今日は寝るまで、俺のものですから」
こんな俺を見て、先輩の手は優しく握り返してくれた。
「……そうだな」