時刻は夜の七時。
すっかり日も暮れ、真ん丸なお月さまが顔を出し始めた。
連休最後の今日、俺は一日中北斗先輩と一緒に過ごした。ずっと見たかった舞台を見て、お洒落なカフェでご飯を食べて、気になっていたお店を見て回って。北斗先輩は俺のわがままにずっと付き合ってくれた。凄く申し訳なかったけど、一人で行くより断然楽しかった。
何せどこに行くにも何をするにも、北斗先輩はニコニコしていて、俺の心臓は大きく鳴りっぱなし。先輩に手を恋人繋ぎされた時には、風船みたいにどこかへ飛んでいきそうだった。もし俺が飛んでいきそうになっても、先輩はしっかり掴んでいてくれそうだけど。
そうこうしてるうちに自分の最寄り駅に着いた。先輩とはここで別れてしまう。
つまり、デートはここで終わってしまうのだ。
向き合うと、暗がりの中でも見える綺麗な先輩の顔、
「今日は本当にありがとうございました!」
「こちらこそありがとう。すごく楽しかった」
「……また、デートしてくれますか?」
「もちろん、都合が合えば」
「やったぁ……っ!」
思わずガッツポーズすると、先輩に笑われた。人通りが多いところでめちゃくちゃ恥ずかしい。
「友也は可愛いな」
「えへへ……」
今絶対顔赤いのバレてる。いや、朝からずっと赤かったかも。でも最後までちゃんとしろ俺……!
恥ずかしさが冷や汗になって背中を流れる。
「それじゃあ、気をつけて帰るんだぞ」
先輩はそう言って、俺の頭を撫でる。先輩はお別れの時になるといつもしてくれるんだけど、俺はあまり好きではない。
いや!してほしくない訳ではない!けど!
ここで本当にお別れだってわかってしまうのが嫌だからだ。
「また明日」
先輩が繋いでいた手を離した途端に、俺は先輩が着ているジャケットの裾を掴んだ。
「……先輩!」
俺、やっぱり、
「まだ、先輩と一緒にいたい……です」
正直、この時先輩がどんな反応をしたのかは全然覚えていない。
でも、月明かりの下で先輩が笑ったのははっきりと見えた。