Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    kotobuki_enst

    文字ばっかり。絵はTwitterの方にあげます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 47

    kotobuki_enst

    ☆quiet follow

    あんず島展示②
    弓あん。あんずさんから寄せられる信頼の話。あんずさんは弓弦の邪はせいぜい間抜けな寝顔を写真に収められたりとかその程度だろうと思った上で言ってる。これがもし衣更相手なら多分ああは言ってないのでタチが悪い。

    ##弓あん
    #星とあんずの幻想曲3
    fantasyOfStarsAndAnzu3

    良いと仰るのであれば 部屋に入ってすぐに彼女の姿が目に入り、それから思わず大きなため息をついてしまったのは仕方のないことだと思う。

     端的に言って弓弦は暇だった。その日のスケジュールはただひとつ、夕方の遅い時間からESにてfineのメンバーとプロデューサーであるあんずと共に最近決まったばかりの腕時計ブランドとのタイアップ企画について話を詰める。それだけである。個人としてもユニットとしても他に仕事は入っておらず、取り立てて片付けるべき業務も見当たらなかった。侍るべき主人は現在学友とティータイムを楽しんでおり、「弓弦はいなくていいから!」と釘を刺されている。しかし打ち合わせの予定が入っている以上主人の邸宅に戻るわけにもいかない。故に、早めに現場に入り掃除なり茶の準備なりで時間を潰そうと思い立ったわけである。
     ESから支給されている専用の端末で確認したところ、打ち合わせのためにあんずが押さえてくれた会議室はfineの予定時刻の一時間前まで他所のユニットが利用予約を取っていたが、彼らの予約時間は過ぎていた。時間にルーズな人間の集うユニットでもない限り既に空室となっているだろう。そう考えて、会議室のドアをノックした。返事はない。失礼いたします、と一応声をかけつつ扉を開けたが、予想に反して会議室には先客がいた。この後の打ち合わせに参加するP機関所属のプロデューサーであり、自分の同級生でもある少女、あんずである。
     彼女が後で使用する資料を人数分用意しながら「お疲れさま、弓弦くん。早いね」などと笑いかけてくれたならプロデューサーとして百点満点の行動だっただろうが、あんずは入室してきた弓弦に一切反応を示してはくれなかった。彼女は部屋の机に頬杖をついて、すうすうと眠りこけていたのである。十分な睡眠時間を確保できないほどに仕事に追われることはこの業界では美徳とされるらしいが、それにしたって彼女の行動は文句なしの赤点である。
     よくもまあ、こんな場所で熟睡できるものである。ESの中の大抵の部屋は内側から鍵が掛けられるようにできているが、彼女はそうしていなかった。加えてこの部屋のドアは一部がガラスになっており、その気になれば外側から部屋の様子を覗くこともできる。第三者が彼女の寝顔を盗み見ることも隠し撮ることも、何なら部屋に侵入して鍵を掛けた上で彼女によからぬ行為を働くことだってできるというのに。

    「あんずさん、起きてくださいまし」

     肩を軽く揺すりながら声をかける。されども彼女はむにゅむにゅと意味を成さない寝言を口にするばかりで起きる様子がなかった。安らかな、何も知らない赤子のような無垢な寝顔が崩れることはない。愛らしい幼子の寝顔は毎朝晩主人のそれを眺めているし、やわらかそうな頬も同じく主人の身嗜みを整えるため毎日触れている。あんずの頬も、主人と同じなのだろうか。胸の奥底でそこに触れてみたいという欲がむくむくと育つのを感じたが、理性でそれを押し殺す。忍耐力には自信があった。

    「あんずさん」

     再度、先程よりもはっきりとした声で名前を呼んだ。揺さぶる手も気持ち強める。ぐらぐらと身体が波打ち、頬を支えていた右手が滑り頭ががくんと揺れた。その衝撃でようやく彼女はハッとしたように目を覚ます。

    「あれ、うそ、打ち合わせ、私、アラーム」
    「おはようございます、あんずさん。打ち合わせまではまだ時間がありますので、焦る必要はございませんよ」
     
     寝起き特有のワントーン甘い声が耳に毒だ。触れていた手を肩から離し、慌てる彼女に言い聞かせるようにゆっくり声をかける。彼女は傍に置いてあったスマートフォンで時間を確認し、ようやく落ち着きを取り戻し小さく息を吐いた。

    「お疲れさま。弓弦くんは早いんだね」
    「時間を持て余しておりまして。どうせなら早入りして部屋の準備でもしておこうかと」
    「流石だね……。私も前の仕事が早めに片付いたから色々確認するつもりだったんだけど、どうしても眠くて」

     その目元には青い隈がくっきりと現れていた。相変わらず寝不足なのだろう。彼女が睡眠時間を削ってまで仕事に打ち込むのは今に始まった事ではない。欠伸を噛み殺しているのか、口の端がひくひくと戦慄いていた。

    「あまりご無理はなさらないでくださいませ。坊ちゃまも心配いたしますし、こんなところで鍵もかけずに寝てしまうのは不用心が過ぎますよ」
    「ん〜、ES仮眠室ないんだもん……。大丈夫だよ、大した貴重品は持ってないし、見られて困る資料があるときは寝ないようにしてるから」

     弓弦が心配したのは機密事項の漏洩などではないのだが、彼女には伝わっていないようだった。この警戒心の薄さも、彼女が紅一点として学生生活を送っていた頃からずっとである。日常茶飯事だと嘆息するに留めるべきか、一度しっかり警告した方がいいのか。部屋の壁時計に目をやり、予定時刻にまだ余裕があることを確認した上で後者を選んだ。

    「わたくしが心配しているのは窃盗や情報漏洩などではありませんよ、あんずさん。うら若い女性が無防備に寝ていらっしゃることに苦言を呈しているのです」

     彼女は不満げに唇をもにょもにょと動かしたが、返事だけは素直に次から気を付けまぁすと返した。理解していないのだろうなと思う。一度痛い目に遭わないとわからないのかもしれないが、だからといって痛い目に遭ってほしいわけではない。弓弦にできるのはこうして意味のない小言を垂れながら彼女の幼子のような無垢さが喪われるような事がないように祈ることくらいだ。

    「お目覚めになったのでしたらお茶でもお淹れしましょうか?」
    「ううん……、まだ眠いからもうちょっと寝る……。先輩たち来たら起きるから」
    「わたくしのお話聞いておりました?」

     今度は机にうつ伏せになる体制で、しかもわざわざ顔は横に逸らして二度寝に入ろうとしたあんずの肩を思わず掴む。もはや改善を宣言されたと認識した自身の耳の方を疑いたくなった。

    「ねむい……」
    「こんな場所で寝るのは不用心ですとつい今しがた苦言を呈したばかりですが」
    「聞いてたよ」
    「気をつけると仰いましたよね?」
    「うん、次から気をつけるよ」

     目を閉じて脱力したまま、締まりのない声で放たれる言葉はどれも要領を得ない。結局何も伝わっていなかったのだと弓弦はひどく落胆した。いつか本当に痛い目を見てしまうのも時間の問題かもしれない。

    「あんずさん」

     意図的に怒気を含めて名前を呼ぶ。あんずは既に意識を手放してしまったのか、返事はなかった。
     本当に、気をつけてほしいのだ。こんなにも無警戒でいるあなたが悪いのだという言い訳を与えないでほしい。その態度があんずさんなら許してくれると、きっと嫌がることなどないという勘違いを生んでしまうのだから。つい先ほど奥歯を噛んでそれを噛み殺したことに意味なんてなかったのではないかと思えてしまうから。

    「いくら知人とはいえ、異性に対して見境なく安易な信頼を寄せるべきではありません」

     掴んだ肩を揺さぶる。睡眠の邪魔をされたあんずは不満げな唸り声をあげた。

    「……わたくしが邪な考えを抱いていたらどうするのですか」

     あんずの瞼がゆっくりと持ち上がる。焦点の合わない瞳はじっとりと恨めしげに弓弦へ向けられていた。恨めしいのはこちらの方だと弓弦は思わずにはいられない。

    「……でも」

     睡魔に耐えられなかったのか、あんずの瞳は再び閉じられた。肩にかろうじて引っかかっていたポニーテールの毛先が机の上にずり落ちてぱさりと渇いた音を立てる。

    「弓弦くんだし」
    「————は」
    「おやすみ」

     すうすうと控えめな寝息が立ち始めたのは直後のことだった。その名を呼んでももう返事はない。むにゃむにゃと唇を動かして、米神から伸びる数本の髪を食んでいた。
     集合時刻まで残り四十五分。この際面倒な上司でも喧しい先輩でも、誰でもいいから今すぐに来てくれと縋るように祈りながら、弓弦はあんずの肩からゆっくりと手を離した。

     己の主人の頬の方が柔らかいのだと、弓弦はこの日初めて知った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘👏👏👏👏👏👏👏💖💖😍😍💞💞💘💕💕💕💕💖💞👏😭💕💕🎅💴☺💖💖💖💖💗💗💗💘😍☺🙏💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    kotobuki_enst

    DONE人魚茨あんのBSS。映像だったらPG12くらいになってそうな程度の痛い描写があります。
    全然筆が進まなくてヒィヒィ言いながらどうにか捏ね回しました。耐えられなくなったら下げます。スランプかなと思ったけれどカニはスラスラ書けたから困難に対して成す術なく敗北する茨が解釈違いだっただけかもしれない。この茨は人生で物事が上手くいかなかったの初めてなのかもしれないね。
    不可逆 凪いだその様を好んでいた。口数は少なく、その顔が表情を形作ることは滅多にない。ただ静かに自分の後ろを追い、命じたことは従順にこなし、時たまに綻ぶ海底と同じ温度の瞳を愛しく思っていた。名実ともに自分のものであるはずだった。命尽きるまでこの女が傍らにいるのだと、信じて疑わなかった。





     机の上にぽつねんと置かれた、藻のこんもりと盛られた木製のボウルを見て思わず舌打ちが漏れる。
     研究に必要な草や藻の類を収集してくるのは彼女の役目だ。今日も朝早くに数種類を採取してくるように指示を出していたが、指示された作業だけをこなせば自分の仕事は終わりだろうとでも言いたげな態度はいただけない。それが終われば雑務やら何やら頼みたいことも教え込みたいことも尽きないのだから、自分の所へ戻って次は何をするべきかと伺って然るべきだろう。
    5561

    kotobuki_enst

    DONE膝枕する英あん。眠れないとき、眠る気になれないときに眠りにつくのが少しだけ楽しく思えるようなおまじないの話です。まあ英智はそう簡単に眠ったりはしないんですが。ちょっとセンチメンタルなので合いそうな方だけどうぞ。


    「あんずの膝は俺の膝なんだけど」
    「凛月くんだけの膝ではないようだよ」
    「あんずの膝の一番の上客は俺だよ」
    「凛月くんのためを想って起きてあげたんだけどなあ」
    眠れないときのおまじない ほんの一瞬、持ってきた鞄から企画書を取り出そうと背を向けていた。振り返った時にはつい先ほどまでそこに立っていた人の姿はなく、けたたましい警告音が鳴り響いていた。

    「天祥院先輩」

     先輩は消えてなどはいなかった。専用の大きなデスクの向こう側で片膝をついてしゃがみ込んでいた。左手はシャツの胸元をきつく握りしめている。おそらくは発作だ。先輩のこの姿を目にするのは初めてではないけれど、長らく見ていなかった光景だった。
     鞄を放って慌てて駆け寄り目線を合わせる。呼吸が荒い。腕に巻いたスマートウォッチのような体調管理機に表示された数値がぐんぐんと下がっている。右手は床についた私の腕を握り締め、ギリギリと容赦のない力が込められた。
    2294

    related works

    ltochiri

    DONE #星とあんずの幻想曲3 陸上部とあんず【移動】プチオンリー #君とどこに行こうか 展示作品です。(斑あんです)
    ざっくり夏〜秋くらいの設定です。
    ESビルの七階からロビー階まで移動している時の話です。
    ※イベント終了にともないパスワードをはずしました。当サークルまでお越しいただき、またリアクション等いただきありがとうございました!
    映画はラブストーリーがいい アンサンブルスクエアの拠点——通称、ESビル。そのフロアとフロアを繋ぐエレベーターは、到着が遅いことで有名だ。
     P機関のトップである『プロデューサー』は「修行のため」と言って階段を使うことがあるのだが、それはエレベーターが来るのを待ちきれなかったから、と噂を立てられてしまうほど。
     その話の真偽はともかく、ESビルで働く人々が、このエレベーターにひどく恨めしい気持ちを抱いていることに、違いはない。
     噂の『プロデューサー』も、今日はエレベーターに乗っていた。
     タイミングが良く、すぐにエレベーターが来たので運がいいと喜んだのも束の間。あんずは今、ひどく焦っていた。
     七階でエレベーターが止まると、ドアが開き、その向こうから三毛縞斑が現れた。長身の彼を見上げるスタッフたちを通り越して、斑はエレベーターの隅で肩を縮こまらせながら立っているあんずを見つけておや、と思った。ホールハンズで見た予定では、彼女はこの後、十二階に用があるはずだから。
    1568

    ltochiri

    DONE #星とあんずの幻想曲3 女装アイドル×あんずプチオンリー #Pぼくスカート 展示作品です。(斑あんです)
    暗夜行路から骨董綺譚までの間の秋というゆるめの設定があります。
    スカウト「ホワイトブリム」のストーリーもよろしくお願いします。
    ※イベント終了にともないパスワードをはずしました。当サークルまでお越しいただき、またリアクション等いただきありがとうございました!
    メイド服を着ないと出られないフィッティングルーム 衣装に負担は付きものである。
     Double Faceとしてユニット活動をしているのなら、なおさら。
     キレのあるダンスで糸がほつれるだけでならまだしも、ホール内に雨を降らせる演出で水浸しにもなる。当然、生地の伸び縮みや色褪せ、装飾品の綻びなどがあるので、ライブが終わるたびに修繕される。
     そのたびに斑はあんずから直接受け取っていて、今日もまた、衣装ルームへやってきた。
    「こんにちはああ! ママだぞお!」
     斑のあいさつは絨毯の敷かれた部屋の隅々にまで響き渡った。けれどその大きな声に対して返されるのは静寂のみ。まるで音がカーテンの布に吸収されたみたいにしんとしている。
     あんずが不在であることに首を傾げながら——ここで待っていると連絡をくれたのは彼女の方だ——斑はソファとテーブルがある位置に移動した。すると、丁寧に畳まれた衣装と小さな透明の袋に分けて入れられている装飾品が置いてあるのを見つけた。
    3238