Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    zeppei27

    @zeppei27

    カダツ(@zeppei27)のポイポイ!そのとき好きなものを思うままに書いた小説を載せています。
    過去ジャンルなど含めた全作品はこちらをご覧ください。
    https://formicam.ciao.jp/

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 87

    zeppei27

    ☆quiet follow

    なんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。『拝借』したからには、ね!『返却』しに行く隠し刀と諭吉、そしてFriendペリーの日常話。

    >前作:柚子
    https://poipiku.com/271957/10787205.html

    >まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html

    #小説
    novel
    #主福
    #隠し刀(男)
    #RONIN

    後始末 子供というのは、社会的にまだまだ分別がつかない生き物だと見なされている。故にどれほど大それた悪戯をしでかそうともそれは悪戯に過ぎず、叱責や多少の罰を受けることはあっても大人のように責任を負わされることはない。例外はあれども、少なくとも福沢諭吉はこれまでちょっとした思いつきで躓く羽目になったことはなかった。長じて分別がついてからは、人の道を外れることもなく、実に品行方正な生き方をしてきたので全ては最早無関係の思い出である。
     が、自分の思いつきはどれほど大義名分をつけても免責されぬものであったらしい。珍しく身なりを整えた隠し刀が、彼の家で出迎えてくれたと思えば切り出された提案に、諭吉は目を白黒させるばかりだった。
    「ええと、本気で仰ってるんですか?その、黒船に……正面から乗り込むと」
    「冗談で済む内容ではないさ。それに、友人を訪ねに行くんだ、構える話でもない。諭吉」
    「はい」
    思わず肩が震えたのは、心のどこかでいつか誰かに言われるのではないかという懸念があったからだろう。どうやら自分には大義名分の下に微量な罪悪感を残していたらしい。
    「まだ『返却』していないのだろう?『拝借』したのは、いつか『返却』するつもりだったのだと思っていたが。先日尋ねた時に、もうあの資料は不要だと言っていたな。ちょうどマシューが遊びに来ないかと誘ってくれたのだし、ついでに『返却』する良い機会だとは思わないか?」
    「あなたって、時々憎らしいくらい口が回りますよね」
    「それは褒め言葉だと受け取っておこう」
    柔らかに微笑む隠し刀から滲み出る愛情を感じ取って、知らず知らずに頬が緩んでしまう。その甘い表情を見られるのは、情人である自分だけの特権なのだ。連れ合いの頭が切れること、それ自体は歓迎すべき事項である。しかし、まさか『返却』を求められるとは思いもよらなかった。建前上『拝借』と言い、表立っては到底入り込めない黒船に無理やり隠し刀と乗り込んで資料を入手したのは揺るがし難い事実である。当時は本気で『拝借』のつもりだった――ただ、肝心の『返却』方法についてはまるで考えていなかっただけだ。
     要するになし崩しにしようとしていたわけだが、不可思議に顔が広く、かの黒船の首魁であるマシュー・ペリーとも懇意にしている隠し刀の目を逃れることはできないらしい。きらりと輝く相手の瞳が、自分の心の深くにある疾しさを照らし出す。
    「大丈夫だ。私なら上手くやれるとも」
    「あなたを疑ったことはありませんよ。もう、仕方がありませんね」
    元より黒船には忍び込もうとするほど興味津々だったのだ。幕府の外国方に勤めようともそう簡単に出かけられる場所ではない。一度行くと決めれば現金なもので、横浜貴賓館で返却物を回収したらば向かおう、と諭吉は情人の胸をポンポンと叩いた。非は自分にあれども理不尽な思いのやり場くらいは欲しい。隠し刀の手が三発目を受け止めて、流れるように口付けで封じ込めてくる。
     ずるい。ずるいけれども、甘くて美味しい。今日は二人でどこかに遊びに行こうと思っていたのに、と口付けの中でくだらない不満を漏らして、諭吉はもう一度を強請った。




     温暖な気候に恵まれた横浜は、今日も波が穏やかに船を揺らす。これが台風とやらが現れると途端に大荒れになり、澄み渡った青空は消え失せ、全てが白黒に塗りつぶされるのが信じられない。冬の訪れさえ無縁かと思われていたが、空気は日増しに冷たくなって季節の死を告げようとしていた。船乗りらしい敏感さで、潮風から変わり目を感じ取ったペリーは、ほんの僅かな哀愁と共に隠し刀の訪問を下士官より告げられた。船長室を出て甲板に出れば、先に解き放たれた友人は下士官たちと軽口を叩き合っている。無骨な顔つきに反して冗談の上手い隠し刀は、腕が立つこともあって船乗り連中に好かれているのだ。
     招待したのは自分で、こうなることは予想通りではあるものの面白くないと思うのは狭量だからだろうか?子供っぽい感情に苦笑しつつ、ペリーはこほんと咳払いをして友人に声をかけた。
    「よく来てくれたな、隠し刀。こちらは……」
    ちら、と友人の隣に並ぶ日本人に目をやる。招待したのは彼一人だが、供回りでも連れてきたのか。身なりからすれば隠し刀よりも身分が上らしい青年は、ペリーの一瞥を受けて綺麗にお辞儀をして見せた。
    「福沢諭吉と申します。隠し刀さんに誘われて参りました。お邪魔でしたら申し訳ありません」
    驚いたことに、諭吉という青年は流暢に英語で挨拶をして見せた。見た目のまま、礼節を重んじる人物であるらしい。横浜貴賓館で何度か見かけた顔だ、と記憶を探りながら隠し刀に問えば、そうだ、と首肯された。
    「私の大切な人だ。彼は黒船……お前の国の事物全般に興味があるんだ。おかしな真似はしないと誓って約束できる」
    「Best friendのFriendはMy friendでもある、と?」
    大切な人、という言葉に込められた意味を理解できない人間ではない。自分も些かに通った湿っぽさを抱えているだけに、ついしみったれた台詞が口をついて出る。皮肉に諭吉が顔をこわばらせたのを見てとり手を振ると、ペリーは敢えて豪快に笑ってみせた。
    「ふ、そう心配するな。確かに、貴賓館では何度か顔を合わせたことがあったな。”大切”とは、よくも俺に隠していたものだ」
    最後の方を隠し刀に振ると、緩やかに唇が弧を描く。食えない男だ。言下に潜んだペリーの気持ちなど、恐らく自分以上に承知の上での行いだろう。あるいは、それ故の誠実さの発露であるのかもしれない。他人の思惑に乗るのは面白くないものの、頼られたと解釈すれば悪い気はしないのだからおかしな話だ。ペリーはサスケハナ号付きの気象学者と機関士を呼びつけ、諭吉に艦内を見せ、質問には答えるように指示した。
    「良いんですか?提督のご厚意に感謝します」
    「構わない。お前も俺のFriendだからな」
    犬ならば尻尾でも振りそうな勢いで飛び出してゆく青年は、全く好奇心の塊そのものだった。連れてきた隠し刀のことなど目もくれない諭吉に笑みが溢れる。途方に暮れているだろうな、と友人の顔を見れば、くつくつと小さく肩を揺らしていた。
    「仮にも恋人だろう。置いて行かれて寂しくはないのか?」
    「寂しい?大切な人が楽しそうにしていたらば、それが幸さ」
    できた人物のような語り口で返すも、眉の辺りに僅かな気だるさが見てとれる。理性で手綱を握っても、己の感情には素直と言うわけだ。肩を叩いて船長室に誘うと、ペリーはいつものようにどっかりと椅子に座って身振りで葉巻を勧めた。
    「お前のことだ、ただ昼食を共にしようという腹ではないだろう。他の願い事は何だ?」
    「もうすぐ帰国するFriendと親しむのは普通だろう」
    キョトン、としつつも懐に手を入れ、隠し刀は奇術のように次々と物を取り出した。博物図鑑、設計図、そして遠眼鏡。最後の一つは寄港地で必要に応じて他人に譲ろうと思っていたもので、備品を確認した際に失われていて係を叱ったものだった。思わず相手の顔を見れば、しれっと葉巻を吸っている。取り乱したことを悟られぬよう眉を顰めると、ペリーは静かに嗜めることにした。
    「取られて困るものではない、が、わざわざ返しにくるとはご苦労なことだな」
    「『拝借』したものは返すべきだからな」
    あっさりと自分で盗んだことを認めた豪胆さに舌を巻く。葉巻に火を点けて馥郁たる香りに酔いしれる振りをして、ペリーは隠し刀を賞賛の眼差しで眺めた。設計図を残し、後の二つを相手に押しやれば、隠し刀の目が丸くなった。どうだ、自分も相手を驚かせるくらい簡単なことだ!
    「記念にとっておけ。元よりFriendが出来れば贈るつもりのものだった」
    「熊おやじは気が良い」
    感謝する、と言った後は黙ったきりで、二人静かに葉巻を燻らす。なんとなく、今日は話さずにこのまま時間を過ごすことが最適のように感じられた。もう直ぐ自分は米国に帰る。そして、二度とこの国には戻るまい。隠し刀が海を渡ることはあるかもしれないが、再び巡り会う可能性は限りなく低いだろう。残された時間は、もっと有効に活用するべきではないかと自問し、ペリーは煙の輪を作った。
     たまには、こんな時間が良い。無駄にぼうっとできるだなんて、なんとも贅沢な話ではないか。




    「美味しかったですね。あれじゃ、幕府が出した料理を『お上品すぎる』と言って食べなかったことも道理です」
    「マシューたちは、味が濃くて脂っこいものの方が好みだからな」
    すっかり灰青になった空の下、隠し刀は上機嫌な諭吉に返事をした。出かける前は尻込みする素振りさえ見せたのに、念願叶うともう夢心地だ。こんなに隙が多くて大丈夫なのかと心配になってしまう。マシューも当初は警戒していたらしいが、諭吉の生来の素直さや善性にすっかり和んだらしかった。最後には米国の歌を習って共に歌う二人の姿を見ることができ、隠し刀としては今日の任務は大成功だった。
     任務と言えば、と当初の目的を思い出して隠し刀は懐から本と遠眼鏡を取り出して諭吉に渡した。
    「マシューからだ。Friendへの贈り物だそうだ」
    「……本当に、上手くやるんですね」
    「うん」
    頷きながらも、どこか不機嫌さを孕んだ諭吉の物言いが引っかかる。本を懐に入れた後、おもちゃのようにして遠眼鏡を振り回し、情人はじっと遠眼鏡越しでこちらを見つめてきた。
    「ふふ、直ぐそこなのによく見えませんね」
    「遠くのものを見るための道具だからな。近いなら、直接見た方が早い」
    酔っ払っているのか。当たり前のくだらない理屈を話しながら捕まえようとすると、諭吉はつるりとすり抜ける。酔っても強さの変わらぬ桂小五郎の姿を重ね、隠し刀は敢えて一歩離れた。一歩、二歩、三歩。諭吉の眼差しは遠眼鏡越しから揺るがなくこちらに注がれている。
    「見えたか?」
    「よく見えません!」
    更に下がろうと背を向けると、たったと足音がして背中にごつんと生命がぶつかった。
    「行かないでください」
    「……遠い方が、よく見えるんじゃないのか?」
    振り向けば、薄暗がりでも頬が茹っていることがよくわかる。遠眼鏡はしまったのか、押さえつけすぎたらしい目の周りに丸い跡ばかりが残っていた。身を捻って、跡を指先でなぞれば、何も知らぬ男は不可解な表情を浮かべた。
    「やっぱりこの距離で見る方が好きです。何です、面白い話じゃありませんよ」
    「世界一面白いとも」
    くっくと漏れてしまう笑い声が、実に人の悪いものだと理解しつつも堪えきれない。拗ねて、不貞腐れる情人は可哀想で、ついでどうしようもなく可愛かった。束の間感じていたもやもやとした感情が段々と薄れ、靄が取り払われた心地がする。他人の不幸で喜ぶだなんて、それも一番大事な人の不幸を肴に喜ぶなど人として道を外れている。だが、堪らなく嬉しかった。
    「マシューはもうすぐ帰国する。自由に時間を取れるのは今日くらいだろう。だがな、諭吉。お前と一緒に黒船を回れなくて私は、」
    束の間、言葉を探す。過ぎ去った靄をもう一度捕まえようとして失敗し、残ったのは揶揄い半分の友人の言葉だけだった。
    「私は寂しかった。どうだ、面白い話ではないだろう?」
    「世界一面白いです」
    ふふ、と情人が頬を緩める。ぽん、と小さな花が咲くような幸せを感じ取って、隠し刀は掠めるような口付けでお裾分けを強請った。

    〆.
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🚢🚢🚢🚢🚢🚢
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。数年間の別離を経て、江戸で再会する隠し刀と諭吉。以前とは異なってしまった互いが、もう一度一緒に前を向くお話です。遊郭の諭吉はなんで振り返れないんですか?

    >前作:ハレノヒ
    https://poipiku.com/271957/11274517.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    答え 今年も春は鬱陶しいほどに浮かれていた。だんだんと陽が熟していくのだが、見せかけばかりでちっとも中身が伴わない。自分の中での季節は死んでしまったのだ、と隠し刀は長屋の庭に咲く蒲公英に虚な瞳を向けた。季節を感じ取れるようになったのはつい数年前だと言うのに、人並みの感覚を理解した端から既に呪わしく感じている。いっそ人間ではなく木石であれば、どんなに気が楽だったろう。
     それもこれも、縁のもつれ、自分の思い通りにならぬ執着に端を発する。三年前、たったの三年前に、隠し刀は恋に落ちた。相手は自分のような血腥い人生からは丸切り程遠い、福沢諭吉である。幕府の官吏であり、西洋というまだ見ぬ世界への強い憧れを抱く、明るい未来を宿した人だった。身綺麗で清廉潔白なようで、酒と煙草が大好物だし、愚痴もこぼす、子供っぽい甘えや悪戯っけを浴びているうちに深みに嵌ったと言って良い。彼と過ごした時間に一切恥はなく、また彼と一緒に歩んでいきたいともがく自分自身は好きだった。
    18819

    zeppei27

    DONE何となく続いている主福の現パロです。本に書下ろしで書いていた現パロ時空ですが、アシスタント×大学教授という前提だけわかっていれば無問題!単品で読める、ホワイトデーに贈る『覚悟』のお話です。
    前作VD話の続きでもあります。
    >熱くて甘い(前作)
    https://poipiku.com/271957/11413399.html
    心尽くし 日々は変わりなく過ぎていた。大学と自宅を行き来し、時に仕事で遠方に足を伸ばし、また時に行楽に赴く。時代と場所が異なるだけで、隠し刀と福沢諭吉が交わす言葉も心もあの頃のままである。暮らし向きに関して強いて変化を言うならば、共に暮らすようになってからは、言葉なくして相通じる折々の楽しみが随分増えた。例えば、大学の研究室で黙って差し出されるコーヒーであるとか、少し肌寒いと感じられる日に棚の手前に置かれた冬用の肌着だとか、生活のちょっとした心配りである。雨の長い暗い日に、黙って隣に並んでくれることから得られる安心感はかけがえのないものだ。
     隠し刀にとって、元来言葉を操ることは難しい。教え込まれた技は無骨なものであったし、道具に口は不要だ。舌が短いため、ややもすると舌足らずな印象を与えてしまう。考え考え紡いだところで、心を表す気の利いた物言いはろくろく思いつきやしない。言葉を発することが不得手であっても別段、生きていくには困らなかった。だから良いんだ、と放っておいたというのに、人生は怠惰を良しとしないらしい。運命に放り出されて浪人となった、成り行き任せの行路では舌がくたくたに疲れるほどに使い、頭が茹だる程に回転させる必要があった。
    5037

    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。前作を読んだ方がより楽しめるかもしれません。遅刻しましたが、明けましておめでとう、そして誕生日おめでとう~!会えなくなってしまった隠し刀が、諭吉の誕生日を祝う短いお話です。

    >前作:岐路
    https://poipiku.com/271957/11198248.html

    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ro
    ハレノヒ 正月を迎えた江戸は、今や一面雪景色である。銀白色が陽光を跳ね返して眩しく、子供らが面白がってザクザクと踏み、かつまた往来であることを気にもせず雪合戦に興じるものだからひどく喧しい。しかしそれがどんどんと降り積もる量が多くなってきたとなれば、正月を祝ってばかりもいられない。交通量の多い道道では、つるりと滑れば大事故に繋がる可能性が高い。
     自然、雪国ほどの大袈裟なものではないが、毎朝毎夕に雪かきをしては路肩にどんと積み上げるのが日課に組み込まれるというもので、木村芥舟の家に住み込んでいた福沢諭吉も免れることは不可能だ。寧ろ家中で一番の頼れる若手として期待され、庭に積もった雪をせっせと外に捨てる任務を命じられていた。これも米国に渡るため、芥舟の従者として咸臨丸に乗るためだと思えば安い。実際、快く引き受けた諭吉の態度は好意的に受け止められている。今日はもう雪よ降ってくれるなと願いながら庭の縁側で休んでいると、老女中がそっと茶を差し入れてくれた。
    2769

    related works

    zeppei27

    DONEマーカス、君とはもっといろいろ話ができると思っていたのに!横浜貴賓館関係メンバーでワイワイしたい!マーカスのお悩み相談会に、刀が伊賀七とサトウと取り組む話です。諭吉は最後に登場します。

    >前作:影遊び
    https://poipiku.com/271957/10694953.html
    >まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    ありふれた椿事 世界は広い。日々の生活に追われていると、目先の環境しか考えられないものだが、その目先をどんどん遠くに伸ばしてゆくとやがては海を出て、そうして別の国にとたどり着くのだから面白い。自分は日本のどこか、ではなく世界のどこか、に暮らしているのだと唐突に思い当たって驚かずにはいられない。隠し刀も、福沢諭吉に出会うまでは自分の住む陸地のことを考えるので精一杯だった。だからこそ、自分の片割れを見つけることができなかったとも言える。
     理屈はすんなりと飲み込めた。さりとて日常生活の中で異国に想いを馳せることはまだまだ少ないのが世情で、時折異国のものを見かけ、異人を目にして、ああ世界は広いと想起される程度のことである。ある意味自分よりも、尊王攘夷を唱える志士たちの方が世界を実感していると言えよう。忌み嫌う人間の方が高い意識を抱いているというのは皮肉な話だった。
    5880

    zeppei27

    DONEいつもの主福の現パロのハロウィン話です。単品でも読めます。本に書下ろしで書いていた現パロ時空ですが、アシスタント×大学教授という前提だけわかっていれば無問題!普段通りの場所の空気が変わるのって、面白いですね。
    幸なるかな、愚かな人よ 最初はクリスマスだった。次に母の日が来てバレンタインデーが来て、父の日というなんとも忘れられがちなものを経てハロウィンがやって来た。日本のカレンダーでは直接書かれることはまだまだ少ないものの、じわじわと広まった(あるいはメディアなどの思惑に乗って広められた)習慣は、お花見よろしくお祭り騒ぎをする格好の理由として大流行りを迎えている。街中に出れば、芋栗南瓜くらいしかなかった秋の風景に、仮装衣装が並び、西洋風の怪物や魔女、お化けといった飾り物が目を楽しませてくれる。
     秋と言えば何といっても紅葉で、その静けさと味わい深さを愛していた福沢諭吉にしてみれば、取り立てて魅力的なイベントではない。寧ろ、大学で教鞭を奮う立場にとっては聊か困りものでもあった。校門前には南瓜頭を被った不審者が守衛に呼び止められ、学生証の提示を求められている。ブラスバンド部が骸骨が描かれた全身タイツを着て、ハロウィンにちなんだ映画音楽を演奏し、それに合わせて黒猫の格好をしたチアリーダーがぴょんぴょん跳ねる。ここぞとばかりに菓子を売る生協の職員は魔女で、右を向いても左を向いても仮装をした人間が目立った。まともな格好をしている人間が異界に迷い込んだ心地とはまさにこのような状態を指すだろう。
    2260

    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福で、単品でも読めます。隠し刀の歯を検診する諭吉のお話。ひょっとすると私の性癖とやらは歯なのでは……?何か別の扉を開きかけたので閉じました。
    >前作:『地獄極楽、紙一重』https://poipiku.com/271957/10506541.html
    >まとめ:https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
     歯は面白い。歯は生まれついてのものだけれども、小さいながらに人それぞれの人生を背負ってきている。例えば歯並びが悪く、まるでぼろぼろの塀のような歯は、当人も親も面倒を見る習慣がなかったことを示唆するだろう。貧しさ、衛生観念、無関心、長じても周囲が指摘しなかったか、あるいは永劫頓着しない性格か。多少の懸念が抱かれる。すり減り具合は癖を見抜く術であるし、本数の多い少ないは歴戦の証だ。清国では年齢を歯数とも呼ぶのももっともだろう。
     さて医学を学んだ立場から、多少歯についても心得がある福沢諭吉にとって、情人である隠し刀の歯はなかなかの上物に思われた。栄養状態がやや危惧されるものの、血で繋がれてきたらしい大きめの歯は揃っているし、右奥がややすり減り気味である点は然程心配するものではない。虫歯はなく、欠けもない。良い状態だ。そして何より気に入っているのは――
    3678

    recommended works