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    zeppei27

    @zeppei27

    カダツ(@zeppei27)のポイポイ!そのとき好きなものを思うままに書いた小説を載せています。
    過去ジャンルなど含めた全作品はこちらをご覧ください。
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    zeppei27

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    一次創作小説。夏休みが終わらない話。

    #一次創作
    Original Creation
    #小説
    novel
    #夏休み
    summerVacation

    そんなはずないのに 夏休みが終わらない。最初に気づいたのは、夜に流し見するテレビのニュース番組を見た時だった。毎日毎日甲子園に向かって野球少年たちが駆け回っているというのに、なんだか決勝までちっとも辿り着けていないようだ。ルールが変わったのだろうか。和歌山、秋田、あああれは母校、総当たり戦になったのかとも考えたが、次から次へと出てくる野球少年は昨日スーパーで見かけたスイカの山よりも多い。ただ、面倒になってしまってスイカのようにまん丸の坊主頭集団のことは忘れることにした。
     次に気づいたのは、日めくりカレンダーだった。私は1日が終わるごとに景気よく破るのが大好きで、この巨大な日めくりカレンダーなる古風なものを愛用している。日々薄くなってゆく体は、私が時間を貪ってきた証拠だ。今日は八月三十一日。明日はいよいよ九月だ。
     その時、珍しく捲る手が止まった。野球少年のことが尾を引いたのか、このまま捲ることへの抵抗感のようなものが生まれていた。馬鹿馬鹿しい。ただの日付に何を思う必要があるだろう。
     なんということもない振りをしてカレンダーに手をかける。次は「1」だ。「1」のはずだ。九月一日。ああさようなら私の夏休み。別に夏休みなんて社会人なのだから無関係だが、長年染みついた感覚とはなかなか拭い去れないものだ。
    「31」
    嘘だ。慌てて次も捲る。31、31、31、次も、その先もずっと同じ。最後の方はぞっとして手を離してしまった。もしかしたら途中からはまともかも知れない。あるいはもう一度頭から見直せば、私の見間違いだったとわかるかもしれない。
     そうしなかったのは、言いようのない恐れのようなものが背中に覆い被さって来たからだった。怖い。明日はなんということもない日で、繰り返し日常が訪れるはずなのに、31が続いている。
     日曜日だったら、気分はもっと盛り上がっていた。今日は月曜日なので、忌々しいことに仕事に出かけることには変わりがない。明日も?間違い無いだろう。だって職場では——

    ***

     部長がハワイから帰ってこない。経理担当の子は北海道からようやく帰ってきたけれども、取引先が社員旅行に出かけたきりで音信不通だ。窓辺に置かれた朝顔もひまわりも、つぼみのままで開こうともしない。毎日入道雲が出ていて、暑さが異常だとニュースで注意喚起されている。
     世界のあちこちで同じようなことが起こっているらしい。夏休みが訪れると、時間の感覚が狂うとも全く違う次元に連れて行かれるのだとも言われているが、まだ何も確かめられてはいない。一度夏休みにとらわれると、いつ帰ってこられるかはわからないのだ。自宅で素麺を啜りながら夏休みに突入した人もいる。私の姉がそうだった。
    「夏休みってね、こういうものだと思うのよ」
    わかった気がする、と流しそうめんを作りながら悟ったところで姉は帰ってきた。
     学生の頃は、学校が夏休みの始まりと終わりを教えてくれていた。自然を相手にした仕事であれば、自然が教えてくれていたかもしれない。いずれにせよ、自由に取っても良いとなると、何が夏休みなのか曖昧になる傾向にあるようだ。
    「私の夏休み」
    私の夏休みは、ずっとあれからも続いている。カレンダーはめくってもめくっても31のまま、会社に出かけて全く同じ作業をして何も進まない。本当はここで終わりだとうっすらわかっている。人事部長が帰ってきていないのをいいことに居座っている。
     この会社にいたかった。明日から私は辞令をもらって地方の支社に出向する。あと少しの猶予期間、慣れ親しんだ職場の空気を味わっていたかった。
     休み、ではない。空回りはするけれども働いている。自分で決めたことを続けて、でも今日にしがみついて離れられない。楽だった。ずっとこのままで良い。
     もしかしたら、この気持ちが夏休みなのだろうか。終わらない宿題、山と残した朝顔の観察日記、プールにアイスにそうめん。人々が浮かれた気持ちが漂う職場で、まったりと過ごすこと。
     帰ったら、日めくりカレンダーをめくりたくないな、と思った。

     明日は八月三十一日。私の夏休みは続くはずなのだ。そうであってほしい。


    〆.
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。リクエストをいただいた、諭吉の「過去のやらかしがバレてしまう」お話です。自伝の諭吉、なかなかの悪だからね……端午の節句と併せてお楽しみください。
    >前作:枝を惜しむ
    https://poipiku.com/271957/11698901.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    昔の話 気まぐれに誰かを指名した後、その人の知り合いを辿ってゆけば、いずれ己に辿り着くらしい。世界広しといえどもぐるりと巡れば繋がっていると聞いたところで、福沢諭吉には今ひとつわかりかねる話だった。もっともらしい話をした人物が、自分に説諭しようという輩だったから反発心を抱いたということもある。その節にはいくらか激論を戦わせてもの別れになり、以来すっかり忘れてしまっていた。
     だが、こと情人である隠し刀に関していえば、全ての人と人が何某かの形で繋がっているのではないかという気にさせられる。勝海舟邸に出入りするようになって日が浅いが、訪れる人が悉く彼の知り合いだった、などは最早驚くに値しない。知らぬうちに篤姫からおやつを頂戴していた際には流石に仰天させられたし、勝の肝煎である神田医学所はもちろん、小石川植物園にまでちゃっかり縁を繋いでいる。幕府の役人でさえそう縦横無尽に出入りすることはままならない。彼の自由さは本物であり、語る冒険譚は講談の域に達している。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。御前試合の後、隠し刀が諭吉に髪を整えてもらうお話です。諭吉の断髪式に立ち会いたかった……!どうしてなんだ、諭吉!
    >前作:探り合い
    https://poipiku.com/271957/11594741.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    枝を惜しむ もう朝である。障子を通り過ぎた陽の光に瞼をぴくりと動かすと、諭吉はうっすらと浮かび上がっていた意識を完全に現実へと上陸させた。つい先ごろうたた寝をしながら書物を読んでいたつもりが、いつの間にやら轟沈してしまったらしい。やるべきことは山積していると言うのに、ままならぬものである。光陰矢の如しというが、このところは本当に年中時間が勝手に体を通り抜けていっているような気がしている。国全体が大きなうねりの中にあって、置いていかれぬためには必死で鮪のように泳ぎ続けねばならない。
     無意識のままに簡単に身支度を整え、ここが勝海舟の邸だということを再認する。要するに仕事で一日を食い潰したのだろう。どこを向いても自分くらいしかできないだろうという未来が転がっているので、少しも気の休まる日がない。顔を洗ってもしっくりしないので、朝食を終えたら(もちろん太っ腹な勝であれば出してくれるに決まっている)朝湯に行って仕切り直しを図ろうか。鏡を見て、自分の髪を整え直し――諭吉は鏡の端に写った相手に会釈した。
    4937

    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。数年間の別離を経て、江戸で再会する隠し刀と諭吉。以前とは異なってしまった互いが、もう一度一緒に前を向くお話です。遊郭の諭吉はなんで振り返れないんですか?

    >前作:ハレノヒ
    https://poipiku.com/271957/11274517.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    答え 今年も春は鬱陶しいほどに浮かれていた。だんだんと陽が熟していくのだが、見せかけばかりでちっとも中身が伴わない。自分の中での季節は死んでしまったのだ、と隠し刀は長屋の庭に咲く蒲公英に虚な瞳を向けた。季節を感じ取れるようになったのはつい数年前だと言うのに、人並みの感覚を理解した端から既に呪わしく感じている。いっそ人間ではなく木石であれば、どんなに気が楽だったろう。
     それもこれも、縁のもつれ、自分の思い通りにならぬ執着に端を発する。三年前、たったの三年前に、隠し刀は恋に落ちた。相手は自分のような血腥い人生からは丸切り程遠い、福沢諭吉である。幕府の官吏であり、西洋というまだ見ぬ世界への強い憧れを抱く、明るい未来を宿した人だった。身綺麗で清廉潔白なようで、酒と煙草が大好物だし、愚痴もこぼす、子供っぽい甘えや悪戯っけを浴びているうちに深みに嵌ったと言って良い。彼と過ごした時間に一切恥はなく、また彼と一緒に歩んでいきたいともがく自分自身は好きだった。
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    zeppei27

    DONE何となく続いている主福の現パロです。本に書下ろしで書いていた現パロ時空ですが、アシスタント×大学教授という前提だけわかっていれば無問題!単品で読める、ホワイトデーに贈る『覚悟』のお話です。
    前作VD話の続きでもあります。
    >熱くて甘い(前作)
    https://poipiku.com/271957/11413399.html
    心尽くし 日々は変わりなく過ぎていた。大学と自宅を行き来し、時に仕事で遠方に足を伸ばし、また時に行楽に赴く。時代と場所が異なるだけで、隠し刀と福沢諭吉が交わす言葉も心もあの頃のままである。暮らし向きに関して強いて変化を言うならば、共に暮らすようになってからは、言葉なくして相通じる折々の楽しみが随分増えた。例えば、大学の研究室で黙って差し出されるコーヒーであるとか、少し肌寒いと感じられる日に棚の手前に置かれた冬用の肌着だとか、生活のちょっとした心配りである。雨の長い暗い日に、黙って隣に並んでくれることから得られる安心感はかけがえのないものだ。
     隠し刀にとって、元来言葉を操ることは難しい。教え込まれた技は無骨なものであったし、道具に口は不要だ。舌が短いため、ややもすると舌足らずな印象を与えてしまう。考え考え紡いだところで、心を表す気の利いた物言いはろくろく思いつきやしない。言葉を発することが不得手であっても別段、生きていくには困らなかった。だから良いんだ、と放っておいたというのに、人生は怠惰を良しとしないらしい。運命に放り出されて浪人となった、成り行き任せの行路では舌がくたくたに疲れるほどに使い、頭が茹だる程に回転させる必要があった。
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