お見通し「……なんで最近、ことの最中にやたらと首噛んでくるんですか」
浴室で、ぶっきらぼうにシャワーを寄越しながらサギョウが聞いてきたから、
「そうすると中が締まるから好きなんだと思っていたが、違うのか?」
「……はぁぁ?」
正直に答えたら仏頂面が忌々しげなものに変わった。まぁ、どちらも同じようなものなのだが。
「恐怖に竦んだ反射とは考えないんですかぁぁ……?」
「そうであったり嫌だと思ったならその場ですぐに言うだろう? お前なら」
できないとは言わせない、という、言外に込めた意図は正しく伝わったようだ。
「……可愛くねぇな」
舌打ちまで混じった忖度のない口調。それでもその顔は──ばつが悪そうにではあるが──にやりと緩んだ。
明確な答えを飛ばして、その先にある己の思ったままを口にするのは即ち肯定と変わらない。
「痕は付けていないのだから問題ないだろう?」
「ああそうそう、それがいつも不思議なんだ、どうやってんですか?」
自分の首元を撫でながら聞いてきたサギョウと目を合わせたのは鏡の中。
「……先輩?」
ふと黙ってしまった俺に対する怪訝な呼び掛け。
視線を、ほんの少し下げれば眼前にはいまだ火照りが残る薄紅い頸、鏡に戻せばそこには愛おしい相手の丸まった瞳。
言葉で説明するよりもやって見せたほうが早いだろう、と、考えたわけではなかった。
ただ無意識に噛み付いてしまっていた、後ろから抱き付きながら。
「……っ! ちょっ 何ももっかいやれとは言ってな──っぅあっ!」
「──本当に、好きなんだな」
鏡のおかげで、初めてよく見えた。
普段は見えない、歯を立てた時のサギョウの顔が。
「…… っとに、可愛くねぇ!」
「お前は可愛い」
色々な感慨に耽りながら、これはもう一度してもいいのだろうかと期待してそっと腹の下に手を伸ばしたのだが──
「明日も仕事ぉぉぉ!」
と言う叫びと共に結構な勢いで脇腹に肘を打ち込まれたので──
少々調子に乗りすぎたなと、一応反省はした。