根性カップも臼井セレクト 選手権……全国大会出陣の朝。早朝の出発だがいつも朝練で早いので大した苦もなく今帰仁は目を覚まし、準備を始めた。寮生のサッカー部員も次々と目を覚まし、忙しなく身支度をしている。朝食を食べる人、顔を洗っている人、朝シャンしてる人……自分もご飯を食べようと今帰仁が食堂に向かうと、サッカー部副部長の臼井がおにぎりを握っていた。
「おはようございます」
「おはよう、よく眠れたか?」
はい、と返事をすると良しと笑ってくれた。鬼軍曹だけど概ね優しくて頼りになる先輩だと思う。
「それ、持っていくんですか?」
てっきり朝ごはんにするのかと思っていたけど、臼井先輩はおにぎりをアルミホイルに包んでいた。
「うん。朝ごはんなんだ」
誰の? 臼井先輩の分なら今食べればいいし。寮の人の分ならアルミホイルに包む必要はない。聞いてもいいのかな、と悩んでいると後ろから声を掛けられた。
「わかった! 水樹の分だろ」
「灰原先輩、おはようございます」
はよー、と欠伸交じりに灰原先輩が挨拶を返してくれた。水樹寝坊して朝飯食い損ねるって思ってんだろ、と灰原先輩は臼井先輩に自説を披露した。
「それはどうかな」
どこか含みを持った臼井先輩の笑み。なんだよーなんか隠してるだろ言えよー、灰原先輩が臼井先輩に絡んでる。臼井先輩はふっふっふっと笑って答えず、おにぎりをさらに風呂敷に包んで自室へ戻っていった。灰原先輩の寝癖を指摘してから。
ドタドタと洗面所へ走っていく灰原先輩と入れ違いに猪原先輩が食堂へやってきた。朝の挨拶を交わしてから、並んで食事をとる。さっきの臼井先輩のおにぎりについて話したら、灰原先輩と同じ意見だとのことだった。水樹キャプテンは……まあ寝坊しちゃうかもしれないな。そう思っていると、猪原先輩がほとんど独り言みたいにあることを呟いた。
寝坊が心配とかじゃなかった。水樹キャプテンは臼井先輩の指示でバスに寝泊まりしてたのだという。そんなこと、あるんだ。皆んなびっくりしてた。普通の顔して歯を磨いてたキャプテンと、朝ごはんと称しておにぎりを渡してる臼井先輩の方がおかしいと思う。
「……つーか自分で軟禁しといて飯用意してんの、なんつーか、どうよ」
「深く考えんのよそーぜ」
速瀬先輩と国母先輩に同意。水樹キャプテンはおにぎりをばくばくと食べてるし、臼井先輩は満足そうだし、遅刻者はいなかったし、まあいいか。
「惚れ込んだ相手には尽くすタイプなんだ、あいつは」
猪原先輩の言葉は多分正しい。惚れ込んだ相手っていうのは水樹キャプテンなのか、それとも聖蹟というチームなのか。両方かな。水樹キャプテンはこの代の聖蹟の象徴なんだから、どっちでも同じことなのかもしれない。