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    mimi_ruru_241

    @mimi_ruru_241

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    mimi_ruru_241

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    マジックテープのくつを履いてるkbnと、蝶々結びが得意になったdndのお話。できないことがあったって、二人で助けあえばいい。
    ※別所から移しました。ご感想等、ありがとうございました!

    #キバダン
    #kbdn

    くつひもと迷子 そりゃあ、キバナにだって不得意なものの一つはある。別の言い方をすれば、そのたった一つしかないのだけれど、柔和に見えて妙に完璧主義者な彼にとって、それは誰にも知られたくない欠点であった。だから厳重に、慎重に、秘密にしていたのだけれど。
    「なあ、キバナ」
     着替えが終わり、荷物を背負ったところで呼び止められる。なあに、と疲労の残るくちもとを微笑ませて振り返れば、ダンデがやや下の方へ視線を落としながら、「それ、直したほうがいいんじゃないか」と言った。
    「それって?」
    「スニーカーのひも」
     ぎくり、として足を引いても隠せやしない。キバナが履いている限定モデルのスニーカーは、コレクター垂涎の品で、色使いも鮮やかでスタイリッシュなものだ。けれどその中心を編み上げるシューレース、──くつひもの蝶々結びが、縦方向に曲がっていた。
    「せっかくかっこいいスニーカーなんだから、ちゃんとしたほうがいいぜ」
     お気に入りのものを「かっこいい」と褒めてもらったことに心を躍らせる余裕もなく、キバナは「あー、まあ、あとでね」と歯切れ悪く返事をした。
    「今直したらいいだろ」
    「いいんだ、大丈夫」
    「ふうん」
     ダンデは少し目を細め、やがて興味を失ったように背を向けた。着替えを再開したその背中に、ほっと息をついたのも束の間、ダンデは再び振り返った。
     その瞳は、きれいな三日月の曲線を描いている。まるで、おもしろいものでも見つけたかのような表情で、ダンデは言う。
    「キミ、蝶々結び、苦手なんだろ」
     おれが直してあげるよ。いつでも直してあげる。いたずらっぽく笑ってキバナに近づき、その足元で膝をついた。
     それ以来、キバナのくつひもは、そっぽを向いたことがない。

     キバナは何でもできる男だ。キッチンに立てば華やかな料理が作れるし、身につけるものはどれもセンスがよく、ふとした時のはなうたですら半音も外さない。そんな彼だったが、蝶々結びだけはだめだった。何度か練習したこともあるが、どうにもうまくいかない。ネットの検索欄に「蝶々結び きれい やりかた」という履歴を残しただけで終わった。
     だから、「おれさまの蝶々結びはこういうものだ」ということにした。これのせいでスニーカーの見栄えが少々おかしくとも、それがファッションなのだと開き直りさえした。ジムのユニフォームと合わせるくつは、マジックテープの特注品にした。「ドラゴン用耐火グローブをしたままでも脱ぎ履きしやすい」というもっともらしい理由を吹聴して歩いた。周りはそれで納得した。
     けれど唯一、ダンデにだけは見破られたのだ。
    「あのさ、ダンデ」
     ダンデの背後から、キバナが呼びかける。この男にしては珍しい、ちょっぴり弱々しい声色が何を求めているのか、ダンデはもう知っている。ロッカーの扉を閉めて振り返ると、彼は既にベンチへ座り、ダンデをおずおずと見上げていた。
    「くつひも、結んでくれる?」
    「いいぜ」
     何度聞いたか分からないお願いに、何度返したか分からない返事をする。
     キバナは律儀な男だったので、ダンデの答えが決まりきっていたとしても必ず「結んでくれるか」と問いかける。「結んで」と言われたことは、一度もなかった。この男には、そういうところがある。
     ダンデは膝をついて、丁寧にひもを結ぶ。くるりと巻いて、輪をつくって、通す。こうして見ていれば簡単そうなのに、キバナの指先はちっとも言うことを聞かない。彼の靴箱の中には、結び目が曲がったくつで溢れている。夜毎、それをほどいては結んでいるけれど、ダンデみたいに上手くできたことは一度もない。
    「できたぜ」
     右足の上で、きれいな蝶々結びが出来上がっている。満足そうにそれを確かめたダンデは、意気揚々ともう一方にとりかかる。キバナは、その左巻きのつむじに「なあ」と呼びかけた。
    「いつもやってくれて、ありがとな」
    「どうした、やけにかしこまって」ひもを、くるりと巻く。
    「なんだか申し訳ないなって。おまえに膝をつかせて、ひもなんか結ばせてさ」
    「……いいんだ、おれがやりたいだけだから」輪をつくって、通す。
    「おれさま、ちゃんと一人で結べるようになるよ」
    「……」両端を引っ張って、結び目を固くする。
    「だからさ、もう大丈夫」
     ダンデは、左足もきちんと結べたのを確かめてから、ゆっくりと顔を上げた。その澄んだ金色が見つめているのは、誰でもできることができない男なのだと思うと、キバナは少し頬が熱くなった。
     ちょっと泣きたいような気持ちになって、目を逸らす。冗談めかして「ダンデがいないところで靴紐がほどけたら、どうしたらいいか分かんないし」と言った。ダンデは黙っている。
     そろそろ行くね、と言いかけたところで、ダンデが唐突に「キミの、」と口を開いた。思わず目を向けると、彼はいつの間にか俯いていた。
    「キミのくつひもが、もし、どこか遠くでほどけても」
     ひと呼吸ぶんの沈黙。やがてダンデは言う。小さく、つぶやくように。
    「おれが結んであげる。いつだって、どこへだって、キミのところへ駆けつけて、おれがきれいに結んであげる」
     この時、キバナは気がついた。俯くダンデの耳の先が、ほんのわずかに赤らんでいることを。
    「おれが、そうしたい。そうさせてほしい」
     まるで意気地のない声だった。今目の前にいるのは、煤けた頬を乱暴に拭う英雄ではなく、長年をともに過ごしてきた良き友人でもない。額に汗を滲ませながら、キバナの「唯一」を請う、ひとりの青年だった。
     そうしてキバナはようやく、「蝶々結びができない」という己の欠けた部分が、ダンデというひとの形をしていることを知る。恥ずべきものだと思っていた空洞に、この男がぴったりとはまりこんでいる。まるでパズルのピースみたいに。
     それに気がついたとたん、たちまち世界が変わってゆく。この唯一の「欠け」が、とてもいとおしくなってくる。簡単なことができなくったって、それでもいいじゃないか、と思えてくる。だって、ダンデがいるから、大丈夫。
     なにか熱いものが両目から溢れかけたので、慌てて「駆けつけるったって、おまえ、道に迷うでしょ」と言うと、ダンデはようやく笑顔を見せた。そうして照れくさそうにはにかみながら、
    「そしたら、キミが迎えにきてくれ。キミはくつひもを結ぶのは下手だけど、道案内はうまいだろ」
     ダンデは迷子の常習犯だった。それはきっとダンデの「欠け」なのだ。
     その空いた部分は、ぴったり自分の形をしているといい。キバナはそう思った。





    (くつひもと迷子/2022.01.15)
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    Replies from the creator

    mimi_ruru_241

    PAST「狂気の合同誌」にて漫画で描いたものの小説版。本のおまけでしたがこちらで供養。
    プロットありとはいえ小説の所要時間は三時間でした。漫画の方は時間かかりすぎて計測できてません。
    初クリスタ、とても刺激的な日々でした。素材とかCGモデルどころかトーンすら使いこなせてなかった。
    狂気の合同誌、本当にお世話になりました。ありがとうございました!
    ないしょのかたっぽ キバナ、イコール、完璧。ガラル中の人々がそう思っている、……らしい。
    「ね、キバナ特集だって」
    「貴重なオフショットも多数、かあ。本屋寄ってみる?」
     壁一面に貼り出された広告を前に、女の子たちが黄色い声を上げている。道端で眠るチョロネコに気をとられていて気づかなかったが、横目でチラと見たそれにはキバナが大写しになっていた。光沢のあるタキシードをかっちりと着込み、腕には大輪のバラを抱えている。ちょっと吹き出してしまいそうなくらいベタな格好だが、その余りあるルックスの良さが全てに調和をもたらしていた。
     すっと通った鼻梁、あまくほどけたまなじり、涼しげな薄い唇。ダークチョコレートの色をしたその横を、おれは立ち止まることなく通り過ぎる。この美しさにほれぼれとするなんて時期は、もうとっくの昔に過ぎ去った。慣れた、というよりも、もっと別のことを知ったから。
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    DONEリクエスト「食べ物」
    食べ物とkbdnの組み合わせは私も大好きです☺️✨🍽🍎どちらが料理得意なのかな?とか、どんな食べ物好きかな?なんて考えているとあっという間に時間過ぎちゃいます😌
    ※結婚後2人が大分一緒に生活している設定
    やっぱり甘いね 青々とした街路樹はすっかり葉を落とし、冷たい風と共に本格的な冬が今年もやってきた。結婚してからとうに片手以上の年数を一緒の家で過ごし、互いの好きな事、苦手な事を知ることも熟知してきたこの頃。寒さが苦手なキバナは毎日気温計を見ては溜息を吐きながらジムへ出勤している。寒さが比較的平気なダンデは、毎朝少しだけ早めに起きてリビングのヒーターの電源を入れ、ナックルジムのユニフォームをヒーター前で温めるように置く事が習慣になっている。
    「うぅー。あったか…。」
     なんて大きな体を縮めながらヒーターの前を陣取って着替える姿が何だか可哀想だが可愛いとダンデは思っている。

     さて、二人が暮らす家を決める時、ダンデが日向ぼっこが好きなポケモン達の為にとリクエストして作ったヴィクトリアンモデルのコンサバトリーは、日差しが暖かい日は多角形の窓から惜しみなく太陽の光を招き入れてくれる。今日は繁忙期の中では珍しく二人揃っての休み。そしてこの時期には珍しく気温も高く、風もない。最高の日向ぼっこ日和ということで、日向ぼっこ好き代表であるリザードンは午前中のトレーニングが終わった後からはいそいそとコンサバトリーへと向かい、一番日当たりの良い場所にお気に入りのラグを引きぐっすりと眠っている。
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    肴飯のポイ箱

    DONEお題「大きさ比べ」
    ⏳1時間ジャスト
    ワンドロ開催いつもありがとうございます!凄く楽しく創作できるのもこのワンドロのお陰です☺️
    ※息をするように同棲しているkbdn
    ※kbnさんって手が大きいよねっていう話です

    あの手だったら色々なものを掴めるし撫でられるし、凄いなって思います。細かな作業は苦手で折り紙とかチャレンジして「ぬぁー!」ってキレて欲しい気持ちもある。器用なんだろうけど。
    大きさ比べ「(…珍しい。)」

     リビングのソファで仰向けになりながら本を顔の上に伏せ、珍しく居眠りしている彼を見つけて、好奇心からそのダラリと垂れ下がった右手をまじまじと眺める。同じポケモントレーナーとして活躍する彼の手は、所々小さな傷やペンだこはあるが、綺麗に手入れがされており爪も全て丸く引っかかりも無く整えられている。眠り込んでいる彼を起こさないように静かに膝をつき、そうっとその手を自分の両手で包んで持ち上げた。手の甲から手のひらとの色味の違う境目を指先でなぞりながらキバナの手をひっくり返し、その大きな手のひらと自分の手のひらを合わせて大きさを比べる。
     この大きな手が、ダンデは大好きだ。この手で触れられると、不思議なことにとても安心して幸せな気持ちになる。こんなに触ってもキバナは未だに起きる様子はない。それを良いことに、ダンデはキバナの手のひらへ頬を擦り寄せて幸せそうに笑う。少し冷たい指先の温度が、ダンデの頬の温度に触れて馴染んでいく。そんな些細な事でも幸せで愛しい。そんな気持のまま、最後手を離す前にと思ってキバナの手のひらへキスをすると、途端ガバリと体を起こしたキバナにそのまま彼の長い両腕で抱き付かれ、胸元へと引き寄せられる。バサリと本が床に落ちる音と同時に、彼のシダーウッドの香水の香りがふわりと鼻をくすぐる。
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