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    Goho_herb

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    Goho_herb

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    CHASE MORE!! 開催おめでとうございます&有難うございます!
    人魚なチェ×漁師なモクおじのパロディ作文です。
    何もしてないけど書いてる人間はチェズモクと思いながら書きました。
    元ネタツイート:https://twitter.com/Goho_herb/status/1453153039078944771?s=20

    #チェズモク
    chesmok

    sweet home 潮騒に包まれ、波に揺られる船上で男が休憩の一服を楽しんでいる。ぽっ、ぽっ、と口から吐かれる煙は輪を描き、風に攫われ消えていく。海は時に恐ろしいが、時にこんな穏やかな一面も見せてくれるから好きだ。生活の糧も与えてくれる。
    「――また、吸われているのですか?」
     波の音に混ざって美しい声が耳に滑り込み、男はその声の主へと目を向ける。水面からは声と同様に美しい顔が現れ、船上の男を見ていた。咎める様な言葉とは裏腹に、その表情は柔らかい。
    「お前さんがにおいが苦手って言うから葉を変えたよ」
    「ええ、何だか甘い香りがしますね。好みの香りです」
    「そりゃ良かった」
     手漕ぎの船の側まで寄ってきた美麗な顔に、男は軽く笑って見せる。波に揺られる銀糸の髪は、陽の光を反射する水面と同化している様に見えて、どこもかしこも綺麗なもんだと男は感心した。……初めて出会った時からそう思ってはいるけれど。
    「ではその葉に使われている精油、当ててみましょうか。……パチュリ、ですね?」
    「正解。甘いけど渋くて良い香りだよね、これ」
     煙管で吸える葉は、精々四、五口だ。だが、その時間が随分贅沢なものでもある。男はその時間を好んだし、海上に居る者もそれを咎めない。波が穏やかな日の、漁の合間に設けるひとときを、ふたりは好んだ。
    「……さて、じゃあもうひと仕事するよ。お前さん、どうする?」
    「あなたの網に巻き込まれるのも嫌ですし、底の方を少し泳いできます」
    「そうかい、夕方までには帰るよ」
    「はい」
     雁首を軽く打ち付け火皿の中の燃えカスを落とし、灰吹をしてから煙管を置いた男は、大きく伸びをしてから軽く手を振った。海底を泳ぐと言ったのは嘘ではないだろうが、たまたまそのルートが魚群を自分の網の方へ向かう様にするのだろうなと思いながら。



     とある国の街はずれの海岸に、少し風変わりな男が住んでいる。名をモクマと言い、腕の良い漁師として知られている。元は街に住んでいたが、数ヶ月前に海岸に杭上住居を建て、そこに住み始めた。不便ではないかと尋ねる知人に、彼は慣れればどうってことないよと朗らかに笑って答えている。
     実際、モクマは生活に困ってもいなければ不便も感じていなかった。寧ろ街から離れているものだから、静かで良い。電気ケーブルも引かれているし、電波も届く。真水は水揚げした魚を売りに行ったついでに調達している。電気を街から引く時に手助けしてもらった技術者のシンからは、お前は不便も楽しめるんだなあと評された。
     何故、突然モクマがここに住み始めたのか。それは勿論、理由がある。海の近くどころか、海上に住居を構えなければならなかった理由が。
    「はー、やれやれ、さっぱりした」
     持ち帰った真水を頭から被り、身を清めたモクマは、酒瓶を片手に海に面したベランダへ行く。杭上住居とは言っても陸上と海上、どちらにも部屋を設けられる立地に家を建てており、在宅の間は専ら海上にある部屋やベランダで過ごす事が多い。何故なら。
    「今日は随分と機嫌が良いですね。良い漁でしたか?」
    「チェズレイのお陰でイサキがたくさんかかってたんだよ。ありがとね」
    「私は私が泳ぎたい様に泳いだだけですのでぇ……」
     ベランダの縁には昼間に海原でモクマと会話していた美麗な顔の者が座っており、この者がモクマがこの場所に家を建てこの場所で過ごす事が多い理由だ。チェズレイと呼ばれたその者は、泳ぎが達者な人間――では、ない。正真正銘の、人魚だった。
     モクマがチェズレイと知り合ったのは、大型の漁船で数ヶ月を過ごしていた時の事だ。数名と共同生活を送っていた訳だが、その中の一人が夜になると海から歌声が聴こえてくると言い出した。最初こそ波や風の音と聴き間違えているのだろうと皆笑っていたが、そのうち一人、また一人とその歌声を聴いたと言う者が増え、ついには乗組員の半数以上が聴いたと証言する様になった。実害は無いのだから放っておいても良いのでは、とモクマは軽く考えていたのだけれども、ついにはノイローゼになった一人が雨の降る中、海に飛び込んでしまったのだ。その同僚を助けに真っ先に海に飛び込んだモクマは、海中で驚いた様に睨んできた不審な影を見た。上半身がヒトで、下半身が魚の、所謂人魚と呼ばれるフォルムの影だった。
     人魚という異形の存在はお伽噺の中だけのものと思っていた彼は、当初見間違いと思った。だが、漁を中断する事を決意した船長によって港へと引き返していく間にも船を追う様な影を波間に見たし、時折船上で海面を眺めていると目元まで海から出してこちらを見ている者を見た。友好的な目線ではないと、勘ではあるが思った。
     これは間違いなく人ならざるものだと判断したモクマは、あと数日で港に到着するというある日の夜、乗組員全員を船内で休ませ、甲板で一人寝ずの番をした。すると、確かに歌が聴こえてきたのだ。波の音に紛れて声のみで奏でられるその旋律が耳に滑り込んできて、モクマもまるで操られ吸い込まれる様に海に転落してしまった。だが正気を失った訳ではなく、却って海中に落ちた事で頭が冴え、近寄ってきたその影を躊躇なく掴んで羽交い締めにしてやった。それが、チェズレイだった。
     自分を解放してくれるならもうこの船の人間に歌わない、と言ったチェズレイの言を果たして信用して良いのか、モクマは迷った。だがただでさえ海中であるし、夜間という事を鑑みても己の命も危うい訳なので、最終的には解放してやった。そして自分も船へと戻り、命綱を予め腰に巻いていて助かったと思いながら甲板で服を搾っていると、海面に顔を出したチェズレイから次からはあなただけを標的にしますねと宣言された。
     その言葉通り、チェズレイはモクマの乗る船に付かず離れずついてきたのだが、人目につくのは嫌なのか、港には近寄らなかった。ただ、共に上陸した同僚達がこぞって街で美声の魔物の話をしたせいか、興味を抱いて個人の小型船で出航してずぶ濡れで戻ってくる者が出始めた。決まって全員、この世の者とは思えない程の美人が歌で誘惑してきて、気が付けば海に飛び込んでいたと言うのだ。聞いていただろうに何だってそんな馬鹿げた真似を、とモクマは思ったけれども、人間の好奇心という箱に蓋をするのは難しい。自分だって当事者でなければ同じ事をしていたかもしれないと思い、命があって良かったねとだけ伝えていた。
     被害に遭った男から船を借り、モクマが個人漁に出たのは港に戻ってから一週間程経ってからだ。長期間の漁の後は暫く体を休めるのがモクマのモットーだが、標的はあなただけにすると言った割には他の者達を海に落としているものだから、流石に文句の一つくらい言ってやらねばと思ったからだった。恐らく自分が海に来ないものだから他の者にちょっかいをかけているのだろうけれども、それにしたって十を下らない人数を海に落とすのはいかがなものか。
     沖合で再会したチェズレイは、モクマが思った通り、あなたが来ない代わりに下品な者達が海に出てきては騒ぎ、海を荒そうとしたので歌っただけと言った。体力に自信はあるがずっと船の上であったから休みたかったんだよとモクマが言っても、チェズレイは不服の顔を見せたので、仕方なく明日から毎日漁に出るからと約束した。約束、してしまったのだ。
     顔見知りから船を譲ってもらう交渉を何とか成立させ、雇ってもらっていた船長に暫く個人漁をすると申し出て了承を得たモクマは、翌日から約束通り毎日漁に出た。その度にチェズレイは姿を見せては歌い、モクマを海に引きずり込もうとしたのだが、逆に調子外れの歌をモクマが歌うと沈黙するどころか顰め面になって文句を言った。
     モクマがほぼ毎日漁に出る様になってから、歌を聴いて海に飛び込む者の被害はぴたりと止まった。それどころか、飽くまで風の噂ではあるがよその国の船乗り達も魔物の歌声をここ数ヶ月聴いていないと言っていると小耳に挟んだ。どうやらチェズレイは大海を自由に行き来し、これと決めた船の乗組員を海に沈めていたらしい。その事を尋ねるとチェズレイはそらとぼけ、詳しく聞こうとすると海に潜ってはぐらかした。そういうのはずるい、とモクマは思ったが、ヒトとヒトならざる者とでは思考も感覚も違うであろうし、そもそもチェズレイにこちらの常識が通用するとも考えられなかったので、深追いするのはやめた。
     そんな生活を送る様になって一ヶ月程経ったある日、例の船に同乗していてチェズレイの歌声を聴き海に飛び込んだ男数名が、密輸船に関わったとして捕まった。その摘発には、モクマも絡んでいた。実はモクマは元々武術に長けた諜報員であり、密輸についての捜査を手伝えと昔なじみの公安であるナデシコから強制された、もとい頼まれたのだ。だから、漁師「も」やっていた。
     摘発した密輸の荷には、海のコカインとも言われるコガシラネズミイルカやトツアバの鰾などが含まれていた。そして、こちらは真偽の程はモクマにも分からなかったが、人魚の鱗や肉と言われるものも混ざっていたらしい。前者は希少な海洋生物であるし、後者に至っては本物であるなら大変な事だ。それらを密輸していた、或いは取引の為に密漁していたならば、チェズレイが男達を海に沈めていたのも頷ける。男達を擁護する気はモクマには無いが、しかしわざわざチェズレイが手を下す価値も無いのではないかとも思った。
     密漁や密輸をしていた者達を捕まえた事を、小型船に揺られながら伝えたモクマに、チェズレイはそうですか、としか言わなかった。一握りの者達を捕まえたところで、世界は広いのだから、同じ様な犯罪に手を染める者達がまた出てくるだろう。私はそういう下衆どもをこれからも沈めますよと言ったチェズレイに、モクマは一つ条件を出した。俺を沈める事が出来たら好きにしたら良い、という条件を。


    『あなたに何の益があるのです。そもそも、あの様な下衆達は死んだ方がこの海にも地上にも良い事だと思いますが?』
    『そうかもしれないけどさ。あんな奴らの為に、お前さんの歌声を不吉なもんにする必要は無いんじゃない? 引き続き、おじさんだけを標的にしてくれたら光栄だねえ』
    『あなただけを標的にするにはヒトとしての脚を生やす方が都合が良いですが、代償として声を失う事になるのですよねえ』
    『えっ、別に生やさなくても良いじゃない。海の側に家建てるよ』
    『……私と暮らすおつもりで?』
    『うん』
    『あなたを水底に沈めようとしている私と?』
    『何度沈められても、お前さんごと浮上してみせるよ』
    『………』
    『人魚の涙は雨になるって言われててね。同胞が犠牲になった結果の雨、降らせない努力を全力でしてみせようじゃないの』


     モクマにとっても、一種の賭けの様なものだった。人外を人間の理屈や感情で説得出来るとは思えなかったが、それでも一定期間言葉を交わし合った間柄となれたのだから、淡い期待くらいは抱きたかったのだ。
     結論から言えば、今現在のモクマの住まいがチェズレイの答えを雄弁に物語っている。モクマが本当に海に面した家を建てるのか疑っていたチェズレイであったが、その日の内にナデシコに掛け合って土地を融通してもらう交渉を頼み、家を建てる為の最低限の人手、それも口が堅い者――チェズレイの姿を見られる訳にはいかなかったからだ――を探し、翌日にはあそこに建てると笑ったモクマに呆気にとられた。共同生活を送る様になって数ヶ月経った今も、何となく現実ではない様な気になっている。
    「ところでモクマさん、南から回遊してきた魚が教えてくれたのですが」
    「うん? なに?」
    「大洋で執拗に何かを探している船がガリ国の方から度々やってきているそうですよ」
    「執拗に、何かを?」
    「あの辺り、私が一時期大勢沈めたんですよね。船ごと沈めたのもあります」
    「そう言えば貨物船が消息不明になったっていうニュース、去年あったね?! あれ、お前さんが沈めたの?!」
    「船長が人魚の剥製を自慢しているという下衆でしたのでぇ……」
    「……う~~~ん……」
     驚いて目を見開いたモクマだったが、理由を聞いて押し黙る。それは擁護出来ないと思ったからだけれども、かと言って今の発言を受け流したままにする訳にもいかない。自分達人間の浅ましさを突きつけられてしまった気分のまま呻いていると、チェズレイが尾びれで海面を蹴った。
    「あの海域は、人間に荒らされたくないのですよね。母が眠っていますので」
    「そっか。じゃあ、おふくろさんに静かに眠ってもらう為にも、そいつら追い払わなきゃね。明日には出発しよっか」
    「……は?」
    「え?」
     不届き者を追い払う為に暫く留守にすると言おうと思っていたチェズレイが、モクマの言に目を丸くする。その反応に、モクマも意外そうな顔をした。ひとりで行く前提で話をしていたチェズレイに対し、ついていくのが当然と考えていたモクマが、見事にすれ違っている。俺の事置いていくつもりだったの、と言わんばかりに眉を悲しげに下げたモクマに、チェズレイは思わず吹き出してしまった。
    「ああ、そう、そうでした、私の標的はあなただけでしたね」
    「そうだよ、チェズレイの浮気者~」
    「………」
     中年男性のぶりっ子など可愛げがある筈も無いのだが、小憎らしい事に、チェズレイの目にはどことなく愛らしく見えてしまう。しかも、チェズレイがそう感じているなどという事など、モクマは微塵も思っていないのだ。それが一番憎らしい。
     人魚の涙が雨になるという伝承は、人間に忘れられて久しい。だがどこで知ったのか、このモクマという人間の男はそれを口にし、あまつさえ努力するなどと言ったものだから、チェズレイもこの住まいへ来る事にしたのだ。豪奢でもなければ綺麗でもないが、温かみは溢れんばかりに感じられるこの家へ。
    「浮気などしませんよ。あなた程の下衆はそう居ませんから」
    「そう? じゃあ安心だ」
     チェズレイの歓喜が混ざった苦笑に、モクマはへらっと受け流す様に笑う。その手はしっかりとタブレットを操作しており、明日からの旅程の算段を既に始めている事をチェズレイに教えてくれていた。
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    Goho_herb

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    人魚なチェ×漁師なモクおじのパロディ作文です。
    何もしてないけど書いてる人間はチェズモクと思いながら書きました。
    元ネタツイート:https://twitter.com/Goho_herb/status/1453153039078944771?s=20
    sweet home 潮騒に包まれ、波に揺られる船上で男が休憩の一服を楽しんでいる。ぽっ、ぽっ、と口から吐かれる煙は輪を描き、風に攫われ消えていく。海は時に恐ろしいが、時にこんな穏やかな一面も見せてくれるから好きだ。生活の糧も与えてくれる。
    「――また、吸われているのですか?」
     波の音に混ざって美しい声が耳に滑り込み、男はその声の主へと目を向ける。水面からは声と同様に美しい顔が現れ、船上の男を見ていた。咎める様な言葉とは裏腹に、その表情は柔らかい。
    「お前さんがにおいが苦手って言うから葉を変えたよ」
    「ええ、何だか甘い香りがしますね。好みの香りです」
    「そりゃ良かった」
     手漕ぎの船の側まで寄ってきた美麗な顔に、男は軽く笑って見せる。波に揺られる銀糸の髪は、陽の光を反射する水面と同化している様に見えて、どこもかしこも綺麗なもんだと男は感心した。……初めて出会った時からそう思ってはいるけれど。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。ポッキーゲームに勝敗なんてあったっけとググりました。付き合っているのか付き合ってないのか微妙なところ。■ポッキーゲーム


     昼下がり、ソファに座ってモクマがポッキーを食べている。そこへチェズレイが現れた。
    「おや、モクマさん。お菓子ですか」
    「ああ、小腹が空いたんでついコンビニで買っちゃった」
     ぱきぱきと軽快な音を鳴らしてポッキーを食べるモクマ。その隣に座って、いたずらを思いついた顔でチェズレイは声をかける。
    「モクマさん。ポッキーゲームしませんか」
    「ええ~? おじさんが勝ったらお前さんが晩飯作ってくれるってなら乗るよ」
    「それで結構です。あ、私は特に勝利報酬などいりませんので」
     チェズレイはにっこり笑う。「欲がないねぇ」とモクマはポッキーの端をくわえると彼の方へ顔を向けた。ずい、とチェズレイの整った顔が近づいて反対側を唇で食む。と、モクマは気づく。
     ――うわ、これ予想以上にやばい。
     チェズレイのいつも付けている香水が一際香って、モクマの心臓がばくばくしはじめる。その肩から流れる髪の音まで聞こえそうな距離だ。銀のまつ毛と紫水晶の瞳がきれいだな、と思う。ぱき、とチェズレイがポッキーを一口かじった。その音ではっとする。うかうかしてたらこの国宝級の顔面がどんどん近づいてくる。ルー 852

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。年下の彼氏のわがままに付き合ったら反撃された。■月と太陽


    「あなたと、駆け落ちしたい」
     ――なんて突然夜中に年下の恋人が言うので、モクマは黙って笑うと車のキーを手にする。そうして携帯も持たずに二人でセーフハウスを出た。
     助手席にチェズレイを乗せ、運転席へ乗り込むとハンドルを握る。軽快なエンジン音で車は発進し、そのまま郊外の方へ向かっていく。
     なんであんなこと、言い出したんだか。モクマには思い当たる節があった。最近、チェズレイの率いる組織はだいぶ規模を広げてきた。その分、それをまとめる彼の負担も大きくなってきたのだ。
     ちらりと助手席を窺う。彼はぼうっとした様子で、車窓から街灯もまばらな外の風景を眺めていた。
     ま、たまには息抜きも必要だな。
     そんなことを考えながらモクマは無言で運転する。この時間帯ともなれば道には他の車などなく、二人の乗る車はただアスファルトを滑るように走っていく。
    「――着いたよ」
     路側帯に車を停めて声をかけると、チェズレイはやっとモクマの方を見た。エンジンを切ってライトも消してしまうと、そのまま二人、夜のしじまに呑み込まれてしまいそうな気さえする。
     チェズレイが窓から外を見る。黒く広い大海原。時 818

    ▶︎古井◀︎

    DONE横書き一気読み用

    #チェズモクワンドロワンライ
    お題「潜入」
    ※少しだけ荒事の描写があります
    悪党どものアジトに乗り込んで大暴れするチェズモクのはなし
     機械油の混じった潮の匂いが、風に乗って流れてくる。夜凪の闇を割いて光るタンカーが地響きめいて「ぼおん」と鈍い汽笛を鳴らした。
     身に馴染んだスーツを纏った二人の男が、暗がりに溶け込むようにして湾岸に建ち並ぶ倉庫街を無遠慮に歩いている。無数に積み上げられている錆の浮いたコンテナや、それらを運搬するための重機が雑然と置かれているせいで、一種の迷路を思わせるつくりになっていた。
    「何だか、迷っちまいそうだねえ」
     まるでピクニックや探検でもしているかのような、のんびりとした口調で呟く。夜の闇にまぎれながら迷いなく進んでいるのは、事前の調査で調べておいた『正解のルート』だった。照明灯自体は存在しているものの、そのほとんどが点灯していないせいで周囲はひどく暗い。
    「それも一つの目的なのではないですか? 何しろ、表立って喧伝できるような場所ではないのですから」
     倉庫街でも奥まった、知らなければ辿り着くことすら困難であろう場所に位置している今夜の目的地は、戦場で巨万の富を生み出す無数の銃火器が積まれている隠し倉庫だった
     持ち主は、海外での建材の輸出入を生業としている某企業。もとは健全な会社組織 6166