たとえばこんな恋の始まり3 空を見上げる澄んだ空気と青い空そして白い雲が浮かんで絶好のお昼寝日和だと心の中で呟いた。
「みんなーご飯だぞー」
家訓に引っかからに位の声を広い緑の絨毯へ響かせると茂みや木々の下からわらわらと白い兎達が顔を出し声の主に向かって飛び跳ねてくる。
「羨羨達も来いよ、忘機兄さんの代わりで悪いけど」
沢山の野菜を乗せた籠を降ろすと兎達は黙々と食べ始める、少し遅れて黒兎が三羽魏無羨の横に寄って来て鼻をスンスンさせていた。
「まだお仕事から戻って来てないんだ。藍先生が言うには明日の未の刻辺りに帰ってくるかもって言ってたよ」
籠から人参を三本取り出して黒兎達の前に置くと魏嬰の言葉を理解しているのか頷いた様な仕草をした後カリカリと齧り始めた。
「羨羨達は人間の言葉が分かるんだな」
白い兎が多く生息しているこの場所に三羽だけ黒い兎が暮らしていた、俺は気になって聞いてみたら忘機兄さんが昔、知人から貰ったと言っていた。
「兄さん達怪我とかしてないよな」
ふわりと膝に温かさを感じて顔を向けると黒兎達が膝に乗って鼻をぴすぴすさせていた。
「うん、俺達の大好きでかっこよくて強い兄さん達だもんな、無傷で帰ってくるよな」
そう言うと魏嬰は広い空を見上げる兎達も一緒に。
「忘機兄さん、この黒兎達仲良しさんなんだね」
魏嬰が一羽を抱っこして高い高いして隣で兎達に葉物をあげながら話をしてくれた。
「その三羽は兄弟と聞いている。親兎をい・・・獣に殺されてしまいその子達も危うい所を知人が助けたと言っていた」
「へー俺と同じだな、しかし本当に可愛いなぁ~ふわふわで柔らかいしまるまるしてて・・・・美味しそう」
げしっという小さい音が響いた、魏嬰が抱っこしている黒兎の足が顎を蹴りその勢いで後ろに転んでひっくり返った。
「魏嬰」
藍忘機が魏嬰を起こそうと手を出そうとした時元気に笑いだして抱っこしている黒兎を抱き上げて「お前なかなかやるじゃねーか」と楽しそうに言っている姿を見て少々呆れてしまった。
「食べないから安心しろよ、家訓にこの場所での殺生禁止ってあるから、食べちゃいたいくらい可愛いってことだよ」
腕の中で足をバタつかせていた黒兎が動きを止め大人しくなった。
「忘機兄さん、この子達に名前ってつけてるの?」
魏嬰は寝転がったまま黒兎を抱きしめると他の二羽も寄って来て腹の上に乗っかりだして藍湛は慌てた。
「大丈夫だよ、この子達軽いからしかもあったかいし可愛いし仲良くなれそう。だから名前あるなら教えてよ」
「名はない・・・ここに兎が何羽いると思ってるんだ」
「うーん忘機兄さんが分からない事俺が分かるわけないじゃん。だからこの三羽だけ特別に俺が名前つけてやろうかなって」
上体を戻して藍湛の膝の上にいる黒兎達を順番に指差しながら楽し気に笑いながら名を告げた。
「全部羨羨、俺にそっくりだから良いよね忘機兄さん」
黒兎達皆同時に耳をピンと立て魏嬰の方に顔を向けていたから気に入ったということだろう、藍忘機は静かに頷きこの日から黒兎達の名は「羨羨」となった。
「羨羨達これからもよろしくな」
笑っている魏嬰を横目で見つめていると、彼の顔には先程蹴られた兎の足跡、背中は寝転がった時に着いたと思われる草が付いていて藍湛は静かに黒兎達を降ろすと羽織の袖で魏嬰顔を拭こうと近づいた。
「どうしたの忘機兄さん・・・って駄目だよ羽織が汚れる」
両手で壁を作る様にして藍湛の手を塞ごうとしたが少しだけ遅かった、真っ白い羽織と大きな手が顔に優しく触れた。
「動かないで」
無言で頷いて目を閉じた、良い香りが鼻をくすぐるし顔から手が離れると背中に回されて背中を軽く叩かれた。
「これで平気、草や葉っぱが着いていたらまた叔父上に叱られてしまう」
藍湛に言われてハッとなり立ち上がってきょろきょろと周りを見回した後自分を見つめている兄に口元に指を立てて笑った。
「寝転んだの内緒にしてて欲しいかも」
「・・・今回だけだからな」
「ありがとう忘機兄さん」