魏無羨は自室で姿見とにらめっこして一時間がたっていた。
「もうどれにするか決めなさいよ、折角お姉ちゃんが阿羨に似合うと思って選んできたお洋服なのに」
頬を膨らませてベットに並べた可愛らしいワンピースやコーディネートした上下の服たちを指差した。
「俺にはどれも似合わない・・・ふわふわしてるし色も女の子してるし、無理無理いつも通りの服で行く」
魏嬰は、涙目で左右に首を振って訴える。
「私の着てた服が嫌なら今度一緒にお買い物しましょう。いつもの格好も阿羨似あうけどたまにはこういうのも良いと思うのよ、デートの時くらいはオシャレしても可愛い格好しても」
せめてトップスだけでもと綿麻素材の緑色のゆったりしたカジュアルワンピぽい服を手渡した。
「これなら平気でしょ、下はいつものボトムズボンでいいから」
「分った・・・姉さん借りるよ」
黒色のポロシャツから着替えて姿見でゆったりした裾を摘まんでクルリと回る。
「柔らかい生地なんだね、シンプルで良いかも。ありがとう姉さん」
「うんうん、似合う似合う。阿羨笑って」
嬉しそうな声で江厭離に言われ魏嬰はニコリと笑うとスマホのシャッター音が聞こえた。
「ちょっと、何撮ってるの・・・」
「だって貴女のご両親達に頼まれてるんだもの。送信終了」
「もう、俺の両親の言う事なんて聞かなくてもいいのに」
自分の服を畳んで洋服箪笥にしまって上着を手に取った。
「デートの時間までまだ早いんじゃないの?」
「どっちが先に着くか勝負してるからね」
全くあなた達はと江厭離は呆れながらも羨ましくもあった。
「駅まで一緒に行こうよ、今日姉さんもデートだろ」
「そうね、一緒に行きましょ」
「あら、帽子は?今日も陽射しが厳しいわよ」
つばが広めの麦わら帽子をかぶって先に外に出た江厭離は戸締りをしている魏嬰に声をかける。
「先日藍湛家で勉強教えてもらった時に忘れちゃって今日持ってきてくれるんだ・・・毎日暑いの困るよね」
二人で並んで駅まで歩く、チラリと横に並ぶ江厭離を見ながらやっぱ男の人って姉さんみたいに守ってあげたいって思ってしまう子の方が良いのかな・・。
「どうしたの阿羨?」
「なんでもなーい。姉さんは今日も可愛いなって」
くすくす口元をかくして笑う自慢の姉はやっぱり誰が見ても可愛いと思った、通りすぎるお兄さん達がチラチラ見てたしな。
「じゃあ私はここで・・・っておはようございます」
駅の改札前には金子軒が不機嫌そうな顔をして立っていた。
「おはよう、めずらしい人と並んでいたので驚いた」
「姉さんを悲しませたら俺と江澄が許さないからな」
「開口一番がそれか」
「うるさいな、あんたが姉さん泣かせた件まだ許してないからな」
ビシっと指差しした後江厭離には笑顔で楽しんで来いよと言い改札内へ駆けて行った。
「藍忘機と付き合ってから少しは落ち着いたと思っていたが・・・」
姿が見えなくなった後頭を掻きながら隣にいる江厭離に話しかけたのだが、彼女は嬉しそうに笑うだけだった。
「阿羨は本当可愛いわね」
「・・・・行こうか、今日は以前君が行きたいと言っていた水族館に」
お抱え運転手が待つ駐車場へ案内しながら久しぶりのデートが始まる事を楽しみにしていてのをバレないようポーカーフェイスを決め込む金子軒であった。
魏無羨は冷房が効いている電車に乗り座席に座ると周りの人達と同じようにスマホ画面に視線を向ける。
「今電車の中だよ」と送ると「私もだ」と返信が帰って来て口元が緩んでしまうのを耐えるのが大変だ。
目的地の駅に着くと駅内のベンチに藍湛の姿が飛び込んできて肩を落とした。
「今日は藍湛の勝ちか・・・なんで改札前じゃなくて構内のベンチなの?」
「暑いから君が倒れたらと思って、後今日はここではなくて隣の駅のショッピングモールに行こうと思って」
藍湛の隣の空いているベンチに座って話しを聞き大きく頷く。
「うん。行こう、涼しい場所で色々見て回るの楽しいよね」
丁度電車も来たのでごく自然に手を繋いで乗り込んだ。
「魏嬰、帽子返しておく」
「ありがと」
ふわりと黒のキャップをかぶされて魏嬰は上を向き藍湛に微笑んだ。
ショッピングモールに着くと中は涼しく家族やカップル友達同士の人でにぎわっている様子だ。
「色々あるんだな―映画館もある。今何が上映されてるのかな、今話題のサメ映画とか、あっレストラン街も沢山だしでかい本屋もあるよ藍湛」
案内板を見ながら藍湛にニコニコご機嫌な笑顔を向け話す魏嬰を静かに見つめた後案内板を見た後静かに頷く。
「映画は時間帯を見てからだな」
「うん」
時間帯が良かったのか話題のサメ映画を見ることができそのまま軽めのご飯を取りながら感想を語り合う、ほぼ魏嬰が話藍湛は頷くだけなのだが二人はそれが当たり前の事で楽しい時間のひとつだった。
「うぁー本の種類豊富だな」
「うん」
モールの中を並んで歩く時折お姉さん達がすれ違いがてらチラチラを見てく、いつもの事なんだけど今日は多い、俺達外野から見るとどう見えてるんだろう。
「魏嬰、ここに寄って行こう」
「ん?ここ・・・えっ服屋さん???」
魏嬰が服屋と藍湛を交互に見ながら困惑していたが藍湛は手を繋いで入って行く中に入るとシンプルなデザインが多めのお店だった。
「藍湛」
「今日君の着ていた服が・・その可愛かったから」
「ああ、姉さんに借りたから可愛いんだけどな服が」
ぎゅっと握られてる手に力が入って痛かったんだけど少し震えているだから俺は我慢して空いてる手を重ねて顔を覗き込む。
「俺の似合いそうな服一緒に選んでくれる?」
「うん」 藍湛の嬉しそうな声で返事を返してくれて魏嬰は心臓がどきどき高鳴り周囲を見渡すと遠目で俺達を見てこそこそ話をしている人と目が合ってしまいお互い気まずくなった・・・そっちも彼氏と一緒だったからだ。
「これとかどうだ」
適当に選んだ服を自分にあてて返事をもらうが首を横に振られる。
「藍湛はどんな服を俺に着せたいの?」
「そうだな・・あっ」
「いいのあった?」
藍湛は魏嬰の近くにかけてあるワンピースに手をかけこくりと頷く。
「ワンピース・・・・しかも白色」
「私はこれが君に似合うと思う」
俺の体の前にあてて満足そうだ、その時背後に視線を感じ藍湛の横から顔を出した時店の外から知り合いの姿を発見した。
「な・・・あっ」
「どうした後ろに何かあるのか」
後ろを振り向こうとする藍湛の頬に片手を添え自分の方に向けながらもう片方の手は背中に回すようにしながら知り合いたちにあっちいけと手を振った。
「何もないよ、でも俺白色似合うかなぁー」
ひらひらと手を振り返しながら笑いながら知り合いは口パクで何かを告げて去って行った。
「お客様、よろしければご試着なさいますか?」
店員さんの呼びかけで我に返り魏嬰はハンガーを持って下を向く。
「あっ・・その・・」
「魏嬰」
「分かった・・・似合わなくても笑うなよ」
「仲が良いご兄妹さんなんですね」
妹って言われたの初めてだ・・・まぁワンピースすすめてるんだから男とは思わないよなと思いながら試着室へ向かった。
「妹ではないです。私の大切な彼女です」
きっぱりと店員さんに返答してその言葉に心臓はドキドキからバクバクに変わって急ぎ足で試着室に入ってしゃがみ込んだ。
「俺の顔真っ赤すぎる・・・藍湛に見られなくて良かった」
選んでもらった白いロングのワンピースを見つめて覚悟を決める、上だけ脱いで着て鏡を見つめて眉を八の字にして「やっぱ似合わないよ」と呟く。
試着室のカーテンを少しだけ開け顔だけ出すと待っている藍湛を目が合った。
「ぜったいに笑うなよ。似合ってないけど笑うなよ」
「早く見せて」
「うっ」
首を傾げて俺を見つめてくる、その顔と仕草に弱い事知っててやってるだろうと心の中で呟きカーテンを開いた、もちろん顔は下に向けながらだ。
「・・・」
お互い沈黙が続くとても長く感じるが1分も経ってはいないだろう。
「藍湛、もういいかな?俺には不釣り合いな・・・・」
下を向いている魏嬰は気づかなかったが藍湛は上から下に視線を流しそして下から上へと視線を戻すとこくりと頷き優しい声色で声をかけた。
「うん。似合ってる、とても可愛いよ魏嬰」
がばっと顔を上げると静かに微笑んでる藍湛が目に入ったんだ、すごい幸せそうな顔してる。
「えっと、本当に?社交辞令とかお世辞ではなくて・・・」
「私が君に嘘をついたことはあるか」
ぶんぶんと顔を横に振って「ない」と答える。
「じゃあ、これにしようかな。着替えるから待ってて」
「分かった」
再びカーテンを閉め着替え終わり選んでくれたワンピースの値付けを確認すると高すぎず安すぎずお手頃な金額でうんうんと流石俺の彼氏だと思った。
「バイト代で余裕で買えるな、後は・・・これに合いそうな靴というかサンダルか」
この後お会計へ向かうため外で待っててと言ったのに何故か俺の手から服を奪いプレゼント用に包んでもらいたいと言い出しだ。
「待てこれは俺の服だから支払いは」
「君に贈りたい」
お会計の人は俺達を交互に見ながらも営業スマイルを崩さずラッピングし始めて藍湛に手渡された。
「お買い上げありがとうございました」
二人で店から出ると魏嬰は鞄から財布を取り出したのだが紙袋をぐいと突き出してきた。
「受け取って」
「・・・ありがとう。大切に着るよ」
紙袋を抱きしめながら上目遣いで見つめながらお礼を言う魏嬰の背に手を回すと
「次はどこに行く?」
「このワンピに合うサンダル見に行きたい」
その夜、家に戻った魏嬰はショッピングモールで遭遇した友人たちのメールを読んで驚愕した。
「嘘だろ・・・彼氏が彼女に服を贈る理由・・・いやいや藍湛に限ってそんな、やましいこと考えるとかないない、絶対にない」
ハンガーにかけられた白いワンピースを見つめ、メールの内容を藍湛と俺で想像してしてしまい自分の頬をバシッと叩いた。
「俺が想像してどうするんだよ」
一方藍家に帰った藍湛は兄とお茶を飲みながら話をしていた。
「ご機嫌だね忘機」
「はい」
藍湛はただ素直に着て欲しいと思って選び渡しただけで服を贈る理由は全く知らなかった、兄も知らないので楽しそうに弟の話を聞いていた。
「次のデートの時に着てくれると良いね忘機」
「はい」