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    NazekaedeG

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    NazekaedeG

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    話を整理していたら、去年書いたハロウィン話の初稿が出てきました。
    今だと「完成版と比較するのもありかな?」と思えるようになったので、こちらに投下します。
    (「アリスがリュカへ行ったこと」からが違います)
    完成版はこちらです→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16280290

    #リュカアリ

    ハロウィン話の初稿その話は、初夏の頃から始まる。
    「今年のハロウィンお菓子大会を、少しアレンジする……?」
    ハロウィンお菓子大会。
    それは、お菓子作りの腕を競う祭りである。
    だが、毎年同じでは詰まらない。だから今年は少しその趣向を変えよう、という話になったそうで。
    シモーヌから渡された、ハロウィンお菓子大会の変更案をアリスは読んでいた。
    「そうだ。元々『ハロウィン』というのは異国の祭りだが、リグバースでやるにあたって今の形に変わったんだ。」
    元々は死者の魂を迎える行事らしい。ハロウィンの由来をシモーヌが説明する。
    「遠い異国だと、夜に子供がモンスターの仮装をして『トリック・オア・トリート』を唱えるんだ。
    これは『お菓子をくれないとイタズラするぞ』という意味でな。お菓子をあげればイタズラを回避出来る、という仕組みだ」
    だから、大人達は前日には菓子を多く焼いて子供達に配るらしい。
    この、『菓子を作る』部分だけが残って、大会になったのが今のリグバース。
    今回は、この「トリック・オア・トリート」を復活させて、仮装とお菓子配りを夜に実施しようというものだ。
    この時に配るお菓子を大会の出品物とすれば、渡すお菓子が無くて困ることもないだろう。いつもよりも多めに作ればいいだけなのだから。
    「折角だから君達も仮装をして祭りに参加して欲しい。その方が華やかになっていいと思うのだが、どうだ?」
    流石に大人は仮装しないけど。年頃の男女であれば、仮装もまた楽しいだろう。
    「えっと、待ってください。
    おさらいですが、夜に皆が仮装をして、昼の大会に出品したお菓子を配る。これで良いですかね?」
    「そうだ。そしてこの時お菓子を渡せない場合、イタズラされるということだ。」
    アリスの復唱にシモーヌが肯定する。それだったら、今までの祭りへの良いアクセントとなるだろう。楽しくなりそうだ、とアリスは頷いた。
    「なるほど、面白そうですね。分かりました、リヴィア署長にその旨お伝えします。」
    「ありがとう。よろしく頼むよ」
    アリスの快諾に機嫌良くシモーヌが帰った後、アリスはイライザの元へ向かう。
    イライザに事のあらましを説明すると、彼女はアリスに呆れたといわんばかりの口調でたしなめた。
    『もう、また新しい仕事なのね。ほんと、何でもすぐに請け負っちゃうんだから』
    「す、すみません…。あの、これはメイキング案件で合ってますか?」
    『ちょっと、分からないのに私のところへ来たの?』
    アリスはこういう時、無鉄砲になる傾向があるようだ。イライザは思わず溜息をついた。(ように感じた。彼女?は呼吸が出来ないのだ。)
    『…まぁ、こういうのもメイキングで大丈夫よ。それに、メイキングすればリヴィア署長の承認も一緒に得られるわ。
    アリスはもう引き受ける気なんでしょう?』
    「はい、そのつもりです。」
    『信頼度も十分。いけるわよ』
    なんだかんだ文句を言いながらも、イライザがOKを出してくれた。アリスはイライザに向かって高らかに宣言した。
    「メイキング、入ります!」

    ***

    夕暮れ時。お菓子の選評は既に終わり、一旦仮装のために解散した面子が集まる時刻。
    アリスが急いでにぎやか広場へ向かうと、既に女子の数人が集まって話に花を咲かせていた。
    「ルドミラさんとスカーレットさん、早いですね」
    今日のアリスの格好は、所謂いわゆる魔女。ユキのところで購入したブルーウィザードの服に追加でいくつかの装飾を施したものだ。持ってる杖も、今日の為にアレンジを加えて制作した逸品である。
    「アリスは魔女なのね〜!可愛いわ♡
    今度、いつもの私の服と並んで歩きたいわねぇ」
    ルドミラがアリスに抱きつくと、真っ先にアリスの格好を褒めてくれる。ストレートな賛辞にちょっと照れ臭くなって頬を掻いてしまう。
    「ルドミラさんはミイラなのですね」
    そんなルドミラは、身体を包帯でぐるぐると巻いていた。自身の衣装の話になってルドミラが妖しく笑う。
    「うふふ、この包帯の下がどうなってるか、見てみたい?アリスにだったら特別に見せちゃうわよ♡」
    「ハ、ハレンチですよ!」
    そう叫ぶスカーレットはゾンビの格好、ということで顔に特殊なメイクを施していた。服はいつもの通りなのが、それが逆にゾンビらしく映えている。
    なんでも、「動き辛いと業務に支障が出ますから、メイクだけで済ませられるものにしたい」ということらしい。スカーレットらしい、と思わず笑ってしまった。
    まだ女子は全員集まってないけど、他はどうなのか。アリスは広場を見渡した。
    「まだ皆揃ってないですね」
    男子がよく集まる場所も見るが、向こうもまだ準備が終わってない者が多いらしく、人がまばらである。
    (まだ、いないなぁ)
    つい。『彼』の姿を探してしまう。
    「リュカさんなら、先程ひなやジュリアンと一緒に大樹の広場にいましたけど」
    「それじゃ暫くこっちにこないコースじゃないの〜。アリス、迎えに行ったら?」
    きっと、彼女はリュカを探している。アリスの視線で瞬時に理解した二人から声がかかる。
    どうして何も言ってないのにリュカを名指しで、とアリスは慌てた。
    「え。あ、あの」
    「大丈夫よ!三人をちゃんとここへ連れてくるために、あなたが迎えに行くってだけなんだから」
    ね?とウィンクするルドミラは、大変に魅力的な笑顔を浮かべていた。
    NOとは言わせない気迫を感じて、アリスはたじたじになりながらも小さく頷いた。
    「じゃ、じゃあ。行ってきますね!」
    二人に(主にルドミラだが)後押しされて、アリスは駆け出す。そんな乙女なアリスの後ろ姿も可愛い♡と頬を緩めるルドミラを、半ば呆れたようにスカーレットが見ていた。

    ***

    果たして、目撃情報の通り。三人は大樹の広場にいた。
    ジュリアンはワーウルフの格好をしている。所々ひなに似せた作りの獣耳は、きっとひなに合わせたかったのだろう。
    ひなの方は天使の仮装だろうか、白いワンピースに天使の輪っかをつけている。みささぎが嬉々として作ったのだろうな、と思わせる出来栄えだった。
    それに相対するリュカは…悪魔、だろうか。彼らしく程よく着崩したタキシードにマント、作り物の翼をつけた格好は彼によく似合っていた。
    (か、格好いいな…)
    リュカに見惚れて動作を停止させたアリスは、三人の動向を見守ることしか出来ていない。
    途中からなので憶測になってしまうが、きっと三人は何かの形で勝負をしており、その決着が今しがた着いたのだろう。二人がリュカにお菓子を強請ねだっていた。
    「トリック・オア・トリート!!」
    「お菓子ちょうだ〜い」
    「はいはい、これで勘弁してくれよ」
    リュカは地面に置いていた鞄から菓子を取り出して、二人に渡す。お菓子を配るには時間が少し早いけど、待ち切れない二人には関係ない話なのだろう。
    「うん、これでゆるしてあげる!」
    「まったく、仕方ないよなー」
    「はいはい。許してくれてありがとな」
    上から目線の二人に苦笑しながら、リュカがぽんぽん、とひなとジュリアンの頭を撫でていた。
    「子供扱いするなよリュカ!」と怒るジュリアンに対して、優しそうにふわっと笑うリュカが対照的で。アリスは無意識の内に『あんな風に頭を撫でて貰えたら、どんな心地なのだろうか』と思いを馳せた。
    (いいなぁ……って、私は何を)
    ジュリアンとひなを羨ましいと、思うなんて。
    浅はかな自分に反省して首を横に振ると、そろそろキリが良いだろうと三人の元へ向かう。
    「皆さん、ここに居たのですね」
    「あ、アリスちゃんだー!」
    アリスの姿を見つけた途端、大喜びでひなは彼女の元へ行こうとする。そんなひなの手首を、がしっとジュリアンが掴む。
    リュカをちらり、と一瞬見てからジュリアンはひなに耳打ちをした。
    「ひな、こっちに行こうぜ。ほら………」
    ごにょごにょ、とジュリアンがひなに何かを囁くと、ひなはこくりと頷く。
    「分かったの。じゃあね、リュカ!アリスちゃん!」
    「じゃーな!リュカ、頑張れよ!」
    最後に謎のエールを送って、ジュリアンとひなは駆け出していった。方向からして、向かったのはにぎわい広場だろう。
    (アイツ、オレをダシにしてひなと二人になりやがったな……。ま、半分はオレの為なんだろうけどよ)
    ジュリアンの作戦(あるいは気遣い)に苦笑しながら、アリスの元へ行く。
    「よ、よう、アリス。」
    気まずそうに片手を上げて、リュカはアリスに挨拶する。ぎくしゃくした空気が感染り、受け答えるアリスも照れた顔になってしまった。
    「はい、リュカさん。こんばんわ。」
    「あーっと、アリスも今宵の宴に参加するのか?」
    「あ、は、はい。そうですね」
    夜の祭りはリュカの本領を発揮する時だ。リュカは生き生きとした表情で、いつもよりも大袈裟な言い回しをしている。
    「リュカさんの仮装、似合いますね。悪魔ですか?」
    「あぁ。今宵の俺は悪魔、人々を堕落させる罪深き存在だ」
    格好良く決めたポーズは、今の格好だと特に様になっていた。
    ふふっとアリスは思わず笑う。
    「アリスは…魔女なのか」
    「はい、そうなんです。手持ちの服からアレンジしやすかったので」
    「なるほどね……」
    いつもと異なるアリスの装いが眩しくて、思わず目が泳ぐ。
    「あーっと、そ、その………に、似合ってるよ」
    「ありがとうございます。リュカさんの格好も、似合ってて素敵ですよ」
    にこりと笑ってアリスが容姿を褒めると、リュカは照れ臭そうに頭を掻いた。
    「それにしても、ひなちゃんとジュリアン、早いですね。もう『トリック・オア・トリート』って言ってましたから、この時間からお菓子を貰って回るんですかね?」
    「あぁ、そうだな。きっとあの二人のことだから、きっと……」

    (待てよ。今だったら、アリスはお菓子を持ってないんじゃないのか…!?)
    お菓子を持ってなければ、大手を振ってイタズラができる。
    イタズラ。それは素晴らしき免罪符である。
    今日は『イタズラだから』を口実に、何をしても許される日だ。そう、何でも。
    ふっと浮かんだよこしまな想いを振り払うことができず、リュカはアリスに菓子を強請ねだることにした。
    「なあ、アリス。皆と合流する前だが、オレも先に貰っていいよな?」
    「リュカさん?」
    きょとん、とアリスが瞬きする。何の話か、発想がまだそこまで至ってないのだろう。
    分かってもらうために、リュカはポーズを決めて告げる。
    「…では、アリスにの言霊を告げよう。『トリック・オア・トリート』と。」
    例の呪文トリック・オア・トリートを聞いて、アリスは「なるほど」と合点がいった顔をした。
    さて、アリスは果たして菓子を持っているかどうか。
    平常心を装って、リュカはアリスの動向を窺う。
    一方のアリスは、夜が近づいて輝くリュカを微笑ましく見ていた。
    (リュカさん、今日は一段と輝いてますね…)
    ただ、リュカがこのような言い方をしている時、誰も相手にしてくれない。かくいう自分も、最初に聞いた時は意味を理解するのに時間がかかってしまい、リュカに申し訳ない思いをさせてしまった。
    リュカの言動に皆が慣れているからかもしれないが、それに寂しそうな顔をしているように見えたことを、ふっと思い出した。
    (そうだ!)
    今日は、この時の為にと練習していた『アレ』を披露する時ではないか。
    幸い、お菓子は持っている。鞄の中からお菓子の包みを取り出して掲げると、真面目な顔を作る。
    「えぇっと…。『汝の言霊、しかと受け取りました。古の盟約に基づき、ここに供物を捧げます。』…こ、こんな感じ、ですか?」
    悪魔と魔女は、古来より主従関係に当たる。
    『魔女』のアリスが『悪魔』のリュカに向かって、いつも彼が使用する言語に合わせた言葉を、一生懸命に唱えて契約を交わしている。
    事前に頑張って覚えてきたと思われるそれは、ところどころ様になってない。そんな様相もご愛嬌なその姿は、一言で表すと。可愛い。
    自分に合わせて頑張ってくれたのであろう、というところまで含めて、可愛い。
    思わず顔を覆って顔の赤みを隠そうと必死になる。
    「う、ぐ……」
    あぁ、可愛い。
    その一言で頭が占拠されてしまったリュカは、咄嗟に動けずにいた。
    「え、あ、あの、間違ってましたか……?」
    反応が無いリュカを目の前にして、自信なさげに瞳を揺らしたアリスが尋ねてきた。
    「え、あ、い、いや、合ってる!」
    感動を噛み締めていたら、アリスに泣きそうな顔をさせてしまった。慌てて勢いよく頷く。
    「良かったぁ…!はい、これ食べてください。」
    小さな包みをリュカに渡す。今日のためにと焼いたお菓子は、かぼちゃを練り込んだパウンドケーキだろう。
    今日のハロウィンお菓子大会で優勝した、アリスのとっておきレシピ。ふわふわのスポンジが遠目から見ても美味しそうに見えたお菓子だ。
    (イタズラ出来なかったのは残念だが、めちゃくちゃ良いものが聴けたから良しとするか…!)
    お菓子の包みを受け取り、リュカは顔がにやけそうになるのを気合で揉み消した。
    「あ、ありがとな」
    「後で食べてくださいね。では、今度は私の番です。『トリック・オア・トリート』です。」
    「リュカがもう言ってしまうなら自分も」、ということで紡がれた言葉にリュカは頷くと。アリスと交わした約束を果たすために、鞄をがさごそと漁る。
    目的の菓子に手を伸ばそうとした時、電流が走った。
    (…………待てよ?)

    ――ここで菓子が無いって言ったら、アリスは何をしてくれるんだ?

    さっきは自分が出来なかった『イタズラ』。アリスはもしもイタズラできるとしたら、自分にどんなことをしてくるんだろうか。
    天啓が降りた、と思わず膝を打ちたくなる閃きに笑いそうになる。それをぐっと堪えて、今一度アリスに仕掛けることにした。
    あ、と問題を思い出した顔を作って、リュカはまず謝った。
    「っと、そうだった……。
    すまないな、大会の菓子を取りに戻ろうとした時にあの二人に捕まったんだった。なのでオレは、あんたに捧げる供物――菓子を、今は所持していない。」
    そう言うと、ひらひらと両手を振る。「先程ひなとジュリアンに渡したお菓子は、大会に出品した味見用の残りだったんだ」と説明すれば、アリスは納得したように頷いてくれた。純真な彼女は、きっとこの嘘に気付くことはないだろう。
    結果として、リュカは菓子トリートを持ってないということになった。そう、つまり。
    「供物無き今、オマエのいかなる所業も甘んじて受け入れるとしよう。アリスは何を所望する?」
    『イタズラして構わない』ということを暗に告げる。
    (さぁ…、アリスはどう出る?)
    リュカから試されていることなど露知らず、アリスは慌てる。
    (リュ、リュカさんへ…イタズラ!?)
    アリスはイタズラなんて考えてなかった。半ばパニックになりながら、何を要求するのが一番なのか考える。
    何かする……頬をつつく?髪を結ぶ??
    思い付くのは色々あるけど、どれも今ひとつ面白みに欠ける。
    でもきっと、こういう場面では普段は出来ないことを思い切ってやってしまうのが良いだろう。
    「イタズラだから」。その言葉で誤魔化せるから。
    (本当は……やってもらいたい、が正しいけど。)
    イタズラは仕掛けるものであって、お願いを叶えてもらうものではない。だけどきっと、自分で実行すれば、やって貰った気になって満足する…はず。
    それを実施するには手が届かない。
    アリスは顔を赤らめながら、勇気を振り絞ってお願いする。
    「で、では……。リュカさん、か、屈んでください!」
    「こ、こうか?」
    そう言うと、リュカはアリスの足元に跪いた。そのまま見上げたリュカと目が合うと、鈍色の瞳に吸い込まれそうになってどきりとする。
    平常心を装ってアリスはリュカに手を伸ばした。
    「ふふ、ありがとうございます」
    そしてそのまま、そっと頭を優しく撫でる。
    銀色の髪が、手の動きに合わせてさらりと揺れた。
    「リュカさんの髪、綺麗ですね。」
    頭を撫でられるのは幼少期以来だろうか。温かくて、なんとなく擽ったい気持ちで満ちていく。
    「なぁ…。イタズラって、まさか」
    これ、か?
    これはなんというか、自分が気持ち良くなって終わりなのだが。
    折角のイタズラというチャンスも、彼女にとっては「人に施す」機会になってしまうのか?
    アリスがイタズラという体裁で選び取る我儘が見たかったのに。どうにも腑に落ちない気持ちで尋ねた。
    「えぇ、さっきのリュカさんを見てたら気になって。頭を撫でるのって気持ち良いんですね」
    『さっきの』と言われて、ジュリアンとひなとのやりとりを思い出した。あれか、あれを見られたのか。なんとなく恥ずかしい気持ちになる。
    しかし、「自分を見て気になった」とアリスは言っていた。
    なんというか、それは。
    (もしかしたら…それってもしかしたら『アリスがやって貰いたい』ことだったりしないのか?)
    それは…ありえる、かもしれない。
    それなのに、コイツはいつも人に与えるだけ。貰うことなんてちっとも考えてない。
    きっと、アリスは人に期待をしてないのだろう。自分は対価を受け取る価値のない人間なんだと思い込んで。それがなんとなく透けて見えて、むしゃくしゃとした、やるせない気持ちが湧いた。
    「じゃあオレもやってやろうか?」
    「えっ!?い、いえいえ、そんな大丈夫ですよ」
    貼り付けた笑顔のまま、柔らかく断られる。アイツのいつもの悪癖だ。このままだと、アリスにするりと逃げられてしまうように思えた。
    (狙った獲物は――逃さない)
    一歩踏み込んで。手が届く範囲までくると、逃げられないようにアリスの腕を掴んだ。
    そしてそのまま空いているもう片方の手で、ぽんぽんと軽く頭を撫でる。いつも子供をあやす時と同じやり方だ。
    「……どうだ?」
    力加減は問題ないだろうか、とアリスをちらりと見やると。
    アリスが、ふにゃ、と蕩けた表情で笑っていた。
    いつも根を詰めて仕事をしている、愛想笑いが多い彼女。そんなアリスの、気の抜けた笑顔。
    こいつは、こんな笑い方も出来るのか。
    「――っ」
    なんという破壊力。
    一気に頭が真っ白になったリュカは、一度掴んだ腕を離すとそのままアリスの肩を引き寄せた。
    「ひゃっ、リュカさん…!?」
    アリスが驚愕の声をあげるが、回した彼の腕の中から漏れ出ることはなかった。
    お互いの顔が見えないことをいい事に、リュカは更に頭を優しく撫でる。張り詰めた糸を切ってしまわないように、彼女を壊さないように。
    (いつも無茶ばかりするからな、アリスは)
    ねぎらいの言葉も報酬も、笑顔で謹んで辞退する彼女だから。これくらいの甘やかしはあった方がいいだろうに。
    (……触り心地いいな)
    さらさらとした金色の髪は、良く手入れされているように感じた。
    アリスはびしりと固まって動かない。いや、動けない。
    だから、ともすると『抱き締める』と言われてしまうこの体勢は崩されることなく、暫くそのまま継続されることとなった。
    (えええっと、わ、私、リュカさんに抱き締められて頭撫でられてる…!!?)
    視界がリュカの衣装で埋め尽くされたアリスは、想定外の事態に情報の処理が追い付かなくなっていた。だけど、思うことは唯一つ。
    (このままで居られたらいいのに)
    優しく頭を撫でて貰えると、奥底に眠る何かが溶けて消えていくような気がして。肩にのしかかっていた重荷が軽くなるような、そんな錯覚に縋りたくなった。

    しばらく、そうしていただろうか。

    はっ、とリュカが我に返った時。腕の中のアリスは落ち葉に負けない位、真っ赤になっていた。
    しまった、思わず手を出してしまった。慌てて身体を引き離すと即座に謝った。
    「わわ、悪い!!」
    「い、いえ、お願いを聞いてくれてありがとうございます…!」
    まだ赤みが引かない顔をふるふると振るうと、にこっと笑って頭を下げた。
    少々強引だったのに、さっきの行為は余程嬉しかったのだろう。アリスは時々緩い笑みが零れ落ちそうになるのを、必死に引き締め直そうとしていた。
    (な、なんだこれ…。オレは頭撫でただけだよな?)
    たったそれだけでこんな可愛い仕草をするなんて、知らなかった。
    今日はアリスの知らない顔をよく見る。これも、仮装のせいだろうか?
    「わ、わたし、広場に戻りますね!リュカさんは一緒にいきますか?」
    つい声が上擦ってしまうようだ。平常心をなんとか取り戻そうと、アリスは努めて明るく振る舞う。
    「い、いや、まずは一度戻って菓子を取ってくる」
    「分かりました、では皆に伝えますね。それでは、また後で!」
    アリスはそう叫ぶと、駆け足でにぎやか広場、引いては女子の元へと戻る。
    アリスの姿が遠ざかると、リュカはへなへなとその場にしゃがみ込んだ。
    こんな顔、恥ずかしくて誰にも見られたくない。思わず手で顔を覆ってしまう。
    「はぁ……。まったく、確かにこれが一番のイタズラだな、本当に…」
    煩く跳ねる心臓は、まだ落ち着かなかった。

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