「おはよ〜。お、いいにおい」
「お早くありませんよ、モクマさん。これ以上寝ていたら起こしに行くところでした。お休みとはいえ少しばかり気を抜きすぎではないですか?」
「ごめんごめん。新しいベッドの寝心地がいいのなんのでつい二度寝三度寝をね〜」
「まったく。もしあなたがお休みになっている間に私がどこぞの輩に襲われでもしたらどうするおつもりです?」
「その時はどんな爆睡してても起きるから大丈夫。ちゃんと悲鳴あげてね」
「下衆ですねェ…まあ、ここの防犯は完璧ですからそういった心配は必要ないのですが……」
「だよね。チェズレイ印のセーフハウスだもん。ここでは守り手さんもお役御免ってコトで」
「全く調子のいい……、と、焼けましたね」
「ん? そこに見えるは……ホットサンドだね! やったー、おじさん大好き」
「ええ。昨日エリントンを発つ前に、ボスから食パンをいただいてしまったもので。二斤あるので消費せねばと……ですが二人分ホットサンドを作っても、ほら、まだあんなに残って」
「本当だ。モリモリ食べないとね。……っていうか、そのパン、ちょっと紫がかってない?」
「ええ。ですがまだ秘密がありまして。こうやって焼くと……」
「! もっと紫が濃くなってる!」
「不思議ですよねェ。新商品らしいですよ」
「へえ。綺麗だねえ、チェズレイの目とジャケットとおんなじ色だ。ルークもいいセンスしてるねえ」
「本当に。どこぞのニンジャさんにも見習っていただきたいものですが……、さて、切りますからテーブルへ」
「はーい。コーヒーまで淹れてあるね、ありがと。明日は俺がやるよ。カフェオレでいい?」
「ええ」
「いただきまーす」
「……いただきます」
「やー本当に綺麗な紫だ。食べるのが勿体ない……ん?」
「どうかなさいましたか?」
「いや、これ、中の具は……」
「ああ、キャベツとチキンとコーンのコールスロー、それにエッグサラダ、仕上げにシュレッドのチェダーチーズを乗せていますが……お嫌いなものがありましたか?」
「や、そうじゃないんだが……」
「……では、他に何か?」
「お前さん、いつも言ってなかった? 『ホットサンドは中に入った具材が織りなす断面の美しさこそ命……! 色のコントラストと栄養バランス、そして味、それら全てを満たさねばならない芸術品なのです……』とかなんとか……」
「……似てないモノマネはおやめいただけますか?」
「あっハイ、すいません……」
「つまりモクマさんは今日のホットサンドの出来に文句がお有りだと」
「いやいや違う違う!! 美味しそうだし!! そうじゃなくて、お前は美学を大事にするだろう? それを覆してるってことは何かあったんじゃないかって心配になっちゃって……」
「何かあった、とは?」
「……昨日無理させすぎて本当はめちゃくちゃダルいとか……」
「フフ……あなたと違って私は若いのでそこは問題ありません」
「さいですか……、……じゃあ、これは? 気まぐれかい?」
「いいえ。……モクマさん」
「うん?」
「実はその指摘はそう的外れではないのですよ。
いつもはカラフルな断面……ですが今日は、わずかなグラデーションこそあれ一色に集約されていますよね。さて、何色ですか?」
「え。そうだなあ……卵だし、コーンだし……黄色かな?」
「ご名答」
「お、当たった!
……え、で?」
「で? とは?」
「いやいや黄色なのはわかったけど、っていうか最初からわかってたけど、だから?」
「おや、勘の悪いひとだ。先程、他ならぬあなたがほとんど答えを口にしていたでしょうに」
「え?」
「私はなぜ今日、だるい腰を宥めながらホットサンドを作っていたのでしょうか?」
「え、やっぱダルいんじゃ……、って、それは後か。えーと、ルークにパンをもらったから、だよね?」
「ええ。そしてそのパンは焼くと紫色になるものだった」
「うん。……うん?」
「……まだおわかりになりませんか? ミカグラ島でのボスの珍回答もなかなか趣深いものがありましたが、人のことを言えませんよ、モクマさん」
「や〜ゴメンゴメン、最近は頭使うの全部賢い相棒にお任せしてたから鈍っちゃったかも?」
「……そうですね、少しばかり甘やかしすぎていたかもしれません。ここらで一つ、頭をすっきりさせてあげましょうか。ド……」
「わー待った待った!! 考えます!!
えーと、パンが、紫で……中身が黄色で……、それに意味がある……? で、俺がほとんど答えを口に……」
『へえ。綺麗だねえ、チェズレイの目とジャケットとおんなじ色だ』
「! あ、まさか黄色って、おじさんの羽織りの色!?」
「……ようやくお気づきになられましたか」
「な〜るほど……」