「どうもーー!OSOくんでぇっす!」
壇上から見える生徒の顔は驚きと戸惑いが入り交じり、まさしく度肝を抜いた状態であった。
どよめく声。厳かであった式とは打ってかわり、涙を浮かべていたある女生徒は目を丸くさせ口をポカリとあけていた。
呆気にとられていた観衆が、徐々に歓喜に変わっていく様を見るのは悪くない。サプライズが大好きなメンバーは顔を見合せ悪戯に成功した幼子のようなしたり顔で口の端を吊り上げる。
その中でも一番の悪童、osoがお馴染みの拡声器型のマイクを手に取り高らかに声をあげ、生徒たちを煽る。
「お前ら高校最後に盛り上がれよ~~!」
ワッと地鳴りのように声が上がる。沸き上がる歓声に負けじとこちらにも熱がはいった。
壇上からは興奮と歓喜に酔う様がよく見えた。
黒の詰襟と紺色のセーラー服の生徒たち。ピシリとしたスーツ姿の教師と保護者。
架羅の瞳が一番端の目立たない場所に立つ一人の教師を捉えた。
「せん、せい」
口から漏れていた言葉は演奏にかき消えた。音を紡いでいた指が一瞬止まりかけ、慌てて音を追いかける。動揺のはしった指先はすぐに安定したものの完璧主義のJadeと神経質な壱がジロリと冷たい目線を送るのがわかって背筋が凍る。何やってんだと。
(あとで、絶対、ドヤされるだろうなぁ)
だがそんなことはどうだって良かった。それよりもこの千載一遇のチャンスをどうしたらいいかで頭が一杯になる。
先生。先生。松野、先生。オレ、大人になったよ。
猫背の立ち姿。気だるげな瞳。8年ぶりに見る初恋の人の姿は、褪せることなく輝きを保って松野カラ松の前に現れた。