思へどもなほぞあやしきあふことの なかりし昔いかで経つらむ 温家に仕える為、江厭離を都に送れ。
この国を治める温氏からの通達だった。期間は三年。この通達を受ける名家は喜ぶ者が多かった。温若寒に気に入ってもらえれば入内する事ができ、一族の繁栄に繋がるからだ。
しかし、厭離は違った。幼少期より親同士が婚約の約束をしていた金子軒を想っている。最初は想いが届かず、遠くから眺めるだけだったが、最近想いが通じ合い、もう少ししたら正式な婚姻を結ぼうと話したばかりだった。
そして、温家は両親に罪を着せ、殺した仇でもある。滅亡は免れたものの、要求を拒否すれば今度こそ無事では済まないだろう。
「子軒様。私は怖いのです。貴方が他の人の元に行ってしまったら耐えられない……」
「阿離。私はずっと、いつまでも君のことを待っているよ」
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