Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ooomen666

    @ooomen666

    @ooomen666

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    ooomen666

    ☆quiet follow

    57festa2用に書いたものです。
    はらほん五が夢で見た金髪の男を追い求める話。
    夢十夜のオマージュ的な何かです。

    #五七
    Gonana

    夢七夜 こんな夢を見た。
     テレビの収録を何本もこなしたあと家に帰って、疲れ果ててベッドに倒れ込むように眠りに落ちると、隣に知らない男が横たわってる。男は淡い金色の髪をしていて、服を着ていなくて、うっすらと肌に汗を浮かべて、僕の傍らですこやかに寝息を立てていた。
     僕は、その横顔をうっとり眺めている。どうやら夢の中の僕は、男と肉体関係を持っていて、ずいぶん深い仲みたいだった。いや、ずいぶんとかじゃない。それはもう、彼がいないと夜も日もあけない、というくらいに僕は彼を溺愛していた。その綺麗な容姿も少し鼻にかかった甘えたみたいな声もクールでそっけない態度をとるくせに中身はめちゃくちゃ情熱的なそのアンバランスなところもぜんぶ、大好きだった。
     だけどいつも夢中なのは僕の方ばかりで、彼は僕ほどこの関係に拘ってないような気がして、夢の中で僕はそれが悔しくてよりいっそう彼に執着している。
     夢の中での僕は、五条悟は、僕のようで僕ではない。
     銀色の髪と蒼い眼、髪型も体つきも今の僕と似たような感じだけれど、なんていうか雰囲気が少し違っている。夢の中の僕はなぜかすごく必死で、どこか切羽詰まっていて、テレビや映画のメディアの仕事をしている軽々しい僕ではない。いや、表面的に軽薄で調子が良いのは同じで(自分で言うのもどうかと思うけど)、一皮剥くとひどく獰猛なものが剥き出しになるというか、だいぶ鬼気迫るものがそこにはある。気がする。
     何より夢の中の僕は、なぜか目元に黒くてぴったりと張り付くアイマスクをしているし、そしてひどく重大な仕事……じゃないな。任務? いや使命? なんかそんな感じの大仰なものを背負っている。それは、傍の彼も同様に。
     
     目が覚めてからの僕は、スタジオで撮影していても、雑誌のインタビューに答えていても、いつもその、夢の男が脳裏を掠めていく。カメラの前で調子よく喋りながら、ぼんやりとあの艶やかな金髪や、淡く上気した白い肌や、しっかりと鍛えられて均整の取れた美しい体躯に触れていたいと、日がなそんな中学生みたいなことばかり考えてしまう。
     そして一日が終わり、眠りに落ちると、彼がやってくる。
     彼は僕をみとめると、身体を絡め取って頬を寄せ、唇を吸う。彼の体躯はどこもしなやかで、まるで生まれる前からそうだったみたいに僕にぴったりと寄り添う。
     それから、僕が大好きなその身体で僕の上に乗り、艶やかな肢体を見せつけながら享楽の限りを尽くして僕をすごくよくしてくれる。
     僕は夜の間じゅう、彼の裸をまさぐって、舐め回して、強く噛んで、しっかりと味わう。僕らは上下に被さり、互いの身体を必死に探索し、何度も達して精を吐き出し続ける。彼と身体を重ねるたびに、いつも何か、すごく大事なことを思い出しそうになるのだけれど、そうするうちに、どちらからともなく疲れ果てて眠ってしまい、気がつくと朝になっている——。
     とにかくこの僕、五条悟は、夢の中の五条悟と同じように、夜ごと逢瀬を重ねていくたびにすっかり彼の虜になってしまった。毎夜、眠りに落ちるのが待ち遠しくて仕方がなかった。
     しかしある夜。
    「もう消えます」
     男は静かな声でそんなことを言った。
    「どういうこと」
     僕らはいつも通り夢中でセックスしたあとで、彼は全身にしっとりと汗をかいていた。骨張った筋肉質の体躯は美しくて、涼しげな目鼻はしっかりと輪郭を結び、とうてい消えそうには見えない。でも。
    「もう消えます」
     再び静かに言って、男は唇を結んだ。
    「どうして」
    「もう消えるんですから、仕方がありません」
     と、妙にきっぱりと続けた。
    「消えたら、探してくれますか」
    「探す? 何を」
    「私を。私の記憶を。アナタの眼なら可能でしょう」
     記憶、と繰り返す。
    「この世の全てに記憶はあります。もちろん、私にも。肉体がなくなっても、時間が経っても、残穢と一緒にどこかに残っていますから」
    「待って、ざんえってなに?」
     初めて聞く言葉ばかりで、僕は理解が追いつかない。
    「それから花を、植えてくれませんか。綺麗なのを、たくさん」
    「花? オマエ花なんか好きだったっけ?」
    「ええ。好きですよ。大きい絢爛なのも、小さくて可憐なのも」
    「そうなんだ」
    「長い付き合いでも、知らないことも多いですね」
     男は笑う。そうか僕らは長い付き合いなのか、と不思議に思う。
    「アナタ、花に似ているでしょう。大輪の、花弁が大きい、一輪あるだけでその場のすべてを攫っていくような傲慢な花です」
    「えー、なにそれ?」
     彼は僕のことをなぜか、ひどく不遜で怖いもの知らずみたいな扱いをする。そんなこと、全然ないと思うけど。
     彼は僕をみつめて目を細めると、おかしそうに笑った。
    「だから花が好きになりました。綺麗で気高くてそう簡単に手折られない花です」
     と囁いて、男は僕の頬を撫でる。
    「そうかな? オマエがそう言うなら、悪い気はしないけど」
    「ええ」
    「わかったよ。いっぱい植える」
     花なんか育てたことはない。でも彼がそう言うのだから、やらなくてはならない。僕は覚悟を決める。
    「きっとですよ。そうしたらまた、アナタに逢いにきますから」
    「いつ、逢いに来てくれるの」
     僕は心細くなって恨めしいことを言う。すっかり夢中になってしまったというのに、いまさら彼がいなくなってしまったら、どうしていいのか解らなかった。一緒にさんざん楽しんだくせに、僕に何の未練もなさそうな様子の男が少し憎らしかった。
    「日が出るでしょう、それから日が沈むでしょう、それからまた出るでしょう、そしてまた沈むでしょう。アナタ、待っていられますか」
     随分と気の長いことだ。しかし好いた男がそう言うのなら、いくらでも待とうと僕は思う。僕はしっかりと頷いた。
    「待てるよ」
    「きっと、逢いに来ますから」
     男は見たこともない優しい表情で僕に微笑むと、しっかりと目を閉じて、横になった。
    「待って」
     僕は彼の名を呼び、呼び止めようとする。
     けれど、喉の奥でくぐもったように、そこで言葉が詰まる。僕は彼の名前を知らない。
    「……待ってよ」
     僕はそこではっと目を覚ます。
     緩慢に起きあがると、顔中が涙で濡れそぼっていた。

         ★

     体験したことのない記憶と、した覚えのない夢の中だけでの約束が、それ以来ずっと僕に付き纏った。
     とにかく、僕は言われるままに花を植えることにした。
     けど、都会のマンション住まいなのでそう上手くはいかない。最初は小さなミニバラの鉢植えを買って、窓辺に置いた。花屋に置いてある中で一番可愛かったオレンジ色のやつを買ったんだけど、一通り花が咲いたら葉を落として枯れかけてしまった。
    「え、待って、花って水だけやってりゃいいんじゃないの?」
     僕はあわてて薔薇の育て方を調べて、水やりの他に剪定や肥料や虫や病気を予防するような細かな手入れが必要なのだと知った。
     花、綺麗だけどけっこう面倒くさいな? いやでもこの周到な面倒さが少し癖のあるあの男を思い出させる気もして、僕は少し可笑しくなる。
     しばらくして鉢がいつのまにか二つ三つと増えていったので、思いきって広いバルコニーがある、日当たりの良い部屋に引っ越した。
     不思議なもので、花が増えるたびに僕はなんだか調子が良くなった。顔だけの若手みたいな扱いだったのが、ドラマや映画の良い役が増えてギャラもばんばん上がり、いつの間にかすっかり実力派みたいな扱いになっていた。
    「ほら、きちんと手順を踏んで正しく努力すれば、大体のことは上手くいくんですよ」
     と、彼が涼しい顔で言っている気がした。
     確かに端から見れば順調にキャリアを積んでいる順風満帆の人生に見えるだろう。
     でも僕は全然満たされてなかった。
     だって、彼がいない。

     そして僕はまた、夢を見る。
     全身黒い服を着て、アイマスクをした僕が、思い詰めたような顔で渋谷を徘徊している。
     夜な夜な当て所なく出かけていく僕の様子を見て、医師のような格好をした咥え煙草の女性が、憐れんだ表情で言う。
    「もうよせ、五条」
    「なんで」
     咎められた僕は不服だ。
    「何をするつもりなんだ」 
    「昔の術師は塵と血を焚いて魂を戻したらしいじゃん。反魂香とかの文献も多く残ってる。それこそ僕のご先祖さまあたりが試してたんじゃないかな」
     思ってもない言葉が、僕の口からどんどん出てくる。ジュツシ? ハンゴン? なんだそれ。
     女性は腕を組んだまま、大きく煙を吐き出した。
    「私が思うに、それは反転術式の一種だろうが、とうてい成功したとは思えんな」
    「でも、試すのは僕だよ?」
     僕は自信たっぷりに答える。
    「この五条悟だよ。時間がどれだけかかっても、成功させてみせる。絶対に」
     女性はこれ以上ないくらい呆れた風に、長い溜息をついた。
    「今どきそんな馬鹿なことを試すやつはいない」
    「僕は馬鹿なんだよ」
    「大分前から知ってる」

     夢の中で、砂浜に落ちた砂金を探すように、僕は渋谷を徘徊した。
     彼の残穢、というものは其処此処にあって、僕の眼はなぜかそれを探し当てることができた。風化して粉々になった石の欠片、落葉し朽ちていく葉、風に吹かれて舞い上がった砂塵、変色し土に還る花弁。
     僕はそれらをハンカチで包んで大事にだいじに抱えて帰る。すると手と胸のあたりが、身体の奥にある骨が、じんわりと暖かくなるのがわかった。
    「今生じゃなくたっていい。もう一度会えるなら、なんだってする。僕の力の全てを、それに使ったっていいんだ」
     そして僕は札のようなものが張り巡らされた禍々しい部屋に入り、塵芥にしか見えないそれら破片を並べる。すると、その塵芥はまるで星の欠片のようにきらりと光った。
     僕はひとり、何度も何度も腕を切り、その破片に自らの血を分けている。
     それをずっと続けている。何年も、ひょっとしたら何十年も。他に誰もいなくなってからも、たった一人で。ずっと、ずっと。

        ★

     僕はまた、目が覚める。
     その頃には、夢の中の登場人物はいずれもすでにこの世の者ではなく、かつてあった生死の記憶だと、僕はなんとなく察しがついていた。
     どうやら、記憶が引き継がれているのでは、と気付いたのもその頃だ。
     今の僕はただの一般人だけど、夢の中の僕はなにか不思議な力を持っていたようなので、某かの記憶が引き継がれたとしてもおかしくはない。
     とにかく僕は変わらず花を植え続けた。
     少し歳をとった僕は、ありがたいことにだいぶ仕事を選べるようになって、ちょっとした資産みたいなものまでできていた。もう若い頃みたいに仕事を何件も入れられて、タクシーに押し込まれて都内のスタジオを回ったりしなくてよくなったので、郊外に大きな庭のある一軒家を買った。
     今まで連れてきた鉢植えを庭に移し、新しい花もたくさん植えた。
     少し褪せたような白や淡い黄色の、背が高くて、立ち姿が美しい大輪の薔薇が好みだった。
     パスカリ、ソリドール、エリナ、アイスバーグ、アシュラム……選んでから、なんとなく、彼に似合う花ばかり選んでいるな、と気が付いた。
     背の高い美しい大輪の花々に囲まれて過ごしていると、まるで彼が傍らにいて、そっと僕に寄り添ってくれているような穏やかさを感じた。

     東から大きな赤い日が出て、花に水をやり、剪定し、寒さや虫に負けないよう手入れをして、そして西に落ちていく。一日が終わる。
     しばらくすると、また紅の日がのそりと昇ってくる。そうして黙って沈んでいく。
     こうやって花を慈しみ、日々を過ごしていくうちに、僕はいくつ日を見たかわからなくなっていた。数えてもかぞえても、数え切れないほどの日が過ぎていったような気がするけれど、それでもまだ、彼の云う日は来ないのだろうか。
     ひょっとして、僕は騙されたのかも知れないな、と薔薇のずっしりとした花を剪定しながら、そう思った。
     そもそも、もうずいぶんと年月が経ち、あの夢も本当に視たものだったのか、それとも僕の幻想だったのか、もはやよくわからない。

     僕はいつも通り、日が昇ると鋏を持って薔薇の群れの中に立ち、彼らを慈しむ。
     すると、見事な枝振りの白い薔薇の中に、ひときわ立派で美しい青い茎が屹立して、こちらに向かって伸びているのが見えた。
     すらりとした茎の先に蕾が揺れて、しなやかに枝を伸ばし、その先に大きな美しい花弁が、ふわりと開いた、ような気がした。
     そこへ、朝露がぽたりと落ちて、その頂が微かに揺らぎ、骨にこたえるほど甘い香りが立ち上った。
     僕は思わず手を伸ばし、その花弁に鼻先を寄せる。
    「……七海?」
     思うより先に、自然と口から溢れ出た。
     僕は初めて、たったひとつの、その花の名を呼んだ。
     そうだ、七海。その瞬間に、僕は全ての記憶を思い出す。
     七海を失った僕は、その人生をかけて彼を蘇らせる呪いを仕込んだのだった。樹木と花の力をかりながら、彼を取り戻すために、僕の人生が終わってからも続く仕掛けを、百年続く呪いを。
    「——五条さん」
     ふいに声が聞こえた。
     少し掠れた、鼻に掛かった甘ったれたみたいな声だ。
     僕は顔を上げる。
     その途端、周囲の一切が鮮やかに色をつけ、はっきりと輪郭を結んだ。
     薔薇の中に、どの花よりも鮮やかで美しい男がひとり、佇んでいた。
    「七海、七海……!」
     僕は大きく手を広げ、その身体をかき寄せる。
     夢の中で何度も何度もなぞったその輪郭を、僕はしっかりと抱きしめる。
    「……アナタ、待っていてくれましたね」
    「うん、僕頑張ったよ、ちゃんとできた?」
    「ええ、だから逢いに来ましたよ」
     七海はほんとうに優しい笑顔を見せて、かすれた囁き声で僕に応えた。手を伸ばして、僕の涙をそっとぬぐって、それから、慈しむように、年を取って枯れた僕の頬を撫でた。
    「七海、七海、ななみ……」
     僕は確かめるように何度もその名前を呼ぶ。
     気高くて綺麗でもう二度と手折らせない、僕のたった一輪の花の名を。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏💖💖💖💖🙏🙏💖🍞🍞👏😭👏😭💕💕😭💒👏😭😭😭😭😭😭👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏😭😭😭😭😭😭😭👏👏👏👏👏😭😭👏👏💕😭💕💘😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works