お薬(君がもらったもの) ギノが風邪をひいた。熱はそれほどないが、身体がだるく頭もぼうっとするという。彼がそんな理由で仕事を休むのは珍しいことだったので、上司である花城は「あなた、早く行ってやりなさいよ」と勝手に俺の休暇を申請して、行動課のオフィスから送り出した。そして「風邪が移ることも考慮して三日ほど休みにしとくわ」と扉越しに笑った。俺は自分の時との差に愕然としながらも、ぼんやりと官舎に続く廊下を歩いた。するとどこで何を聞きつけたのか、俺の知らない顔をした男女が「宜野座さんにゆっくりなさるようお伝えください」だの何だの、りんごやオレンジ、ミネラルウォーターやレトルト食品などを俺に押し付けて去っていった。というわけで、俺が官舎のギノの部屋に入る頃には両手がものでいっぱいだったのだが、これは一体、どういうことなんだろう。財宝でも手に入れたみたいだ。もっとも、それは俺のものではないのだが。
「ギノ、大丈夫か? 入るぞ」
軽く言って、俺はギノの部屋に入る。ここまでで抱えていたものはキッチンに置いて、ミネラルウォーターを二本冷蔵庫から取り出して、ベッドルームに向かう。するとそこには布団に埋もれた、顔を赤くしたギノの姿があった。部屋は薄暗かったけれど、廊下からの明かりで分かる。俺は電気を付けないままベッド脇の椅子に座って、彼の額を撫でた。ギノは苦しそうに息をしていたけれど、それでも俺の気配に気づいたのか、瞬きをして「狡噛か」と言った。
「狡噛だ。見舞いに来た。ここに来るまでたくさんのものを、たくさんの人からもらったよ。りんごにオレンジ、ジュースだろ、レトルト食品に、甘いゼリー。お前って知らないうちにあんなに知り合いを作ってたんだな。俺とは大きな違いだ」
そう言うと、ギノは笑って「お前の尻拭いをして回ったら知り合いが出来てたんだよ」と笑った。俺はそんなギノにキスをして、彼が眠るのを待った。
彼が知り合いを作ることは、俺にとってとても良いことだった。一人だった彼が変わることは、とてもいいことだった。そして彼らがくれたものたちは、ギノの熱を下げる薬よりもいい薬なのだ。俺は、自分の恋人が愛されていることに、口元を緩ませずにはいられなかった。