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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    雨の中仕事をする狡噛さんのお話。
    800文字チャレンジ59日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    雨垂れ(手のひらの中の勲章) 梅雨に入ってからというもの、出島はずっと雨だ。空から降り注ぐ水滴はアスファルトを流れ、排水溝を目指す。俺はその水の流れを避けながら歩き、仕事場である行動課のオフィスへ向かった。オフィスにはもう花城も須郷も、ギノも揃っていて、皆熱心にコンピュータのディスプレイに向かっていた。俺は叱られるかと縮こまりながら時計を見るが、まだ九時までは五分以上ある。皆熱心すぎるほど熱心に仕事にあたっている。
     俺は行動課のオフィスの窓を見る。そこには雨が叩きつけられていて、風景はひどく滲んでいた。そんな中で仕事をするのは不思議な感覚だった。エアコンが除湿になり辺りはカラッとしているのに、目の前に広がるのは海のような水たまりだった。
    「それじゃあ今日の仕事だけど、昨日の続きから初めてちょうだい。他の課とも連携してね。ただでさえ私たちは独断専行してるって文句をつけられがちなんだもの」
     それは課長がそうさせているのだろうとは思っても言わない。でもそれでうまく行っているのだからいいじゃないか。俺は心の内で反省して、昨日の事件を洗い直した。梅雨の時期に現れる殺人鬼。被害者は男女の偏りも年齢の偏りもなくバラバラ、共通するのはナイフで滅多刺しにされていること。さぁ、プロファイリングの時間だ。今日は地理的なものも含めてみよう、俺に期待されているのはきっとそれだから。
     
     殺人鬼が捕まったのは、全くの偶然だった。詳細は省くが、俺のプロファイリングが役に立ったことは確かで、花城によれば上層部から勲章がもらえるそうだ。そんなものつけるところなんてないというのに、報酬ではなく名誉が贈られる。
    「よくやったな」
     勲章の贈呈式が終わり、まだ続く雨の中ぼんやりと空を見ていると、ギノが話しかけて来た。そういえば、彼は名誉を何よりも重んじる男だった。俺とは少し違う。
    「こんなもの貰ってもな」
     手のひらの上で勲章を転がす。しかしギノはそれを制して、星型のエンブレムを空にかざした。俺はそれをぼんやりと見て、仕事なんて花城との契約でしかないのに、そこに意味を見出している自分がいるのに気づいておかしかった。普段ならこの雨の中でギノをからかって愛しているとでも言うのに、そんな気分にはなれない。自分が変わってしまったことが少し恐ろしかった。
    「公安局時代から勲章をもらいすぎて頭がおかしくなったか? 俺はお前が認めてもらえて嬉しいよ」
     ギノはそう言って俺に勲章を返した。それは少し暖かくなっていて、俺はしみじみと眺めた。
    「日本に帰ってきたお前が変わっていたらどうしようと思ってた。変わってはいたけど、根本は変わっていなくて安心してる」
     ギノが降り注ぐ雨を見ている。雨だれのワルツは排水溝に流れ込むが、そこに死体が転がることはない。事件は終わったのだから。
    「勝手なお前が好きだよ、狡噛」
     彼は伸びをして歩き出す。傘をさして、雨の中へ。俺はそれを追いかけて傘も刺さずに彼と並ぶ。そうして、俺は彼の傘に守られる。ギノには言っていないが、俺はこんなふうに守られると安心するタチだった。愛されると確かめずにはいられないタチだった。SEAUnで彼と会う前に常森に会った時、ギノの動向を確かめたように。
    「ほら、濡れるぞ。あぁ、そんなふうに煙草を出しても駄目だ、今日は湿っているから……」
     ギノが楽しそうに喋り出す。俺はそれをただ聞いている。仕事が終わって、事件が終わって、そうしてようやく始まった二人の時間に安堵しながら。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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