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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    雨の日に仕事が休みになってしまった狡宜。
    800文字チャレンジ65日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    嵐嵐(雨の日に君とすること) 今日は嵐が来るから仕事は休みよ、そんなメッセージがやって来たのは、もう出勤の準備を終えて、靴を履いたところだった。今日は早く行って仕事を片付けようとしたのにどうも厄日だ。俺はそんなことを思いながら、スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイをほどく。
     こんなふうに天候に左右されることはしばしばあるが、幼い頃、まだ幼稚園生や小学生だった頃にはよくあった。雨だから遠足は休みね、雨だから運動会は休みね、台風が来るから学校はお休みです、定期テストは延期します。その宣言に同級生たちは一喜一憂していたが、俺は雨で休みになること自体は嫌じゃなかった。しとしとと降る雨が母親の鼓動を聞いているようで嬉しかったのもあるし、家に帰れば母さんがいたのもある。幸せだった頃の記憶だ。父さんはいつもいなかったけれど、母さんと一緒に飛んで行っちゃわないようにと、庭から金魚を救い出すのも楽しかった。
     そんな時、部屋のベルが鳴った。インターフォン越しには狡噛の姿が映っている。手には酒があって、つまみになるハムやチーズが入っているのだろう紙袋もあった。俺は遠足の代わりに、教室にブルーシートを敷いてお弁当だけ食べて解散したことを思い出して、なんだか懐かしくなってしまった。こんなふうにこんな日に酒を飲むのもいいのかもしれない。
    「今開ける。待ってろ」
     俺はデバイスで部屋の鍵を開ける。すると、髪を整えてもいない狡噛がやってきて、入るなり俺の腰を掴んだ。
    「駄目だ、あまり調子に乗るなよ」
     それでもキスだけはして、俺たちはキッチンで上等なハムやチーズを切り、クラッカーを持ち出してチョコレートも準備した。先日飲んだばかりのマッカランも、このままじゃなくなりそうだ。
    「なぁ、ギノ。俺が酔っ払ってもいいのか?」
    「酔っ払いに来たんじゃないのか?」
     グラスにウィスキーを注ぎながらからかいあうのは楽しい。馬鹿らしくて、可愛らしくて。
    「分かってるくせに」
     狡噛はそう言って、俺の鼻先にきつくキスをした。煙草の匂いと、酒の匂いと、チョコレートの味がした。俺はそれに参ってしまって、いつまでこのぐらつく状態が持つかと、そんなことを考えていた。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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