君には秘密(秘密なんて) お互いに持つ秘密を知った時、初めて好きという感情を知れた気がした。とはいえ秘密と言っても簡単なもので、本当はコーヒーに砂糖を二杯入れていることとか、そんなくらいだ。狡噛の方は少しだけ不穏で、減らしたと言っていた煙草が全然減らせてなかったことだった。どうして嘘をついたんだ、秘密を作ったんだって二人で笑って、馬鹿らしいなと抱き合った。どうしてだろう? 全部知ったつもりになっていたのに、そうじゃなかっなんて、少しプライドが傷つくな。それは彼も同じかも知れないけれど。
「ギノが甘党だったとはな。ブラック飲んでるようにしか見えなかったよ」
「いいだろう別に。それよりお前は煙草を減らす努力をしろ」
散々笑い合って、セックスをして、着替えながらぶつくさ言う。何もかもが日常になって、やっぱり秘密なんて全くないような気がした。俺の秘密なんて砂糖の数だけだった。狡噛も同じくらいだ。でも、お互い口にしないでも、任務に関して、放浪中の出来事に関して、永遠にしゃべらないことがあると思ってはいた。二人とも。
「そんなにキスが不味いか?」
「美味くはないな」
でも嫌いじゃない。そうは言わないけれど、また一つ秘密が出来る。多分、秘密というものはともに生活していると少しずつできていくものなのだろう。良いものでも悪いものでも、些細なことでも大きなことでも。狡噛は学生時代から秘密が多い男だったし、俺は秘密に頼らざるをえない潜在犯の息子だった。秘密なんてなければいいのにと思う。秘密なんてなければ、本当に一つになれるのに。
「でも嫌いじゃないんだろう? ほら、こっちに来いよ」
狡噛が俺の腕を引く。思っていたことを当てられて、秘密が一つ消えて、俺はなんと言っていいのか分からなくなった。狡噛のことが好きだ。愛している。お前が墓まで持って行く秘密ごと愛している。俺の馬鹿らしい秘密をお前が愛せなくても、お前の秘密を愛すると誓うよ。俺はそんなことを思って、狡噛の腕の中に隠れ、そのままじっと子どものようにまぶたを閉じたのだった。