探しもの(ラブレター) 狡噛の様子が昨日からおかしい。おかしいと一言で言ってしまうのが難しいくらいおかしい。そわそわして落ち着かず、俺を見る目もどこかいびつだ。けれど彼は秘密を作るのが上手かったから、俺が尋ねたところで教えてもらえるはずもなかった。と言うわけで、俺は彼と距離をとっていつものように暮らしているのだが、存外に早くその秘密を知ることになる。
朝出勤すると、狡噛は自分のデスクを漁っていた。一体何を探しているのかと俺は彼に隠れ、様子を伺った。探すものなんて俺たちにあっただろうか? それとも、俺に隠れて探したいものなのだろうか? 例えば浮気の証拠だとか? そこまで考えて俺は頭を振り、馬鹿らしいと切り捨てた。狡噛は浮気をするような男じゃない。でも、だとしたら何を探しているのだろう。
狡噛が引き出しから書類を取り出す。それはデスクの上で山になり、崩れそうになりながらどうにか持ちこたえる。俺は喉まで「手伝おうか」の一言が出そうになって、けれど俺よりも早く出勤した彼の意思を尊重したくてやめておいた。探し物を邪魔するのはマナーになっていない。大切なものならなおさらだ。
「あれ、どうしたんですか? 狡噛さん。何か探し物ですか?」
その時、人畜無害な顔をした須郷がやって来た。須郷は善意から狡噛を助けようとする。しかし、それも彼は断ってしまった。こんなふうに言って。「大したものじゃないんだ、ただないと困るのは確かだな」それって一体なんなんだ? 俺はますます頭をひねる。でも聞いているうちに、それは形を伴って俺の耳に入って来た。彼はこの時代で、あるアナログなものを探していたのだ。
「手紙を探してるんだがどこかに挟んで忘れちまってな。書き直してもいいんだが、ああいうのって恥ずかしいだろう? 夜の勢いってさ」
須郷は座ってそうですねぇ、と頷いている。そういえばそろそろ俺の誕生日だった。もしかして、狡噛はそれを? 俺は胸が苦しくなって、答えを知りたくなって、けれど何も出来ずに誕生日までの日にちをカウントした。まだ一週間以上ある。狡噛は無事手紙を見つけて俺にそれをくれるのだろうか? それとも恥ずかしいと言わしめた手紙を書き直してくれるのだろうか? どっちにしたっていい、俺は彼の可愛らしいところを見つけた気がして、喜ばずにはいられなくなったのだった。