ドレスアップ(キス) 海外調整局で繋がりがある職員が結婚した。ので、俺たち行動課はまとめて呼ばれることになったのだが、残念ながら、俺たちは祝祭の日に着る服を持っていなかった。以前はスーツで通していたが、それも格闘が増えてからは安っぽいものに変わったし、それではあまりにも二人に義理立てできない。というわけで我らが課長に見繕ってもらったのだが、それはそれはゴージャスなもので、ただ一度きりの結婚式のためにはもったいないほどだった。そう、例えば記念日にはこれを着て、それなりのレストランで祝うくらいしなくてはもったいないほどに。それくらい、ゴージャスな彼に俺はやられていた。
「忘れていたけど、お前ってなかなか見栄えがするんだな」
そう言うと、狡噛は笑ってコーヒーを飲んだ。スーツはもうクローゼットにしまってある。大切に、大切に。
「お前は結構見た目を気にする男だったからな。そりゃあ見てくれで好きになってもらえるならなんでもやったさ。覚えてないのか? 公安局に入る前日にスーツを着てホテルに行ったの。お前はぽーっとなって……」
「ああ、ああ分かったからいい! もういいから!」
狡噛が言ったのは、公安局に入る前日に、訓練所を退所してしばらくしてお祝いに行ったホテルのことだ。執行官たちに馬鹿にされないようにするにはどうするかってテーマで服を着て、彼が身につけたスリーピースのスーツはとても美しかった。ちゃんと愛されて選ばれた服って感じだった。俺はただブランドもののスーツを着ただけで、着られただけで、あまり様になってはいなかったのだけれども。
「お前はがりがりでさ、スーツに着られてたよな。それがこんなに育って」
狡噛が俺の肩をさする。そりゃあ執行官になってから身体を鍛えたからそれなりにはなっただろう。それでも、過去の彼には勝てないだろうが。
「なんだかいやらしいな」
「お前がスーツに興奮するように、俺は肉体に興奮するんでね」
狡噛が笑う。俺はもうどうしていいのか分からなくなって、彼の頭を叩いて無理やりキスをした。記念日にまたあのスーツが見たいと思ったのを見通されてる。もうキスで誤魔化すしかない、そう思って、俺はいつもよりしつこく彼の舌を吸ったのだった。