このまま夜明けまで(あなたと二人なら) 犯人と見られる人間がバーチャルの売春宿に入って数時間が過ぎた。俺とギノはパトカーをホロで隠してそれを伺っている。裏には二係がいる。今回は大規模な捜査で、失敗するわけにはいかなかった。だというのに、俺はギノとともに夜を過ごしていることを喜んでいた。彼が潜在犯とともに過ごすことを喜ぶかどうかは分からない。ただ恋人だった期間が長かった分、甘い雰囲気は流れた。また一緒にいたい。許されるなら一緒にいたい。でもその選択肢を捨てたのは俺だった。ギノは情が篤い男だから、潜在犯になっただけで俺を捨てはしない。彼が俺と距離をとっているのは、俺が佐々山を殺した犯人に、いもしない犯人に夢中になっているからだった。それに色相だってそんなに悪くはないんだ。もし矯正施設でプログラムを受ければ一般人に戻れるかもしれないくらいに。けれどそれを勧めるギノを拒否して、俺は彼とともに働いている。
「こちら一係、動きはなし。扉も開かない」
「こちら二係、同じく動きはなし。今日はバーチャルの風俗嬢と共寝かもね。どうする?」
「このまま待つさ。気が緩んだところでアジトがわかるかもしれないしな」
そんなやりとりをして、俺たちはまたピンク色のネオンが輝く風俗店を見た。バーチャルな、と言ったが、女の感触は本物とほとんど変わらない。より女らしさを求めて、こちらを選ぶユーザーがいるとも聞く。俺は本物じゃなきゃ嫌だけれど、ギノじゃなきゃ嫌だけれど、でも、ギノは気まぐれにしか抱かれてくれない。俺に褒美をやると仕事で功を挙げた時に服を脱ぐか、彼が性的に欲求不満になった時か、そのどちらかだった。昔はそうじゃなかった。ちょっと手が触れた瞬間に意識して、愛撫はコミニュケーションの延長だった。こんなふうに理由があってセックスをする仲じゃなかった。別にそれが不満なんじゃない。こうやって朝まで言葉も無しにいられるだけで、俺はそれだけでよかった。ギノは気づいていないかもしれないが、うつらうつらする時に俺の名前を呼ぶのだ。それだけで、俺は救われた気分になった。なぁ、ギノ。全てが終わったら、俺を連れてどこか遠いところに行こう。仕事を名目にして、どこか遠いところに行こう。そうして夜明け前まで、今度こそ語らっていよう。昔のように。俺はそう思って運転席のギノを見た。彼はじっと前を見つめ、決してそれをそらさなかった。