タイムリミット(あなたを愛する時間) 時間がない。だからといって手抜きはしたくない。たっぷりいつものように時間がかけられないとはいえ、彼を愛するのに手を抜きたくはない。そんなことを思いながら俺はギノに口付けを落とす。キスだけで終わっておく? あとは夜にとっておく? それとも短い時間を共にしてから出勤する? 俺は悩みながら、静かに身を寄せるギノを抱きしめた。彼は俺にされるがままにされている。少しくらい出勤が遅れてもかまわないとでも思っているのだろうか? 俺はそんなことを思って、そんなことあるはずがないとも思った。彼は仕事に関してはストイックで真面目だ。こんなことが許されるはずがない。以前だってこんな時に始めようとしたら、左で殴られたことがあった。彼は少し性欲が淡白で、キスだけで満足できるところがあるのだ。ただ触れられたらそれでいい、そう考えるところが。だからこうやってキスをしているのも、大した意味はないんだろう。セックスに繋げようなんて、そんなこと絶対に考えていない。セックスなんて夜にする深い営みくらいにしか思っていない。俺はそれを悔しく思う。急げば出勤までに間に合うのに、彼はそれをしてくれないと。
「ギノ、ものは相談なんだが……」
俺はそうやってじりじりと距離を縮めてゆく。しかしギノは緩めたネクタイを締め、俺に抱きしめられながらスーツのボタンをはめてゆく。もう可能性なんてゼロってくらいに彼は仕事の準備をしている。俺はそれにがっくりとしつつ、チャンスはないものかとどうにかないものかと手探りで探す。しかしギノは髪を丁寧に結って、もう可能性はないように思えた。
「何の相談だ?」
「その、まだ出勤まで時間があるだろう、だから……」
ギノが妖艶に微笑む。それは全て分かっている顔だった。俺はそれが悔しくて、早くセックスがしたくて、仕事を憎んだりした。花城に怒られるのは俺が引き受けるから、一刻も早く交わりたい。
「分かってる、分かってるさ。お前が課長に怒られようってしてることくらい」
そんな言葉に顔を上げると、ギノは髪を解いて俺に寄りかかっていた。そして彼はこう言ったのだった。艶やかな笑みを浮かべて、静かにネクタイを引き抜いて。
「怒られるのはお前で、言い訳も全部考えろよ」
俺は思わずめまいがして、けれどそのままぎゅっとギノを抱きしめた。あと一時間もなしに、めちゃくちゃにしてやると考えて。