青い目の殺人 出島で連続して青い目の男女が瞳を切りつけられる事件が起こった。それは今のところ解決していない。被害者の共通事項を探しても、青い目以外には何もないのだ。年齢も、性別も、宗教も、日本にやってきた理由や出島にやって来た日本人の理由も。この奇妙な事件は連続して起こり、解決はまだ見えない。公安局だけでは手に余ると思ったのか、厚生省は俺たちにも協力を申し出て来た。移民が犯人とみたのかもしれない。ならば俺たちの方が良く知っているし、公安局には不利にはたらくだろう。しかし、俺たちの手に事件が渡って一週間経っても、犯人が見つかることはなかった。その間も青い目の人々は切り裂かれ続け、その美しい目を失った。幸い今は再正技術が発達しているから、彼らは新しい目元の皮膚も、新しい目も得ることが出来た。だが、切り裂かれた恐怖からは一生逃れられないのだ。
「俺が囮になろうか?」
冬のある日、狡噛はそう言った。事件が停滞して数日経った日のことだった。それにはもちろん花城も反対した。捜査員を危険には晒せない。というより、ここには青い目をした人間が多すぎて、囮捜査と行くには条件が少なすぎたのだ。
「あなたじゃ無理よ。でも、あなたって綺麗な目をしてるのね。良く見てなかったけど」
花城の言葉に、俺は胸を貫かれたような気分になった。青い目、狡噛の目、俺を見る目、それは青く、美しく、そう、美しかった。狡噛の目、セックスの最中に見る目。あれを切り付けるなんて、犯人は何を考えているのだろう。青い目、夜に見ると深くなる海のような目、美しい目。狡噛は美しいのだ、俺が犯人なら彼のトラップに引っ掛かっていることだろう。狡噛は美しい、身体のすべてが、どこまでも美しい。そして一番俺が惹かれる美しさが、彼の目だった。
犯人はまだ捕まらない。俺たちには力がない。時間もない。そろそろ、タイムリミットだった。青い目を好む、または憎む殺人犯は、狡噛の目を美しいと思うだろうか? 俺はそんなことを思って、再びコンピュータに向かったのだった。隣に座る狡噛の青い目を見つめながら。