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    短い話を放り込んでおくところ。
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    練習問題⑥老女
    現在時制と過去時制、一人称と三人称。

    #PSYCHO-PASS
    ##文体の舵をとれ

    母なる国のひまわり
     好きでもない編み物をするようになったのは、ねじ曲がった指の訓練をするためだった。医者がそう勧めたのだ。手術をどれだけしても、これ以上良くはならないからと。
     私は少女の頃この日本にやって来た。紛争地である母国を離れて、父母と幸せに暮らすために。日本での暮らしはサイコパスに気を付ければ天国だった。だが目を閉じた私がまぶたの裏に浮かべるのは、幼い自分が一面のひまわり畑で走り回っている姿だった。夏の匂い、母の作ってくれたレモネードの味、父が建てたサンルームでの読書。私は時折それを思い出し、この清潔な日本での暮らしを与えてくれた父と母の元に逝くことを望んだ。私はそれほどにも長く、幸せにここ出島で生きてしまったから。


     老女が好きでもない編み物をするようになったのは、ねじ曲がった指の訓練を医者に勧められたからだ。手術をどれだけしても、これ以上良くはならないと言われたのである。
     老女は少女の頃日本にやって来たという。紛争地である母国を離れて、父母と幸せに暮らすために船に乗ったという。彼女にとって、日本での暮らしはサイコパスに気をつけさえすれば天国だったらしい。けれど目を閉じまぶたの裏に浮かべるのは、今も幼い彼女が一面のひまわり畑で走っている姿だ。夏の匂い、母の作ってくれたレモネードの味、父が建てたサンルームでの読書。彼女は時折それを思い出し、この清潔な日本での暮らしを与えてくれた父と母の元に逝くことを望む。彼女はそれほどにも長く、幸せにここ出島で生きてしまったからである。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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