母なる国のひまわり①
好きでもない編み物をするようになったのは、ねじ曲がった指の訓練をするためだった。医者がそう勧めたのだ。手術をどれだけしても、これ以上良くはならないからと。
私は少女の頃この日本にやって来た。紛争地である母国を離れて、父母と幸せに暮らすために。日本での暮らしはサイコパスに気を付ければ天国だった。だが目を閉じた私がまぶたの裏に浮かべるのは、幼い自分が一面のひまわり畑で走り回っている姿だった。夏の匂い、母の作ってくれたレモネードの味、父が建てたサンルームでの読書。私は時折それを思い出し、この清潔な日本での暮らしを与えてくれた父と母の元に逝くことを望んだ。私はそれほどにも長く、幸せにここ出島で生きてしまったから。
②
老女が好きでもない編み物をするようになったのは、ねじ曲がった指の訓練を医者に勧められたからだ。手術をどれだけしても、これ以上良くはならないと言われたのである。
老女は少女の頃日本にやって来たという。紛争地である母国を離れて、父母と幸せに暮らすために船に乗ったという。彼女にとって、日本での暮らしはサイコパスに気をつけさえすれば天国だったらしい。けれど目を閉じまぶたの裏に浮かべるのは、今も幼い彼女が一面のひまわり畑で走っている姿だ。夏の匂い、母の作ってくれたレモネードの味、父が建てたサンルームでの読書。彼女は時折それを思い出し、この清潔な日本での暮らしを与えてくれた父と母の元に逝くことを望む。彼女はそれほどにも長く、幸せにここ出島で生きてしまったからである。