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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    6/11ワンライ
    お題【守る/傘】
    雨の日にもだもだしてるラブラブな狡宜です。

    #PSYCHO-PASS
    ##狡宜版深夜の創作60分勝負

    部屋に雨が降る 雨はまだ止む気配をみせない。
     俺はそんな大雨でもごった返す、出島のマーケットの景色を部屋の窓から見ながら、それに仕方がないか、とひとりごちた。仕方がないか、と思ったのは朝からずっとそわそわしつつ晴れを待っていたからだ。でも今はもう昼間を過ぎて、夕方近くになっている。夕食の材料を買い出しにゆくのなら、料理をする時間を考えたら、そろそろこの部屋を出なければならない。が、問題はこの部屋に傘がないことだった。いつもは走って済ませていたから必要なかったのだが、流石にギノと二人分の食糧を守って走るのは難しそうだ。それに急ぎ過ぎて足を滑らせでもしたら目も当てられない。割れた卵が雨に染みる様なんて、見たくもなかった。
    「どうしたんださっきからうんうんうなって。ヤニでも切れたか」
     ギノはソファに身体を預け、珍しく本を読みながら言った。
     彼が今読んでいるのは、俺が出島の入国者から手に入れた古い日本語の本だった。題名は『観画談』、幸田露伴が書いた雨の日の本だ。簡単にいえば、同級生になかなか学問で芽が出ないことを揶揄された大学生の青年が、雨の日に霊泉の寺に泊まり、現実とも幻想ともつかない空気の中で仏絵を見るというストーリー。仏法に則って描かれたそれは、生まれ変わりを描いていると言ってもいいのかもしれない。俺はそういうのに詳しくはなかったが、雑賀先生が雨の日にはよく読むと言っていた。そういえばしばらくあの人にも会っていない。行動課に呼ぶという話もあったけれど、それは今のところたち消えになっていた。
    「あぁ、旧字体は頭が痛くなる。お前はいつもこんな本を?」
     ギノが目元を抑える。年齢の割にしわ一つないそこをぎゅっと摘んで、彼はうめき声を漏らした。
    「まさか。入国者からもらった本なだけだ。その入国者も、どこかの日本人からもらったらしい。回り回って俺の元に来ただけさ」
    「ふぅん……」
     そう言ってギノはまた一ページめくった。文句を言いつつも案外気に入っているのかもしれない。小難しく見える本だが、比喩が楽しく面白いところもある。心地よくて長い一文も。そこがよかったのだろうか? それとも禅の教えが新鮮だった?
    「それで、いつ買い物に?」
     ギノがまた一ページめくる。古びた本は黒ずんでいて、ところどころ波打っている。それはまるで雨の中で読んでいるようで、俺は不思議な錯覚を覚えた。ここに雨が降っているのではないかと、そんなふうに思ったのだ。雨が降っている、足元を濡らす雨が。肩を濡らし、髪を濡らし、彼の美しい頬を濡らす雨が。
    「なんだ、分かってたのか。傘がなくてな。この大雨だろう。どうしようかと」
    「傘くらい、ホームセクレタリに通販で頼んでおけよ。それから食事はフードプリンターでいいのに」
    「俺が料理したいんだよ。気分転換にもなるしな」
     それに愛してる男に、美味い飯を食わせてやりたいんだ。俺はそう言ってギノに近づく。そして頬をさすって、小さくキスをした。ギノはそれにくすぐったそうに笑って、俺の腹を押し返す。
    「もう外で食べればいいじゃないか。濡れても走ればいい。歩いてもいい。帰って来たら、一緒に風呂に入ればいい。服はドローンに任せればいい」
     ギノが本を閉じあでやかに笑う。唇は今日もまたつややかで、雨に濡れているように見えた。本当に雨の中に彼はいるようだった。ぐっしょりと濡れて、俺はそれに触れて同じように濡れているようだった。
     もっと本格的にキスしたいと思う。セックスも。けれど食事がまだだ。彼が言う通り出島のフードマーケットで食べるのなら、寝てる場合じゃない。
    「本当の食事はその後に?」
     俺が分かりきったことを尋ねると、ギノは小さく笑って俺の唇にキスをした。本がテーブルの上に置かれる。彼が俺の外出着であるジャケットを引っ張る。
    「お前の好きにすればいい……」
     あぁ、もう。
     窓の外はまだ雨だ。窓ガラス一枚隔ているだけだからか、雨の匂いがしてくる気がする。俺はそんな風景を見ながら、彼をどうやって愛するか、そんなことばかり考えていた。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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