花盗人(愛情) 花泥棒がその風流さで罪を許された狂言があるように、愛してはいけない人を愛してもその切実さで許されることがある。俺たちが担当したのは、そんな事件だった。マフィアの妻を愛した海外調整局の男がキーとなったこの事件は、男の誠実さによって解決した。詳細は省くが、生真面目な愛情が誰かを救うこともあるということだ。
俺たちはそんな仕事を終えて出島のマーケットを歩いていた。さまざまな肌の色をした人間が歩くそこは、俺がここで一番好きな場所の一つだった。ギノはどうかは知らないが、そうであってくれたら良いのにと思う。
「敵を愛するなんて、そんなこともあるんだな。それで全てうまくいくってことも」
ギノはそう言って、マーケットに並ぶリンゴを一つ取った。明日の朝食にするらしい。
「奇跡的なものさ。誰でも上手くいくとは限らない。それにあの男は賢明だった」
ギノが硬貨を一つ店主に渡す。俺はそれを見て、同じものを一つを注文する。
「例えばギノが敵の女だったら、俺ならああは出来ないだろうな。一緒に死んでやることしか出来ない。多くの人を快楽で殺してきた人間の妻を愛するなんて、俺にできるかどうか分からない。自分も人を殺してるくせにな……」
俺はそんなことを言ってりんごを齧った。少し酸っぱすぎる。俺は店主に文句を言ったが、老婆は小さな蜂蜜の瓶を投げつけるだけだった。
「それも大した告白じゃないか。あの男がどれだけ賢明でも、あの妻がこれからどうなるかは分からない。証人保護を受けて引き離されるかもしれない。でも死ねばずっと一緒だ。そっちの方が永遠の別れよりいいかもしれない」
ギノは悪戯っぽくいう。そして、そんな馬鹿なことはしてくれるな、俺は一人で生きていける、切り抜けられると言った。そりゃあそうだろう。だから俺は彼を愛しているのだし。
足元に花が咲いている。花泥棒すら見向きもしない雑草が咲いている。俺たちの愛はそういう種類のものだ。風流さで許されることはなく、切実さで許されることはない。でもただ愛している。そしてそれはきっと何よりも強いのだ。