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    佳芙司(kafukafuji)

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    前にピクシブに投稿してたやつ

    #オスアキ

    ガラクタでいさせてやれない(オスアキ前提ブラッド+オスカー)


     アカデミーに入学して卒業資格を有すればそれでヒーローになれるとは限らない。入学から卒業まで定期的に行われる健康診断で、何らかの異常が認められればエリオスへの入所ではなく民間警備会社への就職を勧められる事もある。そして仮にヒーローになったとしても、年に一度の健康診断で異常ありと診断されればヒーローを続けられない事もままある。そうして一線を退いていったヒーローは数知れない。

    「ブラッド様の近視がどうにもならなくなった際には、俺の目の左右どちらでもお好きな方を差し出します」

     目頭を揉むように押さえていたブラッドはオスカーの言葉で顔を上げた。
    発言自体は以前にも似たような内容を言われた事がある、今に始まった事ではない。手でも足でも臓器でも、必要だと判断すれば自ずと差し出すのだろう。其処にブラッドの意思は反映されない。案外我の強い男だとブラッドは思う。意志の強さは結構。だが、と否定の助動詞を添えたくなる。
     オスカーの態度は簡潔で発言にも裏表がない。此処で、それでは視力検査の後にせめて視力が悪い方の目を貰い受ける事にしよう、等と口約束したところで後生真面目に覚えているのだろうとブラッドは予測する。容易い想像はふっと鼻で笑って追いやった。今となってはもうそんな約束をしてやる事は出来ない(かといってもっと以前の環境や状況でもそんな約束はしなかっただろうが)。

    「申し出は有り難いが承諾出来ない。そんな事をしては、俺がアキラに叱られるだろう」

     オスカーは分かっていないのだ。もう自身が、どういった処遇に遭っても、誰かの気に留められず思い過ごされてしまうような状況には立っていない事を。未だにいつか路傍の石のように打ち捨てられて野垂れ死ぬかもしれないという安易な考えが染み付いたままである事も。

    「それは……一体、どういった意味でしょうか」

     たっぷり一呼吸置いて漸く口を開いたというのに、それから更に間を開けて返した言が質問だった為、ブラッドは肩を竦めた。此方が足を止めて振り返れば、律儀に背筋を伸ばして立ち止まる長駆。他の何者かが持ち得ぬようなものを既に手にしているのに気付けぬ事は不幸なのか怠慢なのか。いつか指摘する必要があるにしても今はその時ではない。

    「お前は、お前自身が簡単に切り取られて消費されるような人間だと思い込むのは、そろそろ卒業するように」

     オスカーが目を瞬く。はい、ええと、曖昧な返事は理解度の低さを表していた。まだ自分が教えられる事はあるのかもしれない。ブラッドはいつもオスカーを前にすると、敢えて普段意識していない己の中にある価値観を視覚化出来るような思いがする。思想も、魂も、肉体も、人間が人間を縦(ほしいまま)にしていい訳がない。それは間違いではない筈だと改めて確認する。だがそんな頭の中にある自論を、滞りなく説明するのはいつも思うようにはいかない。
     オスカーは思考の根底では今後も躊躇なく切り捨てられる手駒であろうとするだろう。使い果たされる可能性を捨てる事もないだろう。それを本人の望みと考えれば、ブラッドは棄却する事は出来ない。そしてそんな事態が絶対に来ないと確約する事も出来ない。その意図はなくても叶えてしまう、そうせざるを得ない瞬間が来ると予測出来るから、手札として残しておくべきだという打算が理屈を用意し始める。
     こんな時、アキラならどのように伝えるだろう。ブラッドは思い浮かべる。真っ直ぐ過ぎて余計な行き違いを生じさせる懸念はあるが、もっといい伝え方を自分より知っているかもしれない。もしくはアキラなら適切な言葉を見付けられるかもしれない、少なくとも様々にしがらみを抱えてしまった自分では言えない言葉、オスカーに届く言葉を。そしてそれならもう、気付かせるのも伝えるのも、俺の役目ではない。
     いつか俺の力に依らずに気付くだろう。ゆるい力加減でブラッドはオスカーの肩を叩いた。
     その表情はあくまで冗談を言う子供を前に窘める者のそれであったため、オスカーは全く意図が掴めずにただ首を傾げ、ブラッドに二歩分遅れて歩き出した。



    〈了〉
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    佳芙司(kafukafuji)

    REHABILI園子さんは正真正銘のお嬢様なので本人も気付いてないような細かなところで育ちの良さが出ている。というのを早い段階で見抜いていた京極さんの話。
    元ネタ【https://twitter.com/msrnkn/status/1694614503923871965】
    京園⑰

     思い当たるところはいくらでもあった。
     元気で明るくて表情豊か。という、いつかの簡潔な第一印象を踏まえて、再会した時の彼女の立ち居振る舞いを見て気付いたのはまた別の印象だった。旅館の仲居達と交わしていた挨拶や立ち話の姿からして、慣れている、という雰囲気があった。給仕を受ける事に対して必要以上の緊張がない。此方の仕事を理解して弁えた態度で饗しを受ける、一人の客として振る舞う様子。行儀よくしようとしている風でも、慣れない旅先の土地で気を遣って張り詰めている風でもない。旅慣れているのかとも考えたが、最大の根拠になったのは、食堂で海鮮料理を食べた彼女の食後の後始末だった。
     子供を含めた四人の席、否や食堂全体で見ても、彼女の使った皿は一目で分かるほど他のどれとも違っていた。大抵の場合、そのままになっているか避けられている事が多いかいしきの笹の葉で、魚の頭や鰭や骨を被ってあった。綺麗に食べ終わった状態にしてはあまりに整いすぎている。此処に座っていた彼女達が東京から泊まりに来た高校生の予約客だと分かった上で、長く仲居として勤めている年輩の女性が『今時の若い子なのに珍しいわね』と、下膳を手伝ってくれた際に呟いていたのを聞き逃す事は勿論出来なかった。
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