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    佳芙司(kafukafuji)

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    POIPOI 71

    Come on, don’t stare at me.(恥ずかしいからジロジロ見んな)

    #オスアキ

    最中に電気つけるか消すかで揉めるオスアキ


    「ちょ、っと待て、電気! 電気消せって」
    「電気?」

     つい先程まで腕の中で大人しくしていたアキラが、俄に壁のスイッチを指差して慌て出す。ベッドサイドのライトを先に点灯させて、後ろ髪を引かれるような気分で立ち上がり部屋の入口付近にあるそれを押した。目が慣れるのを待つ必要のない程度に部屋全体は暗くなる。更にアキラは照明のダイアルを回して調整したようだった。

    「これでいいのか」
    「ん」

     改めてベッドに近付く。ベッドの上で膝立ちになったアキラが振り返って、四つん這いの状態で此方に近寄る。キスを受け止めて、脇腹から背中を擦りズボンの隙間から上着を引っ張り出す。

    「あ……」

     布擦れに紛れて息を詰めた声が耳に届く。ネクタイがない分アキラの制服は脱がしやすい。赤いシャツの裾から差し込んだ手にそろそろと吐いた息が肩口にかかった。順調に此方のネクタイとボタンを外していたアキラの手はもう止まっている。

    「オスカー、」

     早くしろ、という事なのだろう。中途半端に脱がさないままでいる時に手首を掴まれるのはそういう意味だ。腕に掛かっているだけだった制服の袖を抜いてシャツを捲り上げる。制服がベッドの下に放り投げられる。畳むかハンガーに掛けるべきか迷うが、アキラがボタンを外すのを再開した事に気を取られて考えるのをやめた。最後のボタンが外されたのを確認してからアンダーシャツを脱ぎ捨てる。肌が触れていないと物足りなくて、どうしようもなく焦れる。

    「あ、……っは」

     ついきつく抱き締め過ぎたかもしれない。腕の力を緩めるのが勿体無いような気もしつつ、少しばかり力を抜く。顔を近付け合うとお互いの前髪がくすぐったいのか、アキラが鼻にかかったような声で笑う。やわらかく持ち上がっている口角に唇を軽く押し当てて、それから顎の先と、喉仏の下にそれぞれ一度ずつ。服で隠れないような目に見える位置にキスをする際はどうしても意識的に慎重になる。

    「あ、あ、ぅん……」

     アキラが身動ぐ。腕を首に回して、うなじや耳の後ろから指を髪に差し込んでくる。くしゃくしゃに掻き混ぜながら熱っぽい呼気を漏らしている。
     随分と素直だ、ふと思う。

    「アキラ」
    「んー?」
    「お前は俺に表情を見られるのは嫌で、声を聞かれるのはいいのか」
    「へ?」

     気の抜けたような声は文字通り気を許して身を委せている事の表れのようで充足感が募るが、それにしても問い掛けた内容も現状も理解はしていないようで、アキラの表情を伺う。
     ほろりと煮崩れそうな目尻とほどけた唇と、熱を透かす頬。

    「お前がどんな顔をしているかは全部見えているぞ」
    「……え?」

     ぱち、と音がしそうなほど瞬きを二、三度繰り返して、アキラが身を硬くした。今更身構えられたところで此方に見えている状況は変わらないのだが。

    「俺は人よりいくらか視力が良いし、暗いところでも目が利く。これだけ明るさがあれば見えにくいと感じる事もない」

     説明の合間にもうアキラが目に見えて狼狽え始めた。目を瞠って口をぱくぱく動かして、え。あ。特に意味のない相槌を返す。首に回していた腕を素早く戻しシーツについて後退って距離を取ろうとしてきて、それは流石に看過出来ずに追いかけた。ほんの数センチメートルの間合いは有って無いようなものに等しい。そのまま後ろに押し倒すと上手い具合にアキラの後頭部が音を立てて枕に埋もれた。かえってベッドサイドのライトに近付いた恰好になってより表情が分かりやすくなる。

    「なんでだよ! ズルいだろそんなのっ、いつからだよ! いつから見てたんだよ……!」

     いつからも何もない。と言ってしまった場合、更に過去の夜の事を蒸し返されそうな予感がしてやめた。どの道、常に様子を見ながら行う事であるし、細かな反応も見逃さないよう目を配っているつもりだから、答えるとするならば。

    「始めから全部だ。気にしたところで無駄だぞ、アキラ」

     こんなに大口を開けているアキラはホットドッグに齧り付こうとしている時にしか見た事がないな、とどうでもいい事を思い出した。
     呆れていた訳ではないがそれを隙と見て取ったらしいアキラが即座にライトのスイッチに手を伸ばして乱暴に切った。一瞬で暗闇になったところで先程まで明るかったから何処に何があるのかくらい判別はつく。慌てずにスイッチを押して点灯させる。うげ、とアキラが呟く。また消そうとして伸ばしていた手を掴んで、尚も藻掻こうとする脚を膝を使って抑える。抵抗しようと思って動いている様子だが気が散漫になっているのか殆んど意味がない。

    「だから、無駄だと言っただろう」
    「でもヤだ! 見んな!」

     なんでだよもう。までは聞き取れたが、その後に続いていた言葉は口をあまり開かずに言っていたのか言葉として聞き取れなかった。おおよそ自分は相手の様子があまり見えていなかったという事を踏まえての不公平感に対しての文句だろう。視力の差に対してそれをズルいだの何だのと言われても見えているのだから仕方ない。仕方のない事を納得させるだけの説得力ある説明が出来るという自信はない、し――時間が惜しい。

    「すぐに気にならなくしてやる」

     まだ何か言いたげにしていたがキスには抵抗されなかった。




    〈了〉
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    Replies from the creator

    佳芙司(kafukafuji)

    REHABILI園子さんは正真正銘のお嬢様なので本人も気付いてないような細かなところで育ちの良さが出ている。というのを早い段階で見抜いていた京極さんの話。
    元ネタ【https://twitter.com/msrnkn/status/1694614503923871965】
    京園⑰

     思い当たるところはいくらでもあった。
     元気で明るくて表情豊か。という、いつかの簡潔な第一印象を踏まえて、再会した時の彼女の立ち居振る舞いを見て気付いたのはまた別の印象だった。旅館の仲居達と交わしていた挨拶や立ち話の姿からして、慣れている、という雰囲気があった。給仕を受ける事に対して必要以上の緊張がない。此方の仕事を理解して弁えた態度で饗しを受ける、一人の客として振る舞う様子。行儀よくしようとしている風でも、慣れない旅先の土地で気を遣って張り詰めている風でもない。旅慣れているのかとも考えたが、最大の根拠になったのは、食堂で海鮮料理を食べた彼女の食後の後始末だった。
     子供を含めた四人の席、否や食堂全体で見ても、彼女の使った皿は一目で分かるほど他のどれとも違っていた。大抵の場合、そのままになっているか避けられている事が多いかいしきの笹の葉で、魚の頭や鰭や骨を被ってあった。綺麗に食べ終わった状態にしてはあまりに整いすぎている。此処に座っていた彼女達が東京から泊まりに来た高校生の予約客だと分かった上で、長く仲居として勤めている年輩の女性が『今時の若い子なのに珍しいわね』と、下膳を手伝ってくれた際に呟いていたのを聞き逃す事は勿論出来なかった。
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