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    佳芙司(kafukafuji)

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    U R My Valentine.(おまえは特別)

    #オスアキ

    バレンタインのオスアキ


     年末から年始にかけてのホリデーシーズンが過ぎてしまうと街は案外落ち着きを取り戻す。みんなクリスマスとニューイヤーで体力を使い果たしてしまうのだ。だからどちらかといえば、今年の二月の第三月曜日は何日だ、プレシデンツデーさえ来ればまたホリデーが待っているぞ、というような囁きの方が耳にする機会が多い。しかしそれも消防だの警察だの、ましてやヒーローともなると祝祭日なんて有って無いようなものだから、余計に忘れてしまうのだ。
     現にアキラは今日まで忘れていた、セントバレンタインデーなんてそんなものは。

     そもそもバレンタインデーに思い入れも思い出もない。遊ぶ事に夢中な人間だけでつるんでいると恋人がどうのこうの、という話に発展しない。もしかしたら馴染みの連中の中にはバレンタインデーを一大イベントと捉えている者もいたのかもしれないが、そんな素振りをしていた奴は記憶の何処にもいない。たまたまかもしれないし、当人が気を遣って話題にしないようにしていたのかもしれない。
     そりゃそうだ、だって好きな人の話なんて、本気であればあるほどプライベートな事だもんな、今なら分かるぞ俺にだって。自分の考えに頷く代わりに瞬きした。そして瞼を開いて手元を見た。
     ……それでなんで俺はバレンタインカードなんて買っちまったんだ?



     今日はたまたま、炭酸とかの甘い飲み物が飲みたいと思って、昼休憩の時に買おうと心に決めていた。
     食料品の売っている雑貨店がある通りに向かって歩いたら、その目的の店の軒先に回転ラックが置かれていた。観光客向けのポストカードかと思って横目で見たら、バレンタインカードも陳列されていた。もうそんな時期か、なんてうっかり足を止めて見てしまったのが悪かった。
     その中にハリネズミのデザインのものがある事に気付いた。赤いハートを抱えて大人しく座っているイラストで、名刺かそれくらいの手に収まるサイズなのに封筒まで付いている。カードそのものは別に季節感はないのに、そのチョコレートみたいな茶色と赤の斜めボーダーの、いかにもバレンタインらしい色合いの封筒が付いてるだけでバレンタインカードらしくなっている。
     それにしても俺の知ってるハリネズミはこんな大人しいポーズはしないな、なんてつい手に取ってしまった。更に連想して思い出してしまった、ハリネズミの飼い主の事を。

     ……でもだからってなんで買っちまったんだ? どうするつもりだったんだ? なんで買った後の事を考えなかったんだ、馬鹿か俺は!
    「あああ〜……もう!」
     どう考えても全部自分へ返ってくる虚しい怒りと共に倒れ込んだ先のベッドが軋む。
     実のところ、昼食とまとめて購入した後にカードを制服の胸ポケットに入れて、そのまますっかり忘れていたのだ。
     パトロールを終えて、器具を使ってトレーニングをしていたら後からオスカーがトレーニングルームに来て、じゃあ一通り終わったらスパーリングをしようって事になって、ストレッチして、入浴も済ませて、汗をかいたからジャック達に洗濯を頼もうと服を確認していたらカードが出てきたのだ。
     さっきまでは寝る前の時間はどうしようか、ゲームでもやろうか、なんて考えていたのに。全部台無しだ。枕への頭突きが三回目になったところではたと思い出した。
     そういえばバースデーにオスカーに個別に贈り物などをしていないままだった。
     誕生日の正確な日付を把握した時には既にその日が差し迫った状況であったし、ささやかながらサウスセクター内でパーティーを催すなど準備をしていた事もあって個人的な準備に時間を取れなかったというのもある。
     でもそれが、バレンタインデーに向けての今なら時間はある。掌に収まる大きさのカードの文面を考えるくらい天才には造作もない。そしてとっとと書いて封をして、書いた内容など忘れてしまえば恥ずかしさも何もない。そうだとっとと終わらせてしまえ。
     ……そういえばペンって普段何処にしまってたっけ、と収納場所を思い出す為に部屋中をひっくり返しているうちにその日はタイムアップとなった。



    「やる」
    「何故」
    「いいから」
    「だから何故だ」
    「いいからっつってんだろ」
    「わかった。わかったから」

     言動があまりにもガラが悪い。オスカーは溜息を一つ吐いてから突き付けられた四角い紙片を受け取った。
     顔面に押し付けるかの如く差し出された平たい四方形の角は皮膚に刺さればおそらく痛覚を刺激する。内容も分からないものを受け取っていいものかと思案するこちらの気を知ってか知らずか、しかし受け取ったのを確認したら、それでいいんだよ、等と頷いてアキラはあっさりと走り去った。まるで意図が掴めない。
     茶色と赤のボーダーの封筒は手紙にしてはあまりに小さい。封筒には宛名もない。そもそも電子メールやソーシャルネットワーキングサービスによるやり取りが一般的な今日この頃であるのにアナログな手法を伝達手段として選ぶあたり、何か事情があるのかもしれない。
     封を切ろうとして、封筒は単に折口を折り曲げただけの簡単な封のされ方をしている事に気付いた。もしかしたら中に宛名や差出人が書いてあるのかもしれない。
     いや、この元気さが伝わるような独特の形の字、は。
     瞬きをしてよく観察する。口元が緩む。
     なるほど、贈り主が機械の操作が苦手だからわざわざアナログな伝達手段を選んだのだろう。ハリネズミの抱えた赤いハートは特殊な印刷なのか、傾けると光を反射していて指先でなぞるとツヤツヤとしていた。
     先を越されて遅れを取った側としては、どうやってその差を埋めようかと考えながら、オスカーは制服の胸ポケットの上から、目視でポケットの中にまだ渡せていない四角い紙片がある事を確認した。

     ――そのカードに『U R MY VALENTINE, TOO.』と書き足されたものがどのようにアキラの手に渡ったのかは、また別のお話し。



    〈了〉
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    Replies from the creator

    佳芙司(kafukafuji)

    REHABILI園子さんは正真正銘のお嬢様なので本人も気付いてないような細かなところで育ちの良さが出ている。というのを早い段階で見抜いていた京極さんの話。
    元ネタ【https://twitter.com/msrnkn/status/1694614503923871965】
    京園⑰

     思い当たるところはいくらでもあった。
     元気で明るくて表情豊か。という、いつかの簡潔な第一印象を踏まえて、再会した時の彼女の立ち居振る舞いを見て気付いたのはまた別の印象だった。旅館の仲居達と交わしていた挨拶や立ち話の姿からして、慣れている、という雰囲気があった。給仕を受ける事に対して必要以上の緊張がない。此方の仕事を理解して弁えた態度で饗しを受ける、一人の客として振る舞う様子。行儀よくしようとしている風でも、慣れない旅先の土地で気を遣って張り詰めている風でもない。旅慣れているのかとも考えたが、最大の根拠になったのは、食堂で海鮮料理を食べた彼女の食後の後始末だった。
     子供を含めた四人の席、否や食堂全体で見ても、彼女の使った皿は一目で分かるほど他のどれとも違っていた。大抵の場合、そのままになっているか避けられている事が多いかいしきの笹の葉で、魚の頭や鰭や骨を被ってあった。綺麗に食べ終わった状態にしてはあまりに整いすぎている。此処に座っていた彼女達が東京から泊まりに来た高校生の予約客だと分かった上で、長く仲居として勤めている年輩の女性が『今時の若い子なのに珍しいわね』と、下膳を手伝ってくれた際に呟いていたのを聞き逃す事は勿論出来なかった。
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    佳芙司(kafukafuji)

    DONEこちらのアンケート結果【https://twitter.com/kafukafuji/status/1522554377923620865?s=21&t=2GIpbQxVqsX9lfYCnepBbA】
    「わざと見せつける」を元にして書いたグラエマ+ヴィクトル。
    本人らは故意とは思ってないけど周囲がそう感じる時あるよね、と。
    several coats of nail polish.(グラエマ) 発売当時、雑誌でも取り上げられて話題になったカラフルマニュキアのキャッチコピーは『あなたのココロで染まる指先。』だったかしらね、とヴィクトルは記憶を辿った。持ち主の心が宿るという水晶鏡片を砕いて魔術で加工したものを染料として使っているとかいないとか。
    「アンタも塗ってみてよ。何色になるのか見てみたいわ」
     カジノの営業時間前に買い物に行ったついでに、つい盛り上がって一緒に買おうとなったカラフルマニキュア。そのままだと一見ラメ入りの青紫系統のマニキュアで、星空のように見えるのに、ひとたび爪に乗せると色が変わるのだから不思議だ。
     鼻歌交じりにボトルを開けて小指から塗り始めながらヴィクトルは自分の爪先がオレンジ色に染まっていくのをまじまじと見た。なるほど今はこの気分らしい、今日のネクタイはこの色にあわせてみようかしら、等々と考えて手際良く片手を塗り終えた。
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