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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    しょしょドロライ19回目
    水遊び、手を繋ぐ

    #鍾魈
    Zhongxiao

    水遊び「あの……鍾離様……」
    「ん?」
    「これは……一体……」
     望舒旅館が見える、そう遠くない浅瀬にて、川に沿うように鍾離と歩いている。
     ただの散歩であれば、ここまで疑問に思うこともなかっただろう。魈の右手は、鍾離の左手と繋がれている。二人とも手套を外し、装具も付けていない装いだった。なんなら靴も履いていない。素手で鍾離と手を繋ぎ、ちゃぷ、ちゃぷ、と浅瀬を歩く水音だけが耳に聞こえる。
    「水に慣れようと思ってな。お前と共になら急に蟹が現れても驚かないだろう」
    「はぁ……」
    「うっかり滑って転びそうになっても、お前であれば受け止めてくれると思ったが、違っただろうか」
    「いえ……」
     さようでございますか。我がお役に立てて良かったです。
     そう返したいところではあったが、これが鍾離のついた嘘であることくらい、魈もさすがにわかっていた。鍾離がうっかり転びそうになる所は見たことがないし、石に躓くことすら有り得ないことだ。そんなのはただの口実で、ただ魈と散歩したいというのが本音なのだろう。
     ただの散歩に付き合うのはそろそろ慣れてはきたものの、なぜ今日は水辺なのだろうかという疑問は残る。鍾離は山や遺跡を回るのを好いていると思っていたのだが、今日はひたすら川に沿ってずっと望舒旅館を眺めながら歩いている。
    「魈は幼い頃、水遊びなどしたことはあるか?」
    「……もしかしたら仙獣の姿で水浴びをしたことはあるかもしれませんが、記憶にはありませぬ……」
    「なるほど。俺もないかもしれない」
    「……鍾離様もですか」
    「ああ。ここは一つ、童心に帰って水遊びにでも興じるのはどうだ?」
    「え、あ、あの……誰が、でしょうか」
    「この場には俺とお前しかいないが?」
    「そうですね……」
     また始まった。魈は困惑してしまい、うっかり鍾離の手をぎゅっと握ってしまっていた。鍾離の試してみたいことの相手に魈を選んでくれるのは光栄なことではあるのだが、内容が水遊びとは、どうすれば良いのかさっぱりわからなかった。
    「鍾離様、水遊びとは……どういった遊びなのでしょうか」
    「水を掛け合うそうだ」
    「み、みずを……」
     岩王帝君に水を掛けられる者が、この世のどこにいるのだろうか。いや、風神あたりならもしかするとお構い無しにするかもしれないが、それ以外では思いつかない。勿論自分も不敬が過ぎて恐れ多い。
    「ちょっと掛けてみても良いか?」
    「は、はい。どうぞ」
     鍾離がしゃがみ込み、水を手にすくって魈の方に飛ばした。それは魈の腹あたりにかかり、冷たい感触を受けた。
    「さぁ、魈もやり返してくれ」
    「え、えぇと……」
     やらない選択肢があればそうしたいが、目の前の鍾離は今か今かと水を掛けられるのを待っている。鍾離の衣服に水を掛けるなど、己の方がびしょびしょになった方がマシだ。
     仕方なく申し訳程度の水をすくい、鍾離の膝下目掛けて水を飛ばす。少しだけ濡らすことはできたが、こんな事をして楽しいと感じる凡人の気持ちはさっぱりわからない。
    「もっと掛けてもらっても構わない。ではまた俺からいこう」
     例えば、これが水を避けてもいい合戦のような状態ならまだ良かったのだが、掛けられた水は受けなくてはいけないようだ。
     鍾離の放った水は、今度は魈の胸元にびっしょりとかかり、上半身はだいぶ濡れそぼっている状態になった。衣服が肌に張り付く感じがしていて、脱いでも良いなら脱ぎ去りたいところだ。
    「む。掛けすぎたか。加減が難しいな」
    「いえ……大丈夫です」
     もう一度水を鍾離に掛けなければいけないと決意したところで鍾離を見ると、顎に手をやり、何か考え込んでいるようだった。
    「なるほど。水掛けをすることの醍醐味というのが理解できたような気がする」
    「えっ、そ、そうなのですね。それは……どのようなことでしょうか」
    「魈も……俺のこの辺りに水を掛けてみるといい。たっぷりとな」
    「は、はぁ……」
     もうこうなればやるしかないと、力の限り鍾離に向けて水を掛けた。ばしゃあ。っと手に勢いをつけすぎたせいで、鍾離の顔にも服にも水が掛かり、びしょ濡れになってしまっていた。
    「も、申し訳ございません……」
    「いやいい。これくらいで充分だ」
     何をお気に召したのかもわからないが、鍾離は上機嫌のように見えた。鍾離の髪や顎からポタポタ落ちる水が、既にびしょ濡れの衣服に落ちている。張り付いた中のシャツに皺が寄り、少し透けているように見えた。
    「あっ」
     これは見てはいけないもののような気がして、鍾離から目線を外した。これは目に毒である。そう、とても。何がどうとは言い表せられないが、とにかく今の鍾離を直視するのは危険なのだ。
    「概ね魈も理解できたということだろうか」
     概ねも何も、鍾離の言わんとしていることは理解できた。そして、おそらく鍾離も自分と同じ気持ちを持って魈を見ているということも理解してしまった。
    「はい……おそらくは……あの……我が乾かしますので、少々お待ちください」
    「……冷えてしまったな。湯にでも浸かりに行こうか。服はその間にでも乾かしておけばいい」
    「あ、は、い……」
     鍾離の洞天へ連れて行かれ、衣服を外に干して湯に浸かった。乾くまでの間洞天にいればいいと言われ、睡衣を着せられしばらく寝台で休んでいたことは、誰も知らなくて良い話である。
     おのれ……まさかこんなにも水遊びが危険なものとは。
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