四季ブロークン日本に梅雨はあるか?ここ数年の異常気象からすると珍しく、長雨が続いている。六月になるとああ梅雨かと思うのに、実際はゲリラ豪雨や雨上がりの蒸し暑さのみで、しとしとふりつづく雨の憂鬱さみたいなものは遠のいていた。乱高下する天気は気象予報士だけでなく我々資格のない人間も悩みどころであるため、雨の降る日が続くのであればそれはそれでよかった。予定は立てやすいし、断りやすくもある。靴やスラックスの裾が濡れるのは面倒だが、仕方ない。突発的な豪雨よりはマシである。きちんと準備をして毎日を過ごせばいい。それだけだ。
それだけのはずだったのだが、私は今、情けなくもいつも着用しているバイカラーのシャツを十枚抱え、獅子神邸にいた。食中毒やら子供の風邪が感染したのやらで一時的に人手不足となり、本職の勤務が長引いた。賭場にも行かなくてはならない。それらが重なり、クリーニングに出しても取りに行くのが間に合わないことが多くなってしまった。自分で洗えないことはないのだが、気力がない。自宅にあるアイロンは兄貴に押し付けられて以来開封していないし、アイロン台もどこに片したか忘れた。愚痴を重ねるならば濡れた衣類の重みや湿り気が嫌いだ。触りたくない。かといってやらなければ職場に着ていくものがない。決まったものでなければ落ち着かない性分が憎いが、こればかりは仕方がなかった。
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