2私が6歳になる前日、母は私を本家に連れて行った。
ごくごく普通に暮らし、呪いとは無縁と思い安心しきっていた母は奈落の底に落とされる。
「この子供には呪力が全く無い」
天与呪縛
きっとこの子にはなんらかの「ギフト」がある。
私は母と年老いた本家のお偉方の話をぼんやりと聞いていた。
「この子は運動ができるか?」
「いえ……幼稚園ではごく普通と言われていますし、特に感じた事はありません……」
「フィジカルギフテッドではないのか…?」
「天与呪縛ではありません……!普通の子供です……!」
母の焦りが幼い私にも伝わってきた。
でも、何故焦っているのか分からなかった。
小一時間ほど押し問答は続いただろうか。話は平行線だったようだが、鶴の一声で決着は着いた。
「実は本家で預かる」
私はそのまま本家に残された。
母は数人の黒服に連れ出され、私が本家を出るその日まで会う事すら許されなかった。
明日6歳の誕生日を祝うという日にわけも分からないまま私は家族と引き離された。
私は広めの和室に連れて行かれ、そこに一人取り残された。障子の外には見張り役のような黒服が数人いたように思う。
恐怖と、不安と、寂しさで私は泣き続けた。
声を上げて泣いた。両親を呼び続けた。
しかし、障子が開いて両親が現れる事はなかった。
私はその日、多分一生分泣いた。
食事の用意をされても、お風呂を使うかと聞かれても私は会話すら拒否し、世話役と思われる老齢の女性が敷いてくれた布団で泣き疲れて眠った。
次の日、一人の女性が私のもとを訪れた。
水色の綺麗な着物を着たその女性は、大きなお腹をしていた。
その女性は人払いをすると、お腹を庇いながら静かに私の正面に正座をすると、できる限りという感じで両手をついてゆっくりと頭をさげた。
「本当にごめんなさい……」
何を謝っているのか分からなかったが、私の頬をまた涙が伝うのは分かった。
あぁ、本当にもう両親には会えないのだと最後通達を受けた感じだった。
女性は頭を上げて放心状態の私の顔を見た瞬間、顔をくしゃくしゃにして涙を溢した。静かに、だけど次々と溢れ出てくる涙。私の方が驚いた。
彼女は私の頬の涙をそっと拭うと、優しく抱き締めてくれた。
「私はあなたの味方です。徹底的に戦います。あなたのご両親に代わって、絶対にあなたを守ります。そしてあなたをご両親の元に帰します。」
小さな声。
でも決意を感じる言葉。
私は彼女にしがみついてまた泣いた。
ちょうど母と同じくらいの年齢の女性の抱擁に安心したんだろうと思う。
二人でひとしきり泣いた後、彼女は涙に濡れた瞳のままでお腹を擦りながら微笑んで言った。
「あなたの弟になると思う。よろしくね」